経営改善・事業再生 2017年(4)
本記事は、以前のホームページに記載したものをまとめたものです。
【1】経営改善の初期:現実を見つめ先の光を感じる
(20170709)
売上不振、顧客のトラブルで売掛金が回収できない、または災害の影響を受けたなどの理由で業績が悪くなり金融機関からの借入金の返済が難しくなった場合、どうしますか?
金融機関に返済を暫く待ってもらうか、返済額を減らしてもらうかなど、何らかのお願いをするしかない場合があります。
この際に金融機関から「経営改善計画」を策定して提出して下さいと言われます。
当事務所では、「認定支援機関」(経営革新等支援機関)として、この「経営改善計画」策定の支援を主に行っています。
この計画策定時の最初の段階の考え方について紹介します。
社長の「お気持ち・願い」
社長は自分自身で悩み・考えた末に、どうしようもなくなって我々にご相談に来られる場合が多いです。
そのような状況の中で、「少しの話(表面的な話)」だけを聞いて、あるいは「直近の財務諸表(決算書:貸借対照表・損益計算書)」を見て、機械的に悪い点をコメントしたらどうなりますか?
「そんなことは言われなくてもわかっている」、「ここに来たのはそんなことでない」と受け取られ、ますます暗い気持ちになっていくと思います。
当然、「この人(事務所)に任せた・命運を預けた」という信頼関係を築くことは難しくなります。
まずは、よくお話を聞いて、その中で将来の希望を見い出すことです。
ほとんどの場合「よかれ」と思ってあるいは「やむを得ず」行った結果なので、それを「経営理論」に照らして否定しても何の意味もありません。
お話を聞きながら、あるいは問いかけを行いながら、社長のお気持ち、特に将来どうしたいのかの願いをくみ取ることが最も大切です。
それをくみ取った後で基本的な方向性を示して、それに希望(光)を見出してもらい納得してもらうことが必要です。
通常、最初の面談は、1時間から2時間です。
その面談が終わった後に、顔色や言葉に変化が生じて前向きなお考えに変わることが最初の一歩です。
現状の正しい認識(分析)
最初の面談で大きな方向性は示しましたが、現状を正しく把握しないとどうしたら良いかがわかりません。
① 緊急性の把握
まずは、「どこまでお金が持つか?」を把握することです(資金繰り表の作成)。
これを知ることにより、暫定の対策を導くことができます・
・金融機関にはいつ返済を止める必要があるのか
・売掛金の回収を早められないか?または買掛金の支払を遅らせられないか?
・税金等の支払をどうするか?
当面の対策は素早く実施することが必要なので現状をきちんと把握することが必要です。
当然、表面上見えない個人的な借金(簿外債務)や、回収できない売掛金、架空在庫などは全て明らかにしてもらわなければなりません。
② 財務上の問題点の解明
「過去3年間の損益計算書」と「直近の試算表」をベースに、財務上の問題点を抽出します。
*架空売上、架空在庫、滞留売掛、滞留在庫も考慮して、真の状況を明確にします。
この問題点から短期的(1~2年間)な財務の対策を導き出します。
金融機関への返済に向けた数値(計数)計画ではこれがメインになります。
③ 事業性の分析と対応
上記の財務上の数値を裏付けて、実効性があるものにするには、定性的な事業性の分析・対策が必要になります。
「将来、市場が見込めない」、「代替技術や商品に代わってしまう」のが明確な中で、既存の延長だけで売上が増える計画を立てても意味がありません。
事業性を考える上で重要なのは「自社の強み」と「ターゲットの絞り込み」で、「強み」を「特定の顧客にフォーカス」してぶつけることです。
「人・物・金」の経営資源は限られていますので、それを有効に適用していくにはこの手しかありません。
計画は大局観も大事
金融機関の借入金を減らすだけでは夢がなくやる気もでなくなります(私の人生は借金を返すだけなのか・・・)。
10年後の理想の姿を描いてみましょう。
「こんな会社にして」「こんな商品を開発して」あるいは「隠居して優雅な生活を」、これがあるから支えになり、日々のことに前向きに取り組めるのです。
10年後はある程度漠然な姿を描くことで、また会社の「経営理念」に反映するなどの大まかなもので良いと思います。
その10年後の姿(ゴール)を実現するために、
・5年後の目標・計画
・3年後の目標・計画
・今年の目標・計画
とブレイクダウンを行っていきます。
金融機関からは、主に5年間の計数計画が求められますが、大体の計画は3年間の実施内容で決まってきますので、この3年間を具体的な計画に落とし込んでいきます。
経営資源には限りがありますので、「費用対効果」を考えて優先順位を決めて取り組むことが必要です。
どんな状況になっても、必ず「打つ手」はあります。
日本の法律・制度では、犯罪行為を除いて、経営の失敗で命までを奪うことはありません。
効果的な経営改善の方法は、社長が持っている場合がほとんどです。
我々、経営コンサルタントは、その社長のお考えを明確にして、実現できる方策を提供して、その実施を支えることです。
経営は日々動いています、自社や市場の少しの変化も見逃さずにキャッチすることが必要ですので、早めのご相談をお願いします。
【2】人手不足を乗り切る:人材を人財に
(20170729)
最近の中小企業の経営者からの相談として、「経営不振による借入金の返済」に加えて「人手不足」、それに関連する「外国人」の採用に関するものも多くなっています。
現在、ひと頃と比べて景気は良くなっている状況と言われていますが、各企業によって業績はまちまちです。
「仕事は多く入るが、人手が足りない」「もう少しレベルが高い仕事を取りたいが、それを担当できる優秀な社員がいない」という会社もあります。
「中小企業の場合は人は集まらない」という前提で考えていく必要があると思っています。
すなわち、今いるメンバーが辞めなくて、いかに能力を高めていくかがポイントになります。
経営改善は、人の改善が最も有効です。
今回は、「なぜ会社を辞めるのか?」とその対応について示します。
人手不足の対策
人手不足の対策は次の3つです。
(1) 既存のメンバーの生産性(能力)を上げる
(2) 女性・高齢者・(外国人)の雇用を真剣に考える
(3) 離職者を減らす
特に、(1)と(3)では、人材を「人財」に変える、「育てる」という考えが必要です。
会社の中の「ジンザイ?」
ある雑誌で見つけた「ジンザイ」の定義を示します。
私が勤めていた会社の職場は比較的人が多かったので、各ジンザイに当てはまる方はいたと思います。
私の会社での最後は、「人在」や「人済」だった気もします。
中小企業では、特に人が財産なので、「人財」に持っていく必要があります。
労働人口の減少が中小企業の事業に与える影響
2015年頃をピークに人口は減少し、年間50万人以上、すなわち2年で人数からすると北九州市が消滅していくことになります。
労働人口(15歳~64歳)は総人口の前に、2005年から減少に入っています。
労働人口の減少が事業に与える影響としては、次のことが推定されます。
① 従業員を確保できなくて、廃業や倒産が増える
② 人件費が上がって採算が取れなくなり赤字になる⇒廃業や倒産
③ 優秀な人材は大企業へ、優秀でない人材が中小企業という構図になり、つまり、中小企業は利益が上がらなくなる。
これを補うために、機械化、ロボット化、人口知能といった人間に代わる仕組みができあがっていきます。
これらの技術は、飛躍的なスピードで進歩し、産業構造を大きく変化させ、無くなる職業・職種もでてきます。
なぜ、従業員は辞めるのか?
最初から辞めるつもりで会社に入る者はいません。
多くの従業員は、「この会社に貢献したい。この会社で自分を成長させたい」という気持ちで入社します。
しかし、現実は3年以内に多くの方が退社します、それはなぜでしょうか?
<退社理由>
① 労働環境が劣悪(サービス残業、いじめ、長時間労働など)。
② 自分が考えていた仕事内容と現実があまりにもかけ離れている。将来に希望が持てない。
③ 自分の給料が現実の自分の仕事内容に比べると安すぎる。
④ 会社の雰囲気があまりにも暗く、組織も自分も単なる「歯車」にしか過ぎず、将来に自分を成長させることができない。
⑤ 他社からヘッドハンティングを受けた。
これらを自社に当てはめてみて、体質改善を図るべきです。
どうしたら従業員は辞めなくなるのか?
① 労働環境
・計画的に残業を止める。止めなければ人はいなくなります。
今までの残業代を残業しなくてももらえるように、業務の効率を上げる努力を全員でする必要があります。
*残業は、各種の報道のように、色々な弊害をもたらします
② 自分の思っていた仕事内容との乖離
・入社時、その後3年間で自分の目標設定と会社としての支援体制を確立し、常に見守っているという風土を築きます。
③ 給料が安すぎる
・不満の原因を話し合える仕組みを作ります。
給料は高ければ良いのではなく、仕事内容に対して給料がマッチングしていれば納得できます。
そのためには、会社の現在の状況や将来の見通しもきちんと説明し、個人の言い分も聞いてあげる双方向の「対話」が重要です。
*対話は、一方的ではなく、相手の話も聞いて、理解することです。
④ 社内の雰囲気が悪い
・会社全体の問題であり、まずは経営者の考え方を変える必要があります。
過去に何人もの人が辞めている現実を認めて、その原因を考えるべきです。
⑤ ヘッドハンティング
・「自分(経営者)の問題を素直に反省して慰留に努める」か「喜んで送り出す」かです。
ここは、「喜んで送り出しましょう」、そして残ったメンバーのことを考えましょう。
今回は、経営改善に重要な人の面、特に「辞めないために」を紹介しました。
次に、個々のメンバーが「やりがい」を持って会社で仕事をするための「目標の設定」と「給料」の面を紹介します。
★ 経営は人に始まって人に終わる
★ 人の育成には正しい考えと時間・根気が必要
【3】社員に「やりがい」を、個々の目標設定の勧め
(20170806)
あなたは、10年後、どうしていますか?
私の10年後は、「今はまだ一人の事務所ですが、10年後は50人以上のコンサルタント・士業の会社の中心にいて、後輩に後を継いでもらうための自らの事業承継を推進しているところ」です。
10年後は68歳なので、人生の仕上げをしたいと願っています。
会社の経営を改善するには、社長の考え・行動が最も重要ですが、社員の力がなければ推進することはできません。
社員が十分に力を発揮するには、目指すもの(目標)を明確にすることが必要で、目標に向かって考え・行動することによって「やりがい」を得ることができます。
目標を明確にするには、まずは「10年後の姿を描く」ことをお勧めします。
社員一人一人が能力を最大限に発揮する、それが個人の幸せ、会社の発展につながります。
会社の先の姿を描いて
経営者の皆様、まずは、10年後の会社、自分の姿を描いて下さい。
10年後は、夢、希望の状態で、具体化はしなくても良いです。
では、この10年後を実現するには、5年後はどうなっていなければならないでしょうか。
10年後は、夢でも良いですが、5年後はある程度具体的な目標値が欲しいところです。
売上、利益、組織のイメージ、それを実現するためのビジネスモデル・・・・。
それでは、5年後の目標を達成するには、3年後はどうなっていなければならないでしょうか。
3年後は、きちんと方針・戦略に基づいた数値的な計画が必要になります。
さらに、年間計画は綿密に検討して策定し、きちんと管理をしながら進める必要があります。
「対話」の重要性
会社全体の計画に基づいて、組織の計画を策定し、さらに各個人の計画の策定を行います。
個人の計画を策定する際には、上司、少人数の企業の場合は社長自らが各個人と十分に話し合う必要があります。
皆さんの会社や家庭では、「対話」ができていますか?
「対話」とは、一方的な意見の言い合いではなく、相手のことをよく理解した上で、自分の考えを述べあうことです。
そのためには、まずは、「相手の話をよく聞くこと」です。
従業員の話をこれまで聞いたことがないという経営者の方もいらっしゃるかと思いますが、従業員は伝えたいことを多く持っています。
それが言えない、言えない雰囲気の中で仕事を続けているうちに、嫌になって辞めてしまうのです。
個々の特性を把握し、個性(強味)を伸ばす
人は、自分の得意なこと、好きなこと、やりたいことに関しては集中力を発揮して前向きに取り組みます。
働く人をその人の特性を無視して会社や組織のルールに当てはめてしまうと、その人の能力を十分に発揮することはできません。
これは会社の損失でもあり、個人の損失でもあります。
この各自の個性を知るためには「対話」を重ね、その中で感じ取っていくことが必要です。
・人との話し合い、外交が苦手な人と得意な人。または、表に出たがる人と出るのが嫌な人。
・細かい仕事が好きな人と嫌いな人。
・パソコンに向かって仕事をすることが好きな人と嫌いな人。
・考えが細かい人と大雑把な人。
・オッチョコチョイな性格と思慮遠謀な人。
その他、人間には沢山の違いがあります。
この違いを理解して本人と良く話し合って仕事の内容をきめるべきです。
個々の目標の立て方
入社前の段階で「対話」
中小企業・小規模事業者の場合、大手企業と比べ、人を採用することが難しくなっていますが、頭数を揃えるために誰でも良いから採用するということにはなりません。
先に述べたように、各人はいろいろな考え・行動特性(得て・不得手)を持っています。
これに合わない人を採用したら、会社の損失でもあり、当人にとっても大きな損失です。
これを防ぐには、1回の面接だけではなく、最低、3回は本人と会って、本人のやりたいこと・夢をよく聞くこと、会社の実状(良いところ・悪いところ、給料面)などを理解してもらうことが必要と思います。
経営者の方はなかなか時間がとれないと思いますが、小さな会社ほど、人が財産になりますのでぜひ時間を設けて下さい。
入社後の対応
入社後は、先に示しました会社の計画と同じように、「10年後の姿」を描くように「対話」して下さい。
描けない場合は、「この人のようになりたい」と有名人や近くの人(会社や知り合い)を、「目指す姿」にしても良いです。
その「10年後の姿」を実現するために、「5年後」「3年後」そして、「1年後」の目標を設定し、それを実現するためには、この1年、何をしなければならないかを決めて計画を策定して下さい。
最初だけでなく、できれば毎月、少なくても3ヶ月に1回は、2年間継続して「対話」を進めて下さい。
人は「気にかけられているという気持ち」が「やりがい」を生み出します。
2年が経過すると会社やその仕事内容にも慣れ、独り立ちして益々能力を発揮できるようになり、会社に定着する「人財」になると思います。
これは、新入社員だけでなく、長く勤めている社員も同じです。
なんらかのきっかけを作って、「対話」の機会を作り、目標を設定して「やりがい」を持って仕事ができるように進めて下さい。
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