会社を畳むのはパワーがいる
後継者がいない中小企業経営者に知ってほしい「廃業」の現実
「会社をつくるのと、会社を畳むのとでは、どちらが大変でしょうか。」
多くの経営者は、会社を設立するときには大きなエネルギーを使ったと感じていると思います。しかし、実際に廃業の支援を行っていると、「会社をつくるよりも、会社を畳む方が大変である」と感じる場面が少なくありません。
会社の設立は、資本金を準備し、定款を作成して登記を行い、税務署などへ必要な届出をすれば、比較的短期間で進めることができます。
ところが廃業の場合はそう簡単ではありません。
取引先との契約、従業員、売掛金・買掛金、税金、社会保険、固定資産、借入金、役員借入金、賃貸借契約など、長年の経営によって積み上がったものを、一つひとつ整理しなければならないからです。
特に中小企業では、経営者が高齢になり、
「子どもは会社を継がない」
「従業員にも後継者がいない」
「自分もそろそろ引退したい」
「しかし、会社をどうやって終わらせればよいのか分からない」
というケースが増えています。
今回は、中小企業が会社を畳む際に、どのような手続きや問題が発生するのかを整理してみたいと思います。
借入金がなくても、廃業は簡単ではない
「銀行借入がないから、会社を閉じるのは簡単だろう」
そう考える経営者もいらっしゃいます。
確かに金融機関から多額の借入がある会社と比較すれば、金融機関との交渉がない分、負担は小さくなります。
しかし、借入金がゼロだからといって、会社をそのまま閉じられるわけではありません。
例えば、次のような問題を整理する必要があります。
- 税務署・都道府県・市町村への届出
- 法務局での解散・清算結了登記
- 売掛金・買掛金など債権債務の整理
- 在庫商品の処分
- 建物・機械・車両など固定資産の処分
- 賃貸借契約やリース契約の解約
- 従業員の退職手続き
- 社会保険・労働保険関係の手続き
- 株主や役員との関係整理
- 役員借入金・役員貸付金の処理
- 最終的な法人税等の申告
つまり、廃業とは「営業をやめること」ではありません。
会社の中に残っている資産・負債・契約・権利義務をすべて整理し、法人そのものを終了させる作業なのです。
特に注意したい「役員借入金」
中小企業の廃業で意外に問題になるのが「役員借入金」です。
例えば、会社の資金繰りが苦しい時期に社長が個人のお金を会社へ入れ、そのまま長期間残っているケースがあります。
帳簿上、「役員借入金 2,000万円」といった金額が残っている会社も珍しくありません。
会社に十分な現預金があれば社長へ返済できます。しかし、返済する資金がなければ簡単ではありません。
社長が「自分のお金だから放棄すればよい」と考えても、債務免除によって会社側に利益が生じ、税務上の問題が発生する可能性があります。
逆に「役員貸付金」が残っている場合には、会社が社長等に対して持っている債権ですから、清算時にはその回収をどうするのかという問題が生じます。
廃業を決める前に、貸借対照表に残っている役員との債権債務を確認することが重要です。
建物や機械はどうするのか
製造業、建設業、運送業などでは、建物、機械設備、車両、工具など多くの固定資産を保有しています。
会社を廃業する場合には、これらについても、
「売却するのか」
「廃棄するのか」
「経営者個人へ移すのか」
「別の事業者へ譲渡するのか」
を決めなければなりません。
帳簿上の価格がほとんどゼロになっている古い機械でも、実際には中古市場で価値がある場合があります。
一方、売却できない設備については、撤去・廃棄するために逆に費用が発生することもあります。
不動産を会社が所有している場合はさらに重要です。
不動産を売却して現金化するのか、経営者等が取得するのかによって、税務上の取り扱いも変わってきます。
したがって、廃業を考える際には、会社に「何が残っているのか」を棚卸しすることが最初の重要な作業になります。
会社を廃業する基本的な流れ
株式会社を通常清算する場合、大きな流れは次のようになります。
(1)廃業方針の決定
まず、本当に廃業するのか、第三者への事業承継やM&Aの可能性がないのかを検討します。
(2)資産・負債・契約関係の確認
現預金、売掛金、在庫、不動産、機械設備、借入金、買掛金、役員借入金、リース契約などを一覧化します。
(3)営業終了に向けた準備
取引先への説明、従業員への説明、売掛金の回収、在庫削減、契約の解約などを進めます。
(4)株主総会で解散を決議
会社法上の手続きとして解散を決議し、清算人を選任します。
(5)法務局で解散・清算人の登記
解散後、必要な登記手続きを行います。
(6)債権者への公告・債務整理
会社の債権者に対して必要な公告等を行い、債務を確定・弁済します。
(7) 税務申告・資産処分
固定資産や在庫等を処分し、必要な税務申告を行います。
(8)残余財産の確定・分配
すべての債務を支払った後に財産が残れば、株主へ分配します。
(9)清算結了
決算報告を承認し、法務局で清算結了登記を行います。
ここまで終わって、ようやく法人としての会社が終了します。
したがって、「仕事をやめた日=会社がなくなった日」ではありません。
営業を終了してから法人の清算が終わるまでには一定の期間が必要です。
借入金が多い会社は、さらに難しくなる
問題がさらに複雑になるのが、金融機関から多額の借入があるケースです。
会社の資産をすべて処分しても借入金を返済できない場合、通常の清算だけでは会社を終了できない可能性があります。
この場合には、
- 金融機関との個別交渉
- リスケジュール
- 私的整理
- 経営者保証に関するガイドラインの活用検討
- 中小企業の事業再生等に関するガイドライン等の活用
- 特別清算
- 法人破産
などを検討することになります。
また、社長が会社の借入について個人保証をしている場合には、会社だけでなく経営者個人の生活再建まで含めて考えなければなりません。
ここで重要なのは、「もう会社を続けられない」となってから専門家へ相談するのではなく、資金が残っている段階で出口戦略を検討することです。
廃業にもお金がかかります。
従業員への給与・退職金、税金、社会保険料、専門家への報酬、設備の撤去費用、原状回復費用など、会社を終わらせるための資金が必要だからです。
資金を使い切ってからでは、選択できる方法が大きく減ってしまいます。
高齢経営者ほど「元気なうち」に出口を考える
中小企業の経営者から、「あと2~3年は続けようと思っている」という話をよく聞きます。
もちろん、元気で会社も利益を出しているのであれば、事業を続けること自体に問題はありません。
しかし、後継者が決まっていないのであれば、同時に「最後をどうするのか」も考えておく必要があります。
経営者自身が病気になったり、判断能力が低下したりしてからでは、廃業手続きを進めることそのものが難しくなります。
理想的なのは、「事業承継できれば承継する。売却できればM&Aを検討する。それが難しければ、余力のあるうちに計画的に廃業する」という複数の出口を準備しておくことです。
会社を畳むことは、経営の失敗ではありません。
長年続けてきた会社をきちんと整理し、取引先、従業員、金融機関などに迷惑をかけない形で終わらせることも、経営者にとって重要な最後の仕事だと考えています。
廃業は「一人で全部やろう」としない
廃業には、経営、財務、税務、登記、労務、金融機関対応など複数の分野が関係します。
そのため、税理士、司法書士、社会保険労務士、弁護士など、それぞれの専門家との連携が必要になる場合があります。
ただし、経営者自身が、
「何を誰に相談すればよいのか分からない」
というケースも少なくありません。
だからこそ、廃業支援では単なる手続き代行だけではなく、会社全体を見ながら、終了までの工程を設計する役割が重要になります。
事業パートナー九州の「廃業支援」
株式会社事業パートナー九州では、事業再生・経営改善だけでなく、会社の「出口戦略」の一つとして廃業支援にも取り組んでいます。
実際の支援では、単に「会社を解散しましょう」という話から始めるのではありません。
まず会社の決算書や資産・負債、借入金、固定資産、役員借入金、契約関係などを確認します。
そのうえで、
「会社に何が残っているのか」
「何を処分しなければならないのか」
「どの順番で進めるのか」
「誰に何を依頼するのか」
「どのくらいの費用が必要なのか」
を整理し、廃業までのロードマップをつくります。
金融機関から多額の借入がある会社についても、これまで事業再生や債務整理に関係する案件を支援してきた経験を踏まえ、金融機関対応や専門家との連携を含めて出口を検討します。
また、借入金がなくても、役員借入金、固定資産、税務・登記などの整理が必要な会社について、状況に応じた廃業の進め方をご提案しています。
「まだ元気だから」が相談のタイミング
会社を設立するとき、多くの経営者には夢があります。
一方、会社を畳むときには、長年経営してきた会社への思いもあり、なかなか決断できないものです。
しかし、会社は放っておけば自然になくなるものではありません。
そして、会社をきれいに終わらせるには、想像以上の時間と労力、そして資金が必要です。
「後継者がいない」
「自分も高齢になってきた」
「あと数年で引退したい」
「会社に借入金や資産が残っている」
「何から手をつければよいのか分からない」
このような場合、廃業を決定していなくても構いません。
むしろ、まだ会社に体力があり、経営者自身も元気なうちに出口を考え始めることが大切です。
事業承継、M&A、廃業、あるいは事業を縮小して継続する方法もあります。
株式会社事業パートナー九州では、これまでの事業再生・廃業支援の実績を生かし、経営者と一緒に「会社の最後の形」を考え、その実行まで支援しています。
会社をつくるのにもパワーがいる。
しかし、会社をきちんと畳むのには、それ以上のパワーがいる。
だからこそ、一人で抱え込まず、早い段階から準備を始めることをお勧めします。
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