【特集11】企業の倒産原因:第1位は「販売不振」
当社では、現在、幾つかの企業の「事業再生」「経営改善」に関わっています。これらの企業は、最近は赤字が続き、更に債務超過(財産よりも借金が多い状態)に陥り、このままの状態を放置すると倒産に至る経営状況です。そのため、金融機関等のご協力を得て、何とか生き延びるように、財務面や事業面の対策を行っています。
企業はどういった理由で「倒産」していくのかを把握することは、「事業再生」「経営改善」の取組みに参考になります。
2020年の倒産の原因
毎月、東京商工リサーチや帝国データバンクなどの企業調査機関は「倒産」の状況を公表しています。
本年(2021年)は6月時点まで公表されていますが、今回は、昨年(2020年)の倒産の状況の中で、「倒産原因」に関して紹介します。2020年の倒産の原因を次表に示します。
*その他には「連鎖倒産」「人手不足倒産」など
これを見ると、「販売不振」が全体の約77.3%で、その次が「既往のしわよせ」10.4%になっています。この2つの原因で、「87.7%」を占めています。
公表の資料では、こうなっていますが、倒産した企業は単一の原因ではなく、幾つかの原因が複雑に絡み合っている場合が多いです。
この上位2つの「販売不振」と「既往のしわよせ」に関して原因と対策について考えていきます。今回は「販売不振」の原因と対策を紹介します。
「販売不振」の原因と対策
「販売不振」による倒産は、売上が立たないことにより、資金繰りが苦しくなることで起こります。
売上高の減少の仕方については、主に2つのケースが考えられます。ゆっくりと減少していく場合と、急に減少する場合です。前者の場合は適切な管理指標を用いて早い段階から問題を認識し、対策を取ることが重要になります。後者の場合は、どれだけ迅速で抜本的な事業の見直しができるかが問題となります。
当社が関わっている企業の長期的な売上の推移を示します。
会社Cの場合は、業界全体の構造変化に対応ができなくて、長期的に売上が減少しているにもかかわらず、原因調査・対策ができてなく、新型コロナウィルス感染拡大による影響で急激に売上が減少したこと(利益も大幅に減少)により、あわてて相談に来られたケースです。
まずは原因を掴む
売上が減少した要因は、「外部要因」と「内部要因」の2つに分けることができます。
1 外部要因を検討する
外部要因を検討するには、
「環境要因」と「関係者要因」の両面で現状を分析して下さい。
環境要因
これの主なものは、「業界全体の景気(動向)」です。
これは、各業界の団体や調査機関が公表している統計データから予測がつきます。例えば「自動車の生産台数」「鉄鋼の生産量」「住宅の着工数」などです。これで自社が関連する大まかな動向がわかります。短期的な動向だけでなく、統計データを10年程度の推移にグラフ化し、自社の売上推移と比較すると業界全体と自社の動向の関連性を読み取ることができます。
更に、業界動向をより分類することにより、例えば、自動車であれば、「メーカー別」「車種別」「分類別(ガソリン車、ハイブリッド車、EV車など)」など、自社に対応した分類の統計データを検討することにより、販売不振の原因がわかる可能性があります。
上記の例に示したような「環境要因」による売上減少は、比較的緩やかな下がり方をしますが、今回の「新型コロナウィルス感染拡大」の場合、急激な変化を示します。先のグラフに示した「製造業」と「サービス業」の場合、年毎の集計と言うこともあり、気付くのが遅れる場合があります。グラフの「建設業」の場合は、月毎でグラフ化していますので、売上低下をすばやく知ることができ、対応が早くなります。
関係者要因
売上に大きな影響を与えるのは、より身近な関係者の状況です。これを検討するには、「ファイブフォース分析(5フォース分析)」で登場する5つのフォースの面で売上減少の原因を掴むのが有効と考えています。
ファイブフォース分析については以前の記事を参考にして下さい。
【1】既存競合会社(業界内での競争)の動向
売上減少の原因として大きいのが競合会社の動向です。競合会社の販促活動(チラシ、ネット販促など)により、自社の顧客が奪われて売上が減少します。まずは、自社の競合先を定めて、各社の状況を把握して、各競合先の状況を読み取り、対応策を検討することが必要です。
【2】新規参入企業の出現
飲食店や小売業の場合、同様の商売をする店が、近くに新規に出店した場合に売上面で大きなダメージを受ける可能性があります。これを防ぐためには、自社の商品・サービスの質を向上させることとこれまでの既存客を引き留める策の検討が必要です。
【3】代替品の出現
売上の減少の中で、自社での対応が最も難しいもので、内容によっては、既存事業を止めて新規事業に取り組む必要があります。次に示すように代替品の出現により、売上減少や事業の消滅が多く見られています。
・書籍や雑誌に対する電子書籍
・家庭用ゲーム機に対するスマホゲームアプリ
・音楽CDに対するネット配信
・フィルムカメラに対するデジタルカメラ
・デジタルカメラに対するスマートフォンカメラ
・航空機に対するテレビ電話システム *出張の減少
代替品の出現は、自社の製品・サービスに代わる価値を持つもので、同業他社の競合製品とは異なります。
代替品が出現したと判断した場合、その代替品と自社製品との比較(性能・コストなど)をして、対抗策を検討します。代替品にかなわないと判断した場合は、逆に代替品の取り込み、既存品の撤退、新事業への進出(事業再構築)などを検討する必要があります。
【4】買い手(顧客)の動向
消費者向けに販売を行っている会社であれば、消費者の動向、特に衣料や食品は嗜好の変化(流行)がありますので、常に同行を把握して、これに応じて生産や販売の計画を立てる必要があります。売上が流行に左右される業種の場合は、その売上はいずれ落ちて当然なのだと考え、別商品を作るなど、対策を練っておいた方が良いでしょう。
企業向けの事業を行っている会社であれば、取引している会社との取引内容(種類・数量・価格)がわかる管理を行い、変化が生じた場合に即時に対応できる体制を築く必要があります。
また、一つの顧客に依存するのではなく、計画的に顧客開拓を行い、主要な顧客に対する売上が落ちても他の顧客でカバーできる仕組みを構築する必要があります。
また、売上だけでなく、利益の面も考慮して、顧客別、商品別のABC分析を行って各顧客に対する取組み方針を検討することは意味があります。
【5】売り手(仕入先)の動向
現在、原材料や部品が入手できなくて、生産ができなくて、これにより売上が減少している企業があります。特に「半導体・電子部品」「木材」「鉄鋼品」などが最近話題になっています。
顧客様からだけでなく仕入先からの情報収集も密に行い異常を早く検知することと、複数の調達先の確保、代替品の選定などの非常事態への対応を意識的に行うことが必要です。
2 内部要因を検討する
外部要因だけでなく、企業の内部の問題で売上が減少することがあります。
【1】製品・サービスの質の低下
製品・サービスの質が低下してしまえば、いずれはお客様に気付かれてしまい、売上が減少してしまします。
原材料を安い物(質が落ちる物)に変える、従業員を減らす(対応が悪くなる)などを意図的に行い、売上減少が起こっているならば、元に戻すことも視野にいれるべきです。
ただし、製品。サービスの質は気付かないうちに落ちてしまう場合もあります。そのため、質の低下をいち早く気付くために、アンケート等でお客様の声を集めるなどの試みが大事になります。
【2】社員の質の低下
社員の質が低下し、一人当たりの売上が減少すると会社全体の売上も減少してしまいます。例えば、お客様と接する営業担当の質が落ちれば受注する仕事の量が減ったり、値切られたりして売上が減少します。
そうならないためには、社員の状況把握と社員教育による質の向上が必要です。
【3】既存顧客へのサービス低下
飲食店、美容室、小売店など消費者を対象にする会社だけでなく、会社を顧客にしている企業でも既存顧客の獲得・維持は売上の減少を食い止める効果的な方法です。
新規顧客の開拓よりも既存客の売上を上げる(購入単価を上げる、数量を上げる)方が効果は大きいです。売上が落ちている場合、既存顧客ごとの売上や利益の推移・内容を整理して、競合先に流れてないか、購入内容が変化してないかを掴み、適切な対応を行うことが重要です。そのためには、お客様との接点を多くすることが必要です。
【4】新規顧客の開拓不足
新規の顧客を開拓しなければ、売上はどんどんと減少してしまいます。飲食店や美容室のようなリピーターを得る仕組みの業種であっても、基本的に顧客数はさまざまな理由によって減っていくものです。
自社の顧客数が徐々に減っているのなら、新規顧客の開拓が不十分な可能性があり、新規顧客開拓を系統的に行うことが必要です。
ここでは、倒産原因で最も多い「販売不振」について紹介しました。ここで紹介したのはごくわずかな原因と対策です。当然、個別の企業にとって「販売不振」の原因は様々です。効果を上げるには、まずは現状の分析です。
弊社で、経営改善・事業再生に取り組む際は、いろいろな切り口で現状分析を行い、その結果から課題を抽出します。
経営改善や事業再生に関することで、お困りではありませんか?
豊富な実績を持つ事業再生のエキスパートが、貴社を支援します。
第2位 『既往のしわ寄せ』(ゆでガエル倒産)
次に、第2位の「既往のしわ寄せ」について紹介します。
「既往のしわよせ」とは
経営状態がだんだんと悪くなっているにもかかわらず、何も考えず、対策も行わず、「何とかなるだろうと」様子をみているうちに倒産していまうことを言います。別名「ゆでガエル倒産」と言います。
これは、相談に来られた会社の10年の売上の推移です。7年前から売上が減少しているにもかかわらず、手を打たず、気付いた時は自力での改善ができない状態に陥っていました。
まずは現状を見て下さい
次の場合は、直ぐに、当社にお問い合わせ下さい。異常に気付いていないかもしれません。10年分の決算書の売上や利益をグラフ化して眺めて下さい。何かがわかります。
1 2期続けて赤字になっている
2 2年続けて売上が減少している、右肩下がり
3 売上の変化はないが、利益が減少している
4 顧客さんからのクレームが増えている
5 社内の不良率が高くなっている
6 社員が元気がない、辞める人が増えている
7 会議では、社長ばかりがしゃべっている、従業員の反応が低い
8 DX、BPO、GAFA、RPA、SDGs、ESG、PB・・・意味がわからない
3期分の決算書と面談によるヒアリングで、経営診断を行います。
1 既往のしわ寄せの原因
既往のしわ寄せには外部要因、内部要因、幾つもの原因があります。
1 業界全体や取り扱っている商品の衰退(外部要因)
売上が減少しているということは、扱っている商品・製品が時代に合っていない可能性があります。状況によっては、ビジネスモデルの変革(事業再構築)が必要な可能性があります。
2 少数のお客に頼っている(外部/内部要因)
頼っているお客が経営不振に陥ったら、場合によっては連鎖倒産になってしまいます。また、お客さんが他社や海外からの調達に切り替えるかもしれません。
3 継続的な値引き要請への対応(外部/内部要因)
自社の生産性向上などでコストダウンが値引き額以上にできていれば対応もできますが、設備の老朽化による生産性の低下や人件費のアップなどでコストが上がり、継続的に利益が減っている場合は要注意です。
4 人材が育っていない(内部要因)
社員の教育を怠っていると企業は衰退の一途です。また人材が育っていないと、例えば成績を上げていた営業マンが辞めたら、その代りがいないとあっという間にお客さんは他社に流れてしまいます。
企業では、人に依存するのではなく、仕組み(組織)で動けるようにすることが大事です。
5 社長の成功体験(内部要因)
社長の成功体験は、悪い影響を与えることがあります。時代遅れの考えでは、現在の課題を解決することができない場合もあります。経営者は常に新しい情報を仕入れて「ゼロベース」で考えることが重要です。
3K「経験、勘、気合(根性)」は通用しない時代です。
2 「既往のしわ寄せ」の対策:意識を持って状況把握・先手の対策
経営はスピードが重要です。早く現状を把握して、早く対策を打つことが必要です。
「既往のしわ寄せ」は、現状を把握できていないことから始まります。
当社が現状把握でお勧めする手法は、次の3つです。
(1)月次決算(試算表)を早く行う(遅くとも翌月の5営業日まで)
(2)これに基づき、売上・利益の月次トレンドに表し、その傾向から危険度を判断して対策を打つ
(3)6ヶ月先までの資金繰り表を策定し、資金面の不安をなくす