経営改善・事業再生 2022年(1)
本記事は、以前のホームページに記載したものを整理したものです。
【1】企業の変革には『粗利益率の改善』が重要
(20220110)
「事業再生・経営改善」や「事業再構築補助金」の支援を行っている中で、企業の決算書を見る機会が多くあります。5期の推移を整理して眺めて見ると、対象会社の動きがよくわかります。
粗利益率が急に改善?
その中で、2つの会社の売上、粗利益、営業利益について紹介します。
A社、B社、両社ともに製造業です。最新期は前期に比べて売上は大きくは伸びていない(B社は減少)にもかかわらず、売上総利益(粗利益)は大きく伸びています。これに伴い、営業利益率も増えています。
今回は、粗利益の向上に関して紹介します。
損益計算書の構成
損益計算書の構成を、仮の数値を使って記載します。
損益計算書の中で、「当期純利益」が最後にあり、この数値が最終的な会社の利益になります。銀行などからの借入金はこの「当期純利益」から返済することになります。
この「当期純利益」の前に、利益項目として損益計算書の上から「売上総利益(粗利)」「営業利益」「経常利益」「税引前利益」があります。黒字または赤字の要因の大きさは、損益計算表上で、一番上が大きく下へいくほど小さくなります。
第1番目:売上総利益
第2番目:営業利益
第3番目:経常利益
第4番目:税引き前利益
第5番目:当期利益
これは単なる順序ではなく、利益を改善すべき順序になります。すなわち、「売上総利益」の改善が最も効果が大きいことになります。
売上総利益の改善ポイント
売上総利益=売上ー売上原価 ですので、
売上を増やすか、売上原価を下げることになります。
売上を増やす施策:単価×数量
1 製品の単価を上げる(高く売れる顧客に売る)
2 販売数量を増やす
売上原価を下げる施策
1 材料の購入価格の減少、材料のロスの低減
2 人件費の低減(生産性の向上)
3 外注費の低減
売上総利益が高くなった企業の施策
A社はどうしたか?
長らく経営不振に陥っていて倒産寸前までに追い込まれていました。外部からのアドバイスを受けて、販売価格(売上を増やす)と製造でのロス(売上原価を下げる)両方を検討しました。
販売価格は、これまで、ほぼ同じ単価で、原材料費が上がっても価格に転嫁をすることができていませんでした。また、製造している製品は「強い技術」を持っていることを認識していませんでした。
外部から営業部長を雇い入れ、顧客様と取引価格の折衝を行いました。調べると、競合品よりも性能が良いにもかかわらずかなりの廉価で納入していることがわかり、交渉で、ほぼ全ての顧客様に値上げを認めてもらいました。
また、製造現場の現状調査で、製造工程の中でムダが多くあり、このムダを少なくすることにより、売上原価(製造原価)を下げることができました。
B社はどうしたか?
顧客様ごとの売上とそれにかかる原価を算出し、整理を行いました。その結果、売上総利益が高いグループと低いグループがあることが判明しました。その違いは顧客様の業種にありました。
営業は、売上総利益が高い業種に力を入れ、その結果、前期と比べて売上は減りましたが、売上総利益が増える結果になりました。
両社に共通していることは?
強みの製品(技術)を持っていた
両社は、内部では気付いていませんでしたが、競合先の調査、顧客様からのヒアリングなどで、保有の製品(技術)が市場(顧客)で強いモノであることを認識しました。これにより、納入価格を上げたり、購入単価が高い顧客様に優先して納入することができるようになりました。
これにより、売上総利益が改善され、結果的に「当期純利益」を多く確保することができました。
新たな取組みに着手
既存事業の収益性を改善し、足元を固めたことにより、新事業(事業再構築)に取り組む体制(特に財務面)ができました。
今回の2社のように「自社の強み」を把握している中小企業は少ないと思います。顧客様の言いなり、すなわち「下請け」として存在しているところが多いと思います。
これからは従来以上に「変革」が求まられ、「変革できない企業」は市場から撤退せざるを得なくなります。外部の環境変化と内部の状況を把握して、自社の方向性を明確にすることが求められています。
当社では、経営改善(現状調査含む)や補助金の申請について、多くの実績があります。初回相談は無料ですので、現状を変えたい企業の方はお問い合わせ下さい。
【2】『経営改善』と『事業再生』の違い?
(20220221)
当社、(株)事業パートナー九州の主要業務として、『経営改善』と『事業再生』があります。
これまで、この両者の違いを明確に示していなかったので、今回、紹介します。
最初に『事業ドメイン』とは
以前に紹介しましたように、各企業では、自社の取り組む事業(生存領域)を決めて活動を行っていると思います。それを「事業ドメイン」と言います。
事業ドメインは、次の3つの要素で定義されます。
何を:提供する製品・商品を決めます
誰に:顧客・市場を決めます
どのように:その製品・商品をどうやって生み出すか?(製造や仕入)
その製品・商品をどうやって売るか?
『経営改善』とは?
経営改善とは、「事業ドメイン」の中の主に「どのように」の部分を改善することを意味していると考えています。
多くの場合は「何を」「誰に」に関しては、変更を行わない場合が多いです。
例えば、次のことが考えられます。
<生産性の向上策>
・生産性が高い設備に入れ替える
・生産性の面でネックの工程を見つけてその生産性を上げる
・今はやりの「DX」を取り入れる など
<販売促進>
・小売店での販売以外に「ネット販売」を行う
・店内での飲食だけでなく「テイクアウト」を行う など
<コストの低減>
・材料ロスの低減
・歩留まりの工場
・固定費、役員報酬の減額
・出張費や接待費の節約 など
<財務面の検討>
・リスケジュールにより銀行への返済額を一時的に減らす
・有価証券(株や会員権など)の保有資産の一部売却 など
『事業再生』とは?
『事業再生』の「再生」は、「再び生まれる・生まれ変わる」ということで、『経営改善』よりも大きな変化を意味します。『経営改善』の概念では立ち上がれない状況の場合が多くあります。
例えば、
・赤字が何年も継続している
・財産よりも借金が多い(債務超過)
・このままでは資金が3ヶ月持たない」 などの場合です。
この場合は、先に示した事業ドメインの要素の中で「どのように」だけでなく、「何を」「誰に」の要素も変えることを意味します。いわゆる「ビジネスモデル」や「戦略」の大幅な変更を意味します。
事業再生=「財務の再生」+「事業の再生」
事業再生は、財務の再生と事業の再生を同時に行う必要があります。
財務の再生
経営改善では、銀行への支払いを一時的に止めてもらうか返済額を減らすなどのリスケを行うことがあります。
事業再生では更に踏み込んだ、金融機関の債権放棄や第二会社方式の採用など思い切った策を講じる場合もあります。
事業の再生
財務の再生を行っても一時的にお金の心配が軽減されることはありますが、赤字が続く事業のままでは早い段階で破綻してしまいます。
事業再生が必要な企業は、赤字が続き、その累積で財務状況が悪化して、更に銀行や知人から借金することによってどんどんと財務状況が悪化していきます。
その悪化の元の原因が「既存事業が市場や顧客に受入れられなくなっている」ことによります。いわゆるビジネスモデルが崩壊している状態です。
これを立ち直らせるのは簡単ではありません。先に示した経営改善で行うような施策では解決できないことがほとんどです。
外部の環境、自社の強みを再度見直して、抜本的なビジネスモデルの変革、市場・顧客に受入れられ、収益性を高めることが必要になります。
事業再生は誰に相談するのか?
『経営改善』や『事業再生』が必要になったときは誰に相談しますか?
●税理士ですか?
税理士は税務申告や節税のプロですが、経営に関して知識や経験を持った方は少ないです。
●弁護士ですか?
弁護士も経営に関する知識や経験が少ないため、経験が多い「倒産や破産」の方向に導く可能性が多いです。
●商工会議所などの無料相談を受けますか?
この場合の相談員は責任がないため、一般的なアドバイスしか期待できません。
●では誰に?
ネットや書籍などの情報で幾つかの機関を選定して、何人かの候補者と話をして、経営者(社長)自身の判断で決めるのが最も良いと思います。
『事業再生』は支援者(パートナー)なしで行うのは非常に危険です。
【3】「中小企業活性化パッケージ」これは何?
(20220306)
2022年3月4日に「中小企業活性化パッケージ」というタイトルの新たな施策が「経済産業省・金融庁・財務省」の合同で発表されています。
サブタイトルは「コロナ資金繰り支援の継続と収益力改善・事業再生・再チャレンジの促進」、パッケージというだけあって、大きな要素がふんだんに詰め込まれています。
同時に、全国銀行協会の「中小企業の事業再生等に関する研究会」が『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』を公表しています(2022年4月15日適用開始)。
これらの全体を見ると、各中小企業がそれぞれの事業内容や経営状況に応じて、何らかの支援を受けられる可能性があると感じます。ただし、制度を知っていなければ何の意味もありませんので、当社にお問い合せ下さい。事業内容や経営状況に応じて、最適な経営・事業の進め方、その中で適用可能な補助金等があれば、その申請支援を行います。
「中小企業活性化パッケージ」の中には、当社も認定を受けている「経営革新等支援機関」の新たな役割が示され、支援に対する補助金も示されています。
中小企業活性化パッケージ
全体像を示します。「コロナ資金繰り支援の継続」と「中小企業の総合的支援」の2つの柱で構成されています。
この中で、当社が関係する施策の概要について紹介します。各施策や取り上げなかった施策については、必要に応じて取り上げていきます。
4 認定支援機関の伴走支援強化
当社はこれまでも「認定支援機関」として、「経営改善計画の策定及びその後のモニタリング」に関わってきました。
今回の施策では、改善計画の実行段階を重視し、その支援に対して補助金を出すことになっています。
5 収益力改善支援強化
中小企業再生支援協議会(4月1日に「中小企業活性化協議会」に改組)がコロナ禍で緊急的に実施している特例リスケジュール支援について、ポストコロナを見据えて収益力改善支援に変更します(4月1日以降)。
現在の特例リスケジュール支援(3月末まで)
(1)緊急的な金融支援(リスケジュール)の調整【必須】
金融機関の支援姿勢を確認した上で、中小企業に代わり、金融機関に緊急的な返済猶予を要請。
(2)資金繰り計画の策定支援
今後1年間の資金繰り計画の策定を支援
(3)収益力改善に向けた計画策定支援【希望次第】
事業者の希望に応じて、ポストコロナに向けたアクションプランの策定を支援
(4)定期的なモニタリング
(5)適切な支援策への移行
収益力改善にシフトした新たな支援(4月1日~)
(1)収益力改善に向けた計画策定支援【必須に変更】
ポストコロナに向け、収益力改善のためのアクションプラン等の策定を支援
(2)資金繰り計画の策定支援
今後数年間の資金繰り計画の策定を支援
(3)金融支援(リスケジュール)の調整【必要に応じて】
必要に応じて、金融機関の支援姿勢を確認した上で、中小企業に代わり、金融機関に返済猶予を要請。
(4)定期的なモニタリング
(5)金融機関との支援方針の目線合わせ
金融機関とアクションプランの進捗状況を確認し、今後の支援方針をすり合わせ。
(6)適切な支援策への移行
6 中小企業の事業再生等に関するガイドライン
全国銀行協会が中心になって、増大する債務(借金)に苦しむ中小企業の円滑な事業再生等を一層支援するため、関係者間の共通認識を醸成し、一体となって取り組みを進めるべく、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」を策定しています(4月15日適用開始)。
2001年から運用されている「私的整理ガイドライン」との違いを示します。今回のガイドラインは従来と比べて緩和されています。
「経営改善計画策定支援事業」の新ガイドライン枠
中小企業再生支援協議会(4月1日に「中小企業活性化協議会」に改組)による事業再生等の支援とともに、民間による事業再生等の支援を促進するため、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」に基づく私的整理を支援する制度が創設されます(4月15日から開始予定)。これまでは私的整理に対する補助金はありませんでしたが今回は設定され、これにより私的整理が進めやすくなると思っています。
1 主な補助対象要件
(1)「中小企業に関する事業再生等に関するガイドライン」の中小企業版私的整理手続に基づき私的整理を行うこと
(2)認定経営革新等支援機関による計画策定支援等を受けていること
2 補助率・補助上限
(1)補助率:3分の2
(2)補助上限:1案件につき、上限 700万円
・DD費用等:上限 300万円
・計画策定支援費用:上限 300万円
・伴走支援費用:上限 100万円
8 再生事業者の収益力改善支援の拡充
今回の施策では、事業再生中の企業も補助金が活用できるようになっています。
事業再構築補助金
通常枠よりも補助率を引き上げた「回復・再生応援枠」(補助率3/4(中堅2/3))を創設(再生事業者の加点措置も実施)。
ものづくり補助金(通常枠)
再生事業者の補助率引き上げ(2/3)、審査時の加点処置がされます。
11 一元的な支援体制の構築
これまでの「中小企業再生支援協議会」と「経営改善支援センター」が統合され、「中小企業活性化協議会」が発足します(4月1日発足予定)
当社の取り組み
当社もこれまで、認定支援機関として、「経営改善計画の策定」「事業再生の支援」、「経営革新計画・経営力向上計画の策定支援」、「事業再構築補助金・ものづくり補助金の申請支援」などに取り組んできました。
コロナ禍によって経営状況が悪化した企業、過剰な債務(借金)状態に陥った企業が今後更に増えて行くことが予測されます。今回、国としてもこの課題に対応するために早めに仕組み作りを行ったものと思います。
もう一つの、経営者の高齢化、後継者不足による「事業承継」「大廃業時代」の課題もあります。
また、世界的な政治的、経済的な不安定もあり、先が見えない状態になっています。今一度、現状を整理して、新たな取り組みを行うことが必要です。
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