粉飾決算はなぜ起きるのか
~事業再生の現場から考える「正しい決算」と会社再建~
当社では、中小企業の経営改善や事業再生についてご相談を受けると、まず過去3期程度の決算書を確認し、会社の財務状況を分析するところから始めます。
ところが、決算書を詳しく見ていくと、「この売掛金は本当に回収できるのだろうか」「なぜ利益が出ているのに現預金がこれほど少ないのか」「この在庫は本当に現在も存在しているのか」といった疑問が出てくることがあります。
さらに、試算表、預金通帳、売掛金明細、借入金明細などと照合していくと、決算書に記載された数字と会社の実態に大きな乖離があることが分かる場合があります。
いわゆる「粉飾決算」です。
粉飾決算というと、経営者が意図的に架空売上を計上して金融機関を騙す、といった悪質なケースを想像するかもしれません。
もちろん、そのようなケースもあります。
しかし、中小企業の事業再生の現場では、必ずしも最初から金融機関を騙そうとして始まったとは限りません。
「赤字決算にすると銀行から融資を受けられなくなるのではないか」
「債務超過になれば融資を止められるのではないか」
「今年だけ何とか黒字にしておけば、来年は業績が回復する」
こうした思いから始まった小さな数字の操作が、数年続くうちに大きな粉飾へ発展してしまうことがあります。
しかし、どのような理由があったとしても、粉飾によって会社の経営状態が改善するわけではありません。
むしろ、事業再生を難しくする大きな要因になります。
今回は、事業再生を支援する立場から、「粉飾決算」について考えてみたいと思います。
粉飾決算とは
粉飾決算とは、会社の実際の財政状態や経営成績とは異なるように決算内容を操作し、会社の業績や財務内容を実態より良く見せることをいいます。
代表的な方法には、次のようなものがあります。
- 架空の売上を計上する
- 架空の売掛金を計上する
- 回収できない売掛金をそのまま資産として残す
- 在庫の数量や評価額を水増しする
- 本来計上すべき仕入や経費を翌期へ繰り延べる
- 赤字となっている工事や案件の損失を計上しない
- 価値がなくなった資産を減損・除却せず残す
- 仮払金、貸付金など実質的に回収できないものを資産として残す
- 関係会社との取引によって売上や利益を作る
- 本来計上すべき債務を計上しない
例えば、本当は1,000万円の赤字であっても、在庫を1,500万円水増しすれば、帳簿上は500万円の利益を出すことができます。
しかし、当然ながら1,500万円の現金が増えるわけではありません。
「利益は出ているのにお金がない」という状態が生じます。これが粉飾決算の大きな特徴です。
なぜ粉飾決算が行われるのか
中小企業における粉飾の最大の動機の一つは、金融機関への対応だと考えられます。
銀行融資を受けている会社では、毎年、金融機関へ決算書を提出します。
経営者としては当然、
「赤字になったら銀行からどう見られるだろう」
「追加融資が受けられなくなるのではないか」
「債務超過になったら借入金を返せと言われるのではないか」
という不安を抱きます。
その結果、「今期だけ少し数字を良くしよう」という判断をしてしまうことがあります。
ところが、ここに大きな落とし穴があります。
一度粉飾すると、翌年度にはさらに大きな粉飾が必要になることがあります。
例えば、回収不能になった1,000万円の売掛金を決算書に残したとします。
翌年度になっても、その売掛金は当然入金されません。
そこで売掛金を消去すれば1,000万円の損失が発生します。
その損失を出せないため、さらに別の売上や在庫を水増しする――。
こうして、「粉飾を隠すために、さらに粉飾する」という悪循環に陥っていきます。
その結果、実際の純資産はマイナス3,000万円なのに決算書ではプラス1,000万円、実際には大幅な赤字なのに決算書では毎年わずかな黒字、といった状態になってしまいます。
粉飾決算が発覚すると何が起こるのか
最も大きな問題は、金融機関からの信用を失うことです。
金融機関にとって決算書は、融資判断の重要な基礎資料です。
その資料が事実と異なっていたとなれば、それまでの融資判断の前提そのものが崩れます。
その結果、新規融資の停止、融資条件の厳格化、追加資料の提出要求、金融機関による詳細な財務調査などにつながる可能性があります。
さらに深刻なのは、事業再生を進めようとするときです。
経営改善や事業再生では、金融機関に返済条件の変更、いわゆるリスケジュールを依頼したり、場合によっては追加の資金支援をお願いしたりします。
ところが、その前提となる決算書の信頼性が失われていれば、「そもそも、この会社の数字はどこまで信用できるのか」というところから確認しなければなりません。
また、粉飾した決算書等を用いて金融機関から融資を受けた場合には、その態様によっては民事上の責任だけでなく、刑事上の問題へ発展する可能性もあります。
粉飾は単なる「会計上の問題」では済まない場合があるのです。
金融機関は粉飾決算を見抜けるのか
経営者から、「銀行は決算書しか見ていないから分からないのではないか」という話を聞くことがあります。
しかし、金融機関も決算書だけを見ているわけではありません。
例えば、次のような変化は重要なチェックポイントになります。
・売上が増えているのに預金が増えていない。
・利益が出ているのに借入金が毎年増えている。
・売上の伸び以上に売掛金が増えている。
・何年も同じ売掛金が残っている。
・在庫が売上に比べて異常に増えている。
・仮払金、貸付金、立替金などが多額になっている。
・営業利益は黒字なのにキャッシュフローが継続してマイナスになっている。
こうした数字を数年間並べることで、不自然な動きが見えてきます。
金融機関はさらに、預金口座の動き、借入状況、税金の支払状況、商流、主要取引先など様々な情報を持っています。
近年は金融機関側でも、決算書だけではなく事業内容や資金使途、業種特性などを踏まえて企業の実態を把握する「事業性」の理解が重視されています。
したがって、「粉飾しても銀行には分からない」と考えることは非常に危険です。
すぐには発覚しなかったとしても、資金繰りが悪化し、追加融資やリスケジュールを申し込んだ段階で詳細な確認が行われ、過去の数字との矛盾が表面化することがあります。
粉飾決算がある場合、まず何をすべきか
では、すでに粉飾決算を行ってしまっている会社はどうすればよいのでしょうか。
最も避けるべきなのは、
さらに粉飾を重ねることです。
まず必要なのは「実態把握」です。
決算書を一度横に置いて、
- 現預金はいくらあるのか
- 売掛金はいくら回収できるのか
- 回収不能債権はいくらあるのか
- 在庫は実際にいくらあるのか
- 資産として計上されているものに本当に価値があるのか
- 未計上の債務はないか
- 税金や社会保険料の滞納はないか
- 借入金はいくらあるのか
などを一つずつ確認します。
そして、決算書上の数字ではなく、実態ベースの貸借対照表(実態BS)を作ります。
例えば決算書上の純資産が2,000万円あっても、回収不能売掛金2,000万円、過大在庫1,000万円が判明すれば、実態では1,000万円の債務超過ということになります。
厳しい数字であっても、ここが事業再生のスタート地点です。
そのうえで、
「本業で利益を出せるのか」
「今後の資金繰りは維持できるのか」
「借入金をどこまで返済できるのか」
「金融機関にどのような支援をお願いするのか」
を検討します。
粉飾が判明した場合の金融機関への説明については、タイミングや説明方法を慎重に検討する必要があります。
単に「以前の決算は間違っていました」と伝えるだけではなく、なぜ実態との乖離が発生したのか、実態はいくらなのか、今後どのように改善するのか、再発防止をどうするのかまで整理したうえで説明することが重要です。
粉飾をしなくても済む会社をつくる
もっと重要なのは、そもそも粉飾を必要としない経営を行うことです。
そのためには「決算書を作る経営」から「月次で数字を見る経営」へ変える必要があります。
決算が終わってから、「実は1年間で1,500万円赤字でした」と分かっても、できる対策は限られています。
毎月、売上、粗利益、営業利益、現預金、売掛金、在庫、借入金、資金繰りを確認していれば、経営悪化の兆候を早い段階で把握できます。
特に重要なのが資金繰り表です。
利益と現金は違います。
黒字であっても、売掛金が増えたり、在庫が増えたり、借入金の返済が大きかったりすれば、現金は減ります。
逆に、赤字であっても一時的には資金が残っている場合があります。
したがって経営者は、「今月はいくら利益が出たか」だけではなく、「半年後、1年後に会社にいくら現金が残るのか」を見る必要があります。
現在は国も、中小企業の経営状況の変化を早期に把握し、金融機関や支援機関が連携して経営改善を進める仕組みを強化しています。
経営が苦しくなってから数字を隠すのではなく、悪化の兆候が見えた段階で金融機関や専門家に相談する。
これが、結果として会社を守ることにつながります。
粉飾があっても「事業再生を諦める」必要はない
粉飾決算がある会社から相談を受けた場合、私たちが最初に行うべきことは、経営者を責めることではありません。
もちろん、粉飾を正当化することはできません。
しかし、「なぜ、そのような決算になったのか」を確認することは重要です。
・経営者が金融機関への返済を続けるために行ったのか。
・会社や従業員を守ろうとして問題を先送りしたのか。
・経理処理について十分理解していなかったのか。
原因によって、今後取るべき対応も変わります。
大切なのは、粉飾が判明した時点から「正しい数字に戻す」ことです。
そして実態財務を把握し、正常収益力を分析し、資金繰りを予測したうえで、
経営改善、金融機関への返済条件変更、資産売却、不採算事業の整理、事業譲渡・M&A、場合によっては廃業など、会社に残された「出口」を検討します。
事業再生において重要なのは、過去の決算書をきれいに見せることではありません。
「現在の会社の実態を正確に把握し、これからどうするかを決めること」です。
「銀行に見せる数字」ではなく「経営に使える数字」を
粉飾決算の根本には、「決算書は銀行に見せるもの」という考え方があるように思います。
しかし、本来、決算書や試算表は経営者自身が会社の状態を知るためのものです。
赤字になったのであれば、「なぜ赤字になったのか」を分析すればよいのです。
資金が不足するのであれば、「いつ、いくら不足するのか」を早く把握し、対策を考えればよいのです。
金融機関に対しても、悪い数字を隠すことより、悪化した原因を説明し、改善策を示し、実行状況を報告することの方が、中長期的な信頼関係につながります。
粉飾によって一時的に時間を稼ぐことはできるかもしれません。
しかし、その代償として会社再建に必要な「信用」と「時間」を失ってしまえば、本末転倒です。
経営が苦しくなったときこそ、早めにご相談ください
株式会社事業パートナー九州では、中小企業の経営改善・事業再生についてご相談を受けています。
「利益は出ているはずなのに資金が残らない」
「銀行への返済が厳しくなってきた」
「売掛金や在庫が膨らんでいる」
「実際の資産内容と決算書の数字が合っていない」
「金融機関に本当の状況をどのように説明すればよいか分からない」
「過去の決算内容に問題があり、どう修正してよいか分からない」
このような状態であれば、資金が完全に行き詰まる前に対応することが重要です。
当社では、決算書を見るだけではなく、実態財務、収益性、資金繰り、借入金の状況、事業そのものの収益力などを確認し、会社にとって現実的な「出口」を一緒に検討します。
事業再生は、悪い数字を隠すことから始まるのではありません。
悪い数字も含めて会社の本当の姿を明らかにすることから始まります。
会社に資金と信用が残っているほど、選択肢は多くあります。
「まだ何とかなる」と問題を先送りするのではなく、「まだ何とかできる」段階で対策を始めることが、会社を守るための第一歩です。
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