事業承継・M&A・廃業 2021年(2)
本記事は、以前のホームページに記載したものを整理したものです。
【1】スモールM&Aでの企業調査(DD)
(20210223)
スモールM&Aの流れ
(株)事業パートナー九州が行っています、「バトンズ」のシステムを使った「スモールM&A」の6つのステップを示します。
M&Aアドバイザーの実施内容については、以前の記事を参照して下さい。
ここでは、会社・事業を売りたい方(売手)と買いたい方(買手)が基本的な内容に合意した後に、買手が主体となって行う「企業調査:デューデリジェンス(DD)」について紹介します。
DDの必要性
M&Aで会社や事業を買う側にとって、買ったあとに隠れた問題点が発覚して損失が発生するのは大きなリスクです。それを避けるために、買手自身によるDDが行われます。買手がM&A専門家、弁護士、公認会計士、社会保険労務士などに依頼して行われます。
次に主なDDの種類と実施内容を示します。
DDによって大きな問題が見つからなければ、買収条件を詰めて最終契約へ進みます。問題が見つかった場合は、最終契約までに修正することを契約の条件にしたり、譲渡価格で調整します。なお、重大な問題が見つかった場合は、M&Aそのものがご破算になる場合もあります。
スモールM&AでのDD
中小企業の場合、DDに費用を多く掛けられませんが、後のトラブルを防ぐには、実施は必須です。上記の全てのDDを実施するのではなく、対象の案件に応じて実施項目を絞って行うことがポイントになります。
費用を抑えて、短時間に、効果があるDDを行うためには、M&Aの専門家に相談することが望ましいです。
弊社では、バトンズ社のDDプログラムに則って、適切な価格で実施することが可能です。
【2】(事業承継の現場から)相続放棄の選択
(20210411)
多額の借金を、奥さん、子供さんに継がせますか?
自分の親が会社を経営していた際に、親が、会社で借りたお金の保証人になっていたり、個人的にお金を借りて会社の借金の穴埋めを行っているケースが多くあると思います。
今回、新型コロナウィルス感染拡大の影響で売上が減少し、当面の運転資金として「(通称)コロナ融資」を受けて、借金額が増えた企業も多いと思います。
親が亡くなった際に残った借金は、その相続人が借金を支払うことになります。借金よりも財産が多い場合は問題ありませんが、借金が多い場合は問題になります。
相続の方法
日本の法律では、通常は「財産も借金」も引き継ぐ「単純承認」という形になりますが、借金が多い場合、相続を放棄することも可能です「相続放棄」。
また、財産と借金の額がわからない場合は、「限定承認」という方法もあります。
今回は「相続放棄」に関して紹介します。
相続放棄を選ぶ人は年々増加しています。司法統計によると、相続放棄の受理件数は2019年に「22万5415件」と5年前よりも2割ほど増えています。「借金」の放棄の他に、最近は「田舎の家などの不動産」を理由に放棄する例もあります。立地などの面で売却できない不動産は、管理費や固定資産税の負担が多くなります。
相続放棄の手続き
・相続人それぞれが権利を放棄し、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所(家裁)に届け出る。
・受理された後は、「残った相続人」か「家裁に選任された相続財産管理人」が財産の処分や借金の清算などを行う。
相続放棄の注意点
借金を引き継がないためには気を付けることがあります。
1 相続の開始から3ヶ月以内にすませる
*相続の開始:相続人が被相続人の死亡を知ったときから
*この3ヶ月の期間を「熟慮期間」といいます
※手続きをしないまま期間を過ぎると「単純承認」になってしまいます
2 熟慮期間中は相続財産に手を付けない
*遺品を勝手に捨てたり売ったりしないこと
*個人の貯金を勝手に引き出さないように(葬式費用も注意が必要です)
※形見分けで遺品の一部を受け取りたい場合も、価値がないと見られるものでも直ぐに持ち出さずに、「相続財産管理人」や「破産管財人」による財産・借金の清算などの手続きが終わったあとで行って下さい。
3 相続放棄をすると、相続権が他の相続人に移ります
*子どもが放棄すると、亡くなった方の親が既に亡くなっている場合、亡くなった方の兄弟姉妹に相続権が移ります。場合によっては、亡くなった方の甥や姪に相続権がいく場合があります。
*自分が相続放棄を行う場合は、放棄によって影響を受ける方に相談されておくことをお勧めします(対象者全員が放棄を行うように)。
経営者は生前、認知症になる前の対策を
経営面で借金が多く、財産よりも借金が多い「債務超過」の状態ですと、後継者に承継する場合も他の企業に売却する場合(M&A)も課題が多く存在します。
「債務超過」の場合でも、方法によっては、売却することも可能です。その際は、自分で借金を背負う形になる場合もあります。その際は、最終的な手段として「相続放棄」があります。
ただし、なるべく、そうならないように、早め早めの経営改善が必要です。経営改善の方法はいくらでもありますので、お問い合せ下さい。
【3】(M&Aの現場から)高く売る「買手の購入価格」
(20210516)
現在、(株)バトンズのM&Aのマッチングサイトを利用して、売手や買手のアドバイザーをしています。
「売手」のアドバイザーとしては、売手から希望価格をお聞きして、なるべくこれに近づけるように進めますが、この額での売却が難しい場合、対象会社の業種や財務状況から最低の「売却額」を設定しておきます。
(株)バトンズの場合、業界No.1ということもあり、案件によっては多くの問い合わせがあります。その中には、自社の発展のために買収が有効であるため、こちらの設定額よりも高い額を提示して頂くところもありますが、多くは「なるべく安く購入」を前提にした提示が多いです。
今回は、こちらの設定額よりも高く売却された件を紹介します。
M&Aの目的
M&Aは、自社の事業の拡張を目的とする場合が多いと思います。その際の考え方を示します。これまでの経験の中では、「同業の企業の買収」が最も多いです。ただし、その企業の立ち位置によっては他の選択肢が有効な場合があります。
同業の企業の買収を検討する際にも自社の状況によって、次のように「何を得るか?」と目的が異なります。
想定していた額よりも高く売れる場合もある
今回関与した企業は「製造業」に分類されます。この業界は人手不足が深刻で、これが事業の発展に足かせになっています。また、一人親方的な零細企業が多く、中には後継者がいなくて廃業を考えているところも多いのが現状です。そのため、今後、M&Aが活発になる業界の一つとして注目しています。
今回検討を行った企業は、通常の企業価値評価「純資産+のれん」、のれんは「直近の利益」等による価値、で算出すると売却額は、よくて「1,000万円」で、評価によっては「査定:ゼロ」になり得るところでした。
こちらの売手としては、なるべく高く売りたいので、上記に示した中で「従業員の質の高さ」を示して売却額の上積みを示しました。
最終的には、2社に絞り込まれましたが、1社はこちらの最低額に近い額を提示、もう一社はこちらが示した「従業員の質の高さ」を考慮して希望額に近い額(最低産出額の倍以上)を提示して頂きました。
当然、売手の社長にとっては、「従業員の価値」を高く評価して頂いた企業への売却を選択しました。
「従業員の質」の面は、買手にとっては大きな「リスク」です。上記に示した「市場・顧客」「設備(建物・機械)」は、かなりの部分は予測通りになりますが、「従業員」は辞める可能性があるため、リスクが高い選択になります。外れたもう一社は、この「リスク」の面を考慮した提示額になっていました。
中小企業(に限らないかもしれませんが・・・)のM&Aの場合は、教科書的に算出した額を参考にはしますが、これにとらわれずに売手企業の強みをよく把握して交渉することも必要かと考えています。
(株)バトンズのサイトに掲載されると、こちらが想定しているのと異なる企業や個人の方から問い合わせが入ります。「売手」にとっては、ほとんどの方は人生で1回きりになります。そのため、売って良かったと思って頂ける支援を心掛けたいと思っています。
【4】小規模M&Aのトラブル防止
(20210629)
最近、中小企業や小規模事業者の間でも会社や事業の売り買い、M&Aが盛んになっています。会社を売る理由としては次のことが上げられます。
1.高齢になり、事業の継続が難しくなったが後継者がいない
2.経営状況が悪くて会社の維持ができない
3.今の事業の一部を切り離して、残す事業に集中したい
4.今の事業を売って、その売却により得た資金で別の事業を行いたい
新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、今までの事業を見直して、新たな事業の展開を考えている方も増えています。その際に、新規に自ら立ち上げるのではなく、時間をお金で買うという考えで、既存の会社、事業を購入することを検討する場合もあります。
これらのM&Aを支援する「マッチングサイト」が増えています。売手の案件がサイトに登録し公開されると、興味を持つ買手がアプローチし、両者で合意するとM&Aが成立する仕組みです。両者が全く顔を合わさなくても合意までいく可能性もあります。
この中で、通信販売でのトラブルのように「ネットの情報を信じて買ってみたけど、実際は・・・」のようなことが起きる可能性があります。
このトラブルを防ぐ方法として、
(1)表明保証
(2)企業調査(デューデリジェンス:DD) があります。
(1)表明保証
表明保証とは?
これは、売手が買手に対して、○○社の財務や法務等に関して、問題がないことを表明し、それが真実ではなくて、損害が生じた場合は売手がその損害額を負担する、方法です。
表明保証の一例
・反社会的勢力とは無関係であること
・法令を遵守し、違反行為がないこと
・財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)が間違っていないこと
・適切に税務申告を行っていること
・簿外債務(隠している借金)が存在しないこと
・従業員との契約が適切であり、未払い残業代などがないこと
・保有資産を適切に報告していること
・環境問題(土壌汚染・産廃など)がないこと
表明保証で対応できないケース
「損害の賠償」があるので、この表明保証で十分ではないかと考えますが、実際に問題が発覚して、損害を請求しても、金額的に表明保証の限度を超えている、保証する期限が過ぎているなどで、損害を回収できない場合もあります。
(1)会社(株式)の購入価格以上の簿外債務が存在していた
この場合、発覚した簿外債務「2,000万円」全てを売手企業に賠償してもらえない可能性が高いです。表明保証の限度額としては、M&Aでの譲渡額(この場合は「500万円」)以内が多いので、譲渡額を超える場合は回収が難しいです。
更に、表明保証で記載されている期間(例えば1年間)を超えて発覚した場合、全く回収できない場合もあります。
(2)利益が出るはずが、実際は利益が出ない体質の会社だった
受領した「損益計算書」では、この3年間は安定して利益がでていて、「ビジネスモデルに問題はない」と判断して購入したが、購入後の月次決算では赤字が連続。調べてみると、これまでの会計処理が間違っていたことが判明。表明保証に記載されていないことなので売手に請求することもできず、黒字化の対策に取り組むことになってしまった。
このように「表明保証」があるから安全ということはありません。
このため、次に紹介するもう一つの方法「企業調査(デューデリジェンス:DD)」が必要になります。
(2)企業調査(デューデリジェンス:DD)
「表明保証」は、売手が買手に対して、○○社の財務や法務等に関して、問題がないことを表明し、それが事実ではなくて損害が生じた場合は、売手がその損害額を負担する、方法です。
上記に、この「表明保証」が、完全な保証になっていないことを例を上げて説明しました。
今回は、小規模M&Aのトラブルを未然に防ぐもう一つの方法『企業調査(デューデリジェンス:DD』について紹介します。
企業調査(デューデリジェンス:DD)とは?
専門家が、買手から依頼を受けて、買手のために実施する調査です。
この企業調査で問題点が見つかった場合、問題点による損失額を算出し、その額を購入しようとしていた額(株価等)から減額します。
また、問題点が深刻であったり、損失額が大きい場合は、M&Aの契約を破棄し、買手が購入しないことも可能です。
DDの種類
企業調査には、次の表に示す種類があります。
財務・税務DDは「公認会計士」「税理士」、労務・人事DDは「社会保険労務士」、事業DDは「中小企業診断士」など、各専門家が行います。
小規模M&Aでは、DDに多額な費用をかけることができない場合が多いので、企業の事業形態、交渉の過程でわかったことなどから、どんな調査が必要であるかを的を絞って行うことになります。
弊社の通常では、問題が起こりそうな「財務・税務DD」「労務・人事DD」を行います。
企業調査(DD)+表明保証 ★より安全に
企業調査は問題が起きそうな項目を中心に行い、その他の項目は表明保証で補完する方法が、小規模なM&Aではより安全な方法です。
小規模M&Aといっても、購入する企業(買手)にとっては、多額な負担であり、状況によっては会社の存続に影響を与える重要なイベントです。
そのため、購入の対象企業の状況を的確に判断し、適正な額で購入することが重要になり、企業調査(DD)は「小規模」であっても必要になります。
当社では、買手の費用負担を少なくするために、各M&A案件の内容によって、必要最小限の企業調査を提案・実行します。