事業再生が変わる?早期事業再生法
2025年6月6日に「早期事業再生法」が国会で可決されました。この法律は日本の「事業再生」の進め方を変えるものとして注目されます。ここでは、法律の主な点を紹介します。2026年中に施行されることになっていますので、今後具体的な動きがでてくると思います。
早期事業再生法とは?
「早期事業再生法」とは、正式名称を「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律」といい、2025年6月6日に国会で可決・成立し、6月13日に公布されました。施行は公布から1年6か月以内に政令で定められた日となる見込みで、2026年中の施行が予定されています。
この法律の意義は、従来の「全員同意」が前提だった私的整理に、債権者の多数決原理(議決権額の3分の2または4分の3以上の同意)と裁判所による認可制度を導入したことにあります。この点が日本の事業再生における画期的な転機といえるでしょう。
背景と導入の経緯
コロナ禍以降、日本企業全体の債務残高が120兆円以上増加し、2024年には倒産件数が11年ぶりに1万件超に達するなど、経済が厳しい状況に。今後も円安・物価高・金融引き締めなどで追い打ちが予想されます。これらを受け、事業価値の毀損や技術・人材の流出を防ぎつつ、早期再生を促すための制度が求められていました。
政府は「私的整理の円滑化」を政策課題とし、2024年から産業構造審議会などで検討を重ねた結果、2025年2月に報告書を公表し、3月には法案の閣議決定へ。最終的に6月に成立したという流れです。
従来の私的整理との比較
・全員同意の壁:従来の私的整理では、対象債権者の1社でも反対すれば手続が進まず、結果として抜本的な再建策が先送りになるケースが多く見られました。
・多数決と裁判所認可:新制度では、経済産業大臣指定の**第三者機関(指定確認調査機関)**が関与し、債権者集会で多数決、そして裁判所の認可によって進行。これにより、反対する少数債権者の異議を押し切る(クラムダウン)形の再生が可能になります。
・倒産手続との違い:早期事業再生法は倒産手続ではなく、倒産前の早期再建を目的とする手続。否認権、担保権処理などの倒産法の複雑な制度は適用されず、非公開性が担保されることで事業価値の保護が期待されます。
M&Aや事業再生への影響
「早期事業再生法は、長年“全員同意”が前提だった私的整理に多数決原理を導入する画期的な新法であり、民事再生法以降、事業再生の転換点となる」と位置づけられます。この新法はM&Aを含む再生フェーズの企業に大きな影響を与える可能性があります。
多数決で議決された再生計画が裁判所に認可されれば、M&Aの際に一部の債権者による反対で進捗が止まるリスクが大幅に減少します。これにより、迅速かつ確実な再建スキームとしてM&A戦略との連携も進む可能性があります。
早期事業再生法の手続きステップ
(1)事業者からの申請
・経済的に窮境に陥るおそれのある事業者が、経済産業大臣が指定する「指定確認調査機関」に対して申請。
・申請段階で提出するのは、再生計画の骨子(リスケジュールや資金繰り改善の方向性など)。
・この時点では倒産手続ではなく、事業継続を前提とした「早期の再建」を目的としています。
(2)指定確認調査機関による調査
・指定確認調査機関(例:公認会計士や弁護士が所属する認定組織)が、事業者の財務状況や再生可能性を調査。
・この事業計画が実現可能性を有するか」「債権者の公平性は担保されているか」を検証。
・調査報告書を作成し、手続の信頼性を確保します。
(3)債権者集会の開催
・再生計画案をもとに金融債権者による会議を開催。
・議決は「議決権額ベースの多数決(例:3分の2または4分の3以上の賛成)」によって行われます。
・ここで、従来の私的整理における「全員同意の壁」を突破できるのが最大の特徴です。
*ただし対象はあくまで金融債権(銀行など)に限定され、一般の商取引債権や労働債権は対象外。
(4)裁判所への認可申立て
・債権者集会で多数決による賛成を得た計画案を、裁判所に提出。
・裁判所は「手続の適法性」「少数債権者の利益が不当に害されていないか」「公平性」を審査。
・問題がなければ裁判所が再生計画を認可します。
(5)再生計画の効力発生
・認可が下りた再生計画は、反対した少数債権者を含めて全ての対象金融債権者に効力を持つ(クラムダウン効果)。
・これにより、個別の反対債権者が進行を妨げることができなくなり、迅速な事業再生が可能に。
(6)再生計画の実行
・事業者は、リスケジュールや資本増強、事業再編やM&Aなどの具体策を計画に従って実行。
・指定確認調査機関や裁判所がフォローする仕組みが整備され、進捗をモニタリング。
・必要に応じて、追加の調整や変更を申請することも可能。
「指定確認調査機関」とは?
「指定確認調査機関」は、経済産業大臣によって指定される中立・専門性を有する第三者機関で、早期事業再生法の手続きを適正に運営するために欠かせない存在です。
主な役割や機能
・利用要件の「確認」
事業者(確認事業者)が申請する際、申請内容が制度の利用要件を満たしているかを確認します。たとえば、経済的窮境、清算価値保障、集会での可決見込み、法的整理に入っていないことなどです。
・確認調査員の選任と調査実施
機関は一つの法人として、案件ごとに人格が高潔で見識ある確認調査員を選任し、詳細な調査を行います。
・一時停止の要請
「一時停止の要請」とは、手続開始後から債権者集会決議までの間、債権者による権利行使(回収や担保実行など)を控えるよう、対象債権者に要請することです。
・調査と報告(財産評定・計画内容等)
財産評定、再生計画案、権利変更議案について、法令に適合するか、公平性や履行可能性が担保されているかを調査し、報告書を提出します。
指定される機関はどのような法人か?
・要件を満たす法人
指定を受けるには、「対象債権者の権利変更手続全体の円滑な実施」「計画案・議案の適切な調査」「確認調査員の適正な選任」などを行える経理的・技術的な基礎を備えた法人である必要があります。
・中立かつ専門性を備えていること
「事業再生に関する専門的知識および実務経験を有する者」であることが、規程によって求められています。
・さらに、確認調査員の選任プロセスの透明性や資格要件にも厳格な運用が求められており、事業再生ADR等よりも高いレベルでの基準設定がなされています。
早期事業再生法は、従来の「全員同意」方式の私的整理に対して、多数決+裁判所認可を導入した革新的な制度です。対象は「経済的に窮境に陥るおそれのある事業者」であり、主に金融債権を対象に、倒産前の早期再建を目的としています。非公開ながら裁判所の関与があり、スピーディかつ信頼性の高い再生が期待されます。
また、この制度は単なる再建手段にとどまらず、M&Aや企業再編といった戦略的な事業再生と密接に結びつくことが見込まれ、今後の日本の事業再生スキームにおいて大きな役割を担う可能性があります。
これから、順次、具体的な施策が公表されると思いますので、順次、情報提供を行っていきます。