【特集05】経営戦略の必要性・策定ステップ
経営戦略とは?
(本記事は、2015年10月に初稿、2020年10月に修正したものを2022年12月に編集しています)
経営戦略の必要性
他の投稿で、「経営・業務の改善」として、「5S活動」「課題解決のステップ」について紹介しました。
これらの活動は、「会社の基礎体力」をつけるという面で、基本的なものです。
ただし、右肩上がりで市場が成長していた一昔前(かなり前)では、基礎体力を付けて、定石通りの経営を実施していれば、会社は成長していきました。
また、市場が成長していたので、競合先と横並びのこと、追従することを実施していれば、それなりの業績を上げることができました。
例えば、大手電機メーカーは、同じ製品ラインナップを持っていれば、それなりに売れたものです。
しかし、ここ10年位は、消費者に支持されないもの、特に「特色がないもの」は、売れなくなってきています。
また、一昔前の家電は、「日本製」が安心感がありましたが、今では、韓国製、中国製を抵抗なく消費者が選ぶようになっています。
逆に、中国人の観光客が「高価な日本製の家電」を買う現象もあり、消費者は、「機能と価格」それに「感性」を考慮した選択をしています。
現在は、「現状維持の守りの経営」から「成長のために変化する攻めの経営」を行わなければ、会社の存続が危うくなってきます。
経営資源があるうちに、次の発展のために「次の手」を打っておく必要があります。
この「次の手」を考えて、実行するのが「経営戦略」です。
「5S活動」や「問題解決のステップ」のレベルを上げることは、これから紹介する「経営戦略」を実施する上で必要なものです。
経営戦略とは
私が読んだ本では、「経営戦略」とは、「企業(会社)独自の基本概念に立脚し、将来の企業ビジョンを達成するための進むべき方向性を示すシナリオ」と定義されています。
私の解釈では、「現状の正しい認識」に基づき、「将来の姿」を描き、それを実現するための「シナリオ」を考えて実施することと思っています。
「現状の正しい認識」は、「自社の状況」及び「自社を取り巻く環境」の両面について必要で(己を知る、相手を知る)、この現状認識が間違っているとその後に検討することが無駄になります。
「現状の正しい認識」をした上で、次のことを実施することと思っています。
1.5年後の自社が実施する事業領域を設定する(事業ドメイン)
書籍によっては、将来の姿として「10年後」と説明されていますが、市場や技術、経済状況などの環境の変化の速さを考慮すると、10年後を描くことは難しいと思いますので、ここでは「5年後の姿」、「5年後に自社がどうなっているか、どうあるべきか」と設定しました。
この「将来の事業領域」は、「正しい現状の認識」に基づいて、「現在実施している事業領域」から変わる可能性があります。
2.その事業領域の中で、どうやって「競争優位」を築くのか
設定した「将来の事業領域」の中で、どうやって、優位性を持つか、これを考えていくのが次のステップです。
このステップが通常言われている「戦略」になり、「資源の集中と重点化」(選択と集中)が主要な検討内容になります。
総花的な対応では、限られた資産が分散され、中途半端になり、効果が得られなくなります。
戦略は、項目(対象)別に立案するのが効果的です。
① 事業戦略:競合戦略、得意先戦略、仕入先・協力会社戦略など
② 機能分野別戦略:製品開発(R&D)戦略、マーケティング戦略、生産戦略、組織・人事戦略、財務戦略など
3.実施計画に落とし込む
各戦略が決定されたら、各戦略ごとに実施計画を立てて、具体的に実施しなければ意味がありません。
実施計画を立てるには、「数値目標」が必要になります。
5年後の「数値目標」を設定して、それを各年度ごとに落とし込んで、「その数値目標を実施するために何をするのか」を決めていきます。
計画は、「長期の5年計画」、「中期の3年計画」、「短期の1年(または半年)計画」を立てるのが理想です。
この数値目標があることにより、より「戦略」の内容が意味をなしてくると思います。
現状の正しい認識:手法の活用
これまで、「経営戦略」について、その必要性と全体像を私が理解していることについて紹介しました。
32年間の製造会社勤めの中で、「経営戦略」に関する検討も行いました。
結果的には、先を読むことができなく、失敗に終わったことも経験しました。
この原因として、「現状の正しい認識」ができていなかったことが挙げられます。
ただし、将来の事業展開を行う場合、予測できないことも多く発生しますので、悲観的な現状認識であきらめてばかりでは、会社の将来はありません。
「悲観的な現状分析を基にどう展開していくかを考える」ことに、「経営戦略の楽しみ」があると考えています。
ここからは、「経営戦略」の立案のスタートとして、「現状の正しい認識」について、その手法を中心に紹介します。
「経営戦略」を立案する上で、現在の「自社の状況」及び「市場や競合の状況」を正しく認識することが重要です。
現状分析を行うツールとして、「3C分析」、「SWOT分析」、「5フォース分析」について紹介します。
3C分析
「3C分析」とは、「自社:Company」「競合:Competitor」「顧客・市場:Customer」の3つの視点に注目した分析です。
この3つの現状を分析して、その後、「5年後の状況」を予測することが必要です。
一昔前は、この中の「競合」についての動向を注視していれば良かったのですが、現在は、「顧客・市場」にまず目を向けることが重要です。
競合ばかりに目を向けていたら、市場(消費者)の動向を見失い、顧客からも見放される可能性が高くなります。
それぞれの分析の視点を紹介します。
「市場・顧客」の分析の視点
① マクロ環境の現状と予測から、自社のターゲットは誰かを明確にする
② 自社の事業ドメイン(事業領域)の市場の現状と変化は何かを明確にする
*事業ドメイン(事業領域)については次々回の投稿で紹介します
③ 市場・ターゲット顧客の変化によって、自社の従来の事業(成功要因)が機能しなくなるリスクはないかを検討する
④ 今後、市場で成功する要因は何かを検討する
「競合」の分析の視点
① 自社にとっての競合を明確にする
*これまで認識していた会社以外に視点によっては違う会社が競合になる可能性もあります
② 具体的な競合企業の動向、戦略は何かを見極める
③ 競合は市場や顧客のニーズの変化にどのように対応しているかを明確にする
「自社」の分析の視点
① 自社の強みは何で、競合会社ができないことをできるかを検討する
② 自社のターゲット製品に対する市場・顧客のニーズを明確にし、どうやって応えられるかを検討する
③ 競合会社が行っていることで参考にできることはないかを検討する
④ 市場・顧客対応及び競合対策として、自社にとって必要な経営資源は何かを検討する
SWOT分析
「SWOT」分析は、「自社が持つ強み(Strengths)」と「自社が持つ弱み(Weaknesses)」及び外部環境である市場・顧客、競合に対して有利な環境である「機会(Opportunities)」と不利な環境である「脅威(Threats)」を分析し、その対応を検討することです。
具体的な作業としては、1枚の紙を上下左右に2分割ずつ4等分して、自社内部の強みと弱み、外部環境(市場・経営環境、顧客、競合)にある機会と脅威を、それぞれ箇条書きにしていきます。
強みと弱みとは
相手に勝つにはまず自分を知らなければなりません。
強みは「自社のコアコンピタンス(核となる力)」となる経営資源です(コアコンピタンスは次々号で紹介)。
ただ漠然と知っているだけでなく、きちんと認識して、次のステップの戦略立案の中で、意識してさらなる強化をする対策を検討できる状態にすべきです。
冷静に整理してみると、他社から見て「思っている以上に強い項目」を見つけ出す可能性があります。
弱みとは、他社に比べて劣っている経営資源です。
事業の成長を阻害している弱みは自社で克服することも必要ですが、状況によっては「アウトソーシング」、「他社からの取り込み」あるいは「回避する」などを実施することも効果があります。
機会と脅威とは
機会とは、外部環境の中で自社にとってチャンスになることである。
他社がすでに実行したことを後追いするのではなく、外部環境の変化を一早く察して、創業者利益(一番乗りをした会社が占有する利益)を掴むようにしたい。
脅威とは、自社にとって注意しなければならない環境変化です。
競合他社の動向や、環境問題(環境規制)のような社会問題から検討します。
SWOT分析の事例(2000年頃のビール会社の事例)
<自社の強み>
・トップブランド力
・中高年層の顧客に強い
・全国の酒店の強力な販売網
・原材料の調達力(特にホップ)
<自社の弱み>
・自動化の遅れた工場生産ライン
・生産コストが他社より高い
・若年層の顧客が少ない
・量販店、コンビニのルートが弱い
<外部環境の機会>
・規制緩和(発泡酒の低税率)
・若年層のビール愛好家が増加
・量販店で手軽に購入できる
・アルミ缶の定着(コンパクト化)
<外部環境の脅威>
・海外産ビールの輸入拡大
・酒店ルートのシェアの落ち込み
・量販店、コンビニのルート拡大
・量販店からの値引き要請
・アルミ缶の回収問題
SWOT分析からの戦略検討
上記のあるビール会社のSWOT分析を見ると、ある程度の「対策の方向性」が浮かび上がってくると思います。
SWOT分析からの「戦略立案」については、次々号で紹介します。
今号では、「経営戦略立案」の第一段階である「現状の正しい認識」として、その分析手法である「3C分析(市場・顧客、競合、自社)」「SWOT分析(自社の強みと弱み、外部環境の機会・脅威)」について紹介しました。
次号では「現状の正しい認識」の続きとして、「5フォース分析」について紹介します。
先の「問題解決のステップ」でも「(課題の)正しい現状分析」が重要と紹介しましたが、同じように、効果がある「経営戦略」を立案するためには、自社と外部環境の正しい認識を持つことが重要です。
これにより、その後のステップの「自社の事業ドメインの決定」「戦略の立案」がより有効になります。
5フォース分析
「5フォース分析」とは、経営の中で「基本的な競争要因」として「5つの力」が存在し、それぞれについて現状を認識して、対応を検討することです。
それぞれの「力」について紹介していきます。
1.新規参入の脅威
新規参入の会社が入ってくることで業界の力関係が大きく変わってしまうことがあります。
世界的に大きな影響を持つ「外国企業」が突如「日本市場に参入」することもありますし、金融業界では規制緩和によって金融資産を多く持っている企業が参入している状況もあります(セブン銀行、イオン銀行)。
既存の会社は、「参入障壁を高くすること」によって、新規の参入を防ぐことができます。
この参入障壁として、「規模の経済性(参入するのに莫大な設備投資が必要、巨大な販売網の構築が必要)」「製品の差別化(他が実現できない製品・技術、ノウハウ)」「各種の規制」「特許」などがあります。
設備投資、製品の差別化について、これまでの経験を紹介します(自分が経験したわけではありませんが)。
現在の電子機器に部品として使用されている「LSI(大規模集積回路)」は、シリコンウェハー上に複数の薄膜を形成し、それを微細に加工します。
この微細加工には、「フォトリソグラフィー」という技術が使用され、その中で「フォトマスク」が使用されます。
この「フォトマスク」を作製するには、「電子ビーム描画機」という高価な設備を導入することが必要です。
この「電子ビーム描画機」は1台当たり数億円し、メンテナンスや故障を考慮して、お客の供給の要求を満たすのは、複数台整備しなければなりません。
また、「SDカード」の急激な保存容量アップに見られるように、「LSI」の集積度はどんどん高くなり、これによって、より細かい加工が必要になります。
このより細かい加工を実現するには「電子ビーム描画機」を定期的に更新(新規入れ替え)していかなければなりません。
このため、資金力を持ち、その高価な「電子ビーム描画機」を使いこなす「ノウハウ」を持っている会社に対して、新規参入は難しくなります(参入障壁が高い)。
これは、大企業の事例ですが、中小企業では、「優れた加工技術」「独自の創作料理」「特許」などが「参入障壁」になります。
2.代替製品・代替サービスの脅威
既存製品の類似機能を他の製品やサービスで代用できる場合、既存製品自体の存在価値がなくなるので大きな脅威になります。
インスタントカメラがデジタルカメラに代わり、スマートフォンに代わってしまった。
同様に、レコードがCDに、さらにはダウンロードに代わってしまった。
私は、製造会社勤めの大半は、「プラズマディスプレイ(PDP)の開発、その構成部材の事業化」に携わっていました。
その当時は、「PDP」と現在の主流の「液晶」はサイズの面ですみ分けができると信じていました。
「液晶の欠点」として、次の点が挙げられていました。
①大面積ができない:20インチ以上のサイズは、液晶(液体)を狭い隙間に入れるのに時間がかかり、大量生産ができない。
②応答性が悪い:動画表示はできない、例えば、野球の打球の動きに追従できない
③視角依存性が悪い:見る方向によって、色が違って見える
そのため、30インチ以上の薄型大型テレビ(夢の壁掛けテレビ)は、「PDP」しかないと、PDPの開発者をはじめ推進者は「思い込んで」いました。
ところが、最も難しいと思われていた「①の大面積への液晶の封じ込め」がいとも簡単にできる「技術、装置」が実現してしまいました。
また、同時に、②と③の問題も徐々に改善され、その結果、30、40インチはおろか、50インチ、80インチ、100インチも実現できてしまいました。
そのため、「PDP」大型投資を行った工場があっという間に閉じなければならない状況に追い込まれました。
幸い「PDPの生産」を行っていたのは大企業だったので、倒産まではいきませんでしたが、各社とも大きな損失を被ることになりました。
今では、その時に勝ち残った液晶の国内メーカーも、韓国、台湾、中国のメーカーにコスト的に負けて、テレビ向けの液晶はほぼ全て海外生産品になってしまいました。
このように、既存製品の将来を考える場合、代替製品の動向(技術開発など)を注視し、損失が大きくなる前に撤退・縮小などの手を考えておく必要があります。
この代替製品(技術)が出現すると、先に示した「参入障壁」が崩れてしまう可能性もあり、恐ろしい脅威になります。
3.得意先の交渉力
得意先が強い立場に立てるのは、「大量に購入する」「規格品か、汎用品を購入する」「乗り換えに費用がかからない」場合などがあります。
得意先が同じものを入手できる場合は、当然、調達コストが安いところから購入します。
自社が得意先に優位に立てるのは、その得意先に価値を認めてもらえる場合です。
「その製品・サービスが、その会社だけしか実現できない」、または「コスト的に他が実現できない」ときは、得意先に対して優位の立場を得ることができます。
また、「品質が優れている」場合も、多少他社よりも価格が高くても、採用してもらえる可能性もあります。
新製品を製造する場合、需要が読めないので、自社では全部あるいは一部を製造しなくて、他社に依存する場合があります(アウトソーシング)。
この場合、発注元である得意先が、その製品が将来的に伸びると判断した場合、自社で製造装置を入れる、いわゆる内製化を実施して、買手が競合先に変化してしまう可能性があります。
この場合の対策として、「特許で防衛」あるいは「真似のされないブラックボックス(ノウハウ)を設けておく」などの対策が必要になります。
得意先の言いなりになるのではなく、得意先の状況をよく把握しておいて、得意先が抱えている課題を解決することができれば、従来の購入先を排除して、自社に優位な状況を作れる可能性がでてきます。
4.仕入先の交渉力
仕入先も得意先と同様に交渉力を持っています。
自社がお金を払う立場なので、強いと思われますが、次の場合は、自社が弱い立場になります。
「競合する製品が少ない場合(その仕入先からしか購入できない場合)」「取引高が少ない場合」「代替製品に乗り換えるためにはコストと手間がかかる場合」など。
設計段階で、特殊な部品を使用しないで、規格品や汎用品が使用できるようにしておけば、供給できる売手が多く存在するので、安定して、安く購入することができます。
また、「取引量を多く」できれば、強い立場になります。
逆の立場で、自社が供給業者の場合、供給する製品が「差別化されていて」購入先がその製品を使わざるを得ない状況をつくれば優位な立場を築くことができます。
5.業界内の競争関係
「同業者が多い」「同程度の規模の会社がひしめきあっている」「業界の成長が遅い」「固定費の割合が大きい」「取扱い製品が差別化しにくい単純な製品である」などの要素が大きいほど、敵対関係が激しくなる傾向にあります。
駅前の繁華街に同じ種類の「ラーメン店」がある場合、お客の数は限りがあるので、同じ内容のメニュー、値段ではより競争が激化します。
特徴のある、他の店と差別化ができるメニュー、サービスを導入して、生き残りを図る必要があります。
飲食店の場合、立地の環境の調査を綿密に行って、なるべく競合が少ない場所を選ぶ必要があります。
「経営戦略の立案・推進」は、会社の発展には必要不可欠なものです。
その立案の前に、「自社」と「顧客、市場、競合他社」の状況を正確に把握することが重要です。
これまで、「現状の正しい認識」として、現状を把握する「3つの手法:3C分析、SWOT分析、5フォース分析」について紹介しました。
これらの手法で「現状を認識」した後に、「自社の事業領域(事業ドメイン)」を決めるステージに入ります。
経営戦略立案のステップ
当社が考えている「経営戦略のステップ」について示します。
1.現状を正しく認識する(自社、市場や競合):紹介済み
2.自社の「事業ドメイン(事業領域)」を設定する:これから紹介
3.上記に基づいて事業戦略を立案する
4.事業戦略に基づいて計画を作成する(目標設定、日程)
事業ドメインの設定
事業ドメイン(事業領域)は、事業構成や事業領域を明確にすることです。
①誰に、②何を、③どのように提供するかを明確にすることです。
①誰に(顧客、市場):ターゲットとする顧客(市場)を示します。
事業ドメインの設定の際、最も重要なことが「自社のターゲット顧客は誰か」を明確にすることです。
ターゲットの選定は、業種ごとに異なります。
一般消費者を対象にする「小売業」や「飲食店などのサービス業」では、「年齢×性別」が一般的ですが、その他に、所得層、価値観・考え方、行動様式などが考えられます。
現在及びこれからは、少子高齢化で「高齢者」が増えますが、高齢者の中には「体力的」「精神的」に様々な方がいらっしゃいます。
「高齢者」をいろいろな視点で、さらに分解していき、絞り込むことにより、ターゲットになる「顧客・市場」がより明確になります。
②何を(価値):自社が提供する価値(ベネフィット)を示します。
「自社が提供しているものは何か?」「目に見えている製品か?」「それとも何か別のものか?」を突き止めて考えてみる必要があります。
お酒の「卸売業」は、メーカーからビール、日本酒、ワインなどを仕入れて、小売店や飲食店に販売しています。
物としては、「お酒」を販売していますが、卸業としては「商品の売れ筋情報」や「新商品を製造メーカーに代わって説明する機能」「在庫調整機能」を「提供する価値」と考えられます。
「ビールなどの製造メーカー」や反対の「小売店・飲食店」は卸業のこのような機能に価値を見出して、商品を提供したり購入したりしているのです。
卸業の会社がこの機能を果たせなかった場合、製造メーカーは別の卸売りの会社に代える検討をすると思います。
③どのように提供するか:自社が保有する技術・ノウハウを示します。
ターゲットとする顧客・市場を明確にし、提供する価値を明確にしたら、「それをどうやって提供するか?」を考えていきます。
競合との差別化を実現するための「提供の仕方」としての視点として、次のようなものがあります。
・業務の卓越性:優れた業務プロセス(製造の品質管理・生産管理、効率的な資材調達など)によって、一定品質の商品を最良の価格で提供する。
・製品の優位性:優れた企画力・開発力によって、常に他社にはない画期的な商品を企画・生産・提供する。
・顧客との関係性:個々の顧客のニーズにきめ細かく対応し、最高の顧客サービスを提供する。
自社は、どの「提供の仕方」で他社と勝負するのかの方針(方向性)を決めておいて、次に具体的にどのような提供をしていくかを考えていきます。
事業ドメインを設定する必要性
事業ドメインを設定することにより「自社のすすめべき方向、実施すべき事項」が明確になり、それにより、人やお金などの資源を有効に投入することができます。
また、「事業ドメインから外れる事業(やってはいけないこと)」も明確になり、「無謀な多角化」を防ぐことができます。
技術やノウハウ、人財などの経営資源がないにもかかわらず、異業種に展開した場合、これまでの多くは失敗しています。
また、逆に、「事業ドメインを狭く設定」してしまうと、技術革新や市場の変化などの環境の変化で、事業が行き詰まることもあります。
たとえば、販売チャネルを既存の小売チャネルだけにこだわってしまい、経営環境変化の中でインターネット通販が台頭してきても対応できず、売上がじり貧になった例もあります。
皆さんは何回もお聞きになっていると思います、事業ドメイン設定に関して有名な「鉄道会社」の話があります。
アメリカのある鉄道輸送会社は、自社の事業ドメイン「鉄道事業」と「手段(どのように提供するか)」で定義してしまったために、トラック会社や航空会社との競争に負けてしまったといわれています。
もし、鉄道事業ではなく「運輸事業」という「機能(自社が提供する価値)」で設定していたら、トラックや飛行機のような代替手段が現れたら、むしろ事業ドメインに当てはまる新しい事業分野ととらえて、積極的にそちらにシフトしていたかもしれません。
このように「事業ドメイン」を決めるにあたっては、将来の事業の展開が広がるような事業ドメインの設定を行う必要があります。
事業ドメイン設定のためのコア・コンピタンスの確認
「コア・コンピタンス」とは、「顧客に対して価値を提供する際、他社に真似できない当社ならではの中核的な力」をいいます。
「自社内部で磨き上げられた独自の技術・スキル・サービスの蓄積をベースに、他社には提供できない卓越した顧客価値を創出できる能力」です。
長期的に経営を継続し、成長していくためには、自社の「コア・コンピタンス」が何かを再認識しておく必要があります。
「コア・コンピタンス経営」ということが言われていますが、これは、事業の「選択と集中」を通じて、自社ならではの「強み」に特化することにより、自社の競争優位性を築く経営スタイルです。
自社の「コア・コンピタンス(本当の強み)」は次の特徴を持ちます。
① 顧客が認知する優れた価値を顧客に与えている
② 多くの事業に広く応用可能であること
③ 他社が簡単に模倣できない性質のものであること
私が25年間勤めていた「大日本印刷」は、「長年蓄積した高度な印刷技術」を「コア・コンピタンス」として保有しており、これを核として様々な事業展開を行っています(最近は「情報」も加わっています)。
この「コア・コンピタンス」は、市場環境の変化とともに陳腐化する可能性もありますので、継続的に見直しを行って、新たな能力の育成が必要になります。
「コア・コンピタンス」は認識するだけでなく、「育てていく」という気持ちが必要です。
この「コア・コンピタンス」は、ブランド力、技術開発力、物流ネットワーク、生産システムなど様々なものがあります。
事業ドメインの例
書籍やセミナー聴講から入手した各社の事業ドメインについて紹介します。
なお、その後、変更している可能性もありますので、あくまでも参考情報として下さい。
① ダスキン:単なる「掃除用具レンタル業」ではなく、「世の中をきれいにする事業」
これにより、「ハウスクリーニングや夜間の店舗クリーニングなどに掃除のプロを派遣する事業」「空気清浄器や浄水器の販売、レンタル」に幅を広げることができる。
② ビール会社:「ビールの製造・販売」ではなく、「ビールを飲むことによって得られる、開放感、コミュニケーション、雰囲気づくり、ストレス解消などを定義する事業ドメイン」を設定している。
例えば、サントリーは「生活文化産業」。これにより、ビール園の経営や他の飲料の供給などに幅を広げることができる。
③ オリエンタルランド:「心の活力創造業」
④ 明治生命:「総合生活・金融関連サービス業」
⑤ IBM:「問題解決サービス業」
⑥ ツムラ:「漢方を原点とした総合健康医療業」
⑦ 電通:「トータルコミュニケーションサービス業」
⑧ 大日本印刷:「拡印刷」⇒「情報コミュニケーション産業」⇒「P&I(印刷と情報)ソリューション」
⑨ NEC:「C&C(コンピューター&コミュニケーション)」⇒「インターネット・ソリューション・プロバイダ」
福岡県の老舗出版社「梓書院のドメイン改革による売上拡大」:セミナー聴講から紹介
私にとってインパクトが大きかったセミナー内容を紹介します。
「梓書院」は、1972年に創業された、現在、九州で存在する「出版社」では最も長く事業を行っている会社です(43年)。
現在の「出版不況」の中で、「梓書院」は、ここ7~8年で、売上を倍増しています。
その最大の要因は、「事業ドメイン」を変えた(変革)ことです。
事業の領域(事業ドメイン)を従来の「出版屋」から「ものがたり屋」に変えたことにより、実施する事業内容を広げることができたとのことです。
「出版屋」とした場合の事業展開としては、「自費出版」「企画出版」「校正代行」「編集代行」「スキャニング代行」などになります。
これを「ものがたり屋」に変革すると、「出版」は事業展開の一部になり、新たに「電子ブック・Web」「デザイン・イラスト」「マンガ」「ブランド化」「コンサルティング」などと拡張できたとのことです。
これにより「宗像市の沖ノ鳥島の世界遺産」の広報や「大野城市のキャラクター(大野ジョー)」の誕生に中心的な役割を果たすことができています。
従来の事業ドメインの「出版屋」からでは、取り組めない分野でしたが、事業ドメインを変えることにより、素直に事業に取り入れることができるようになります。
「梓書院」の場合、他からノウハウを受けたり、大きな投資をすることなく、売上を伸ばしています。
事業ドメインを変えることにより、事業展開の幅を広げて、既存のお客様に新しい提案をできるようになり、これにより売上を増やしています。
ただし、これができたのは、創業以来43年間蓄積された、他社に真似ができない「ものがたりを具現化する力(ものがたり力)」(コア・コンピタンス)を保有していたからだと思います。
「事業ドメイン」を決める際は、先に示したように、各会社が持っている「コアコンピタンス(核となる力)」が重要になります。
会社の中には、自社の「事業ドメイン」を明確に決めてないところもあるかもしれません。
今一度、自社の保有するもの(コア・コンピタンス)を見直して、市場の動向も加味して、「事業ドメイン」の設定を行うことは、事業の拡大に有効と思います。
次号では、これまでの「現状の正しい認識」と「事業ドメインの設定」を基にした「事業戦略」について紹介します。
SWOT分析からの戦略立案
前に「現状の正しい認識」の整理方法として、「SWOT分析」を紹介しました。
「SWOT分析」は、「自社が持つ強み(Strengths)」と「自社が持つ弱み(Weaknesses)」及び外部環境である市場・顧客、競合に対して「有利な環境である機会(Opportunities)」と「不利な環境である脅威(Threats)」を分析することです。
ここで整理した各項目を基に、戦略を立てる考え方を示します。
1.強みを活かし弱みを克服する
競合と差別化して優位に立てるのは、「自社の強み」を更に伸ばすことが最も有効です。
前々回の号で「強み」に関して、また前号で「コア・コンピタンス」について紹介しましたが、会社によっては「自社の強み」を認識していない場合があります。
競合他社、あるいは付き合いのある「得意先」や「仕入先」が強みと思っていることを見逃していることもあります。
自社の技術力、開発力、保有特許、販売ルート(営業力)、調達ルート(調達力)あるいは社員の資質など、再度、多面的に見直して下さい。
ここまで、継続的に、ある程度の実績を出している会社であれば、何かしら「強み」を持っていると思います。
そして、資源の投入により、この強みを更に強化して、競合の追従を許さないようにすることが効果的な戦略になります。
弱みの中で、自社で克服しなければ競合先に対抗できないものは、取り組む必要はありますが、全てを自社で対応すると「経営資源」が分散してしまいますので、アウトソーシングによる取り組みや思い切って回避する検討が必要です。
「弱み」の克服は、必要最小限にとどめて、「強みの強化」に経営資源を集中することの方が有効です。
ただし、「弱みの克服」は、自社の経営革新を進めるきっかけになることもありますので、「弱みを強み」に転化できる可能性もあります。
2.機会を活かし脅威を克服する
日常の経営活動では、環境変化について認識はしていても、なかなか自社の問題として捉えることはできなく、気付いた時は手が付けられない状態になる可能性があります。
外部環境(経営環境、市場、顧客)の機会は、競合先に先手を打たれる前にチャンスとして活かすことが必要です。
特に、許認可事業に関連する企業は、法規制の動向を注視し、規制緩和の進展により、新しいビジネスチャンスが生まれることがあります。
一方、外部環境の脅威は、克服していかなければなりませんが、この脅威は「競合先も同じ」なので、脅威を先取りして手を打つことによって「脅威を機会」に変えることもできます。
3.クロスSWOTによる4つの戦略
「強み・弱み」と「機会・脅威」を掛け合わせて戦略を考える方法です。
次の4つの戦略が導かれます。
①積極的攻勢戦略(SO戦略):強みを活かして機会を勝ち取る
②差別化戦略(ST戦略):強みを活かして脅威を回避する
③段階的改善戦略(WO戦略):弱みを改善して機会をつかむ
④防衛または撤退戦略(WT戦略):弱みを改善して最悪の結果を回避
①の「SO戦略」が成長戦略として魅力的ですが、状況によっては「WT戦略」をとる決断をしなければならない場合もあります。
4つの組み合わせによる戦略をリストアップし、実施の優先順位を付けて進める必要があります。
5フォース分析からの戦略立案
前々回で、現状の正しい認識の整理方法として、「5フォース分析」について紹介しました。
その中で、対応としての戦略について若干示しましたが、ここでは、再度、各フォースについての戦略の基本的な考えを示します。
1.新規参入の脅威
競合先や他の業種からの参入を防ぐには、「参入できない障壁」を作ることです。
その障壁には、「他が容易に真似ができない製品、技術力、コスト力、品質力」があります。
それを守る手段として、「特許、ブラックボックス化されたノウハウ、社内の管理能力、社員の能力」が必要です。
会社は、常に、この参入障壁を維持するあるいは高める必要があります。
当然、これは、先に示した「自社の強み」「コア・コンピタンス(核となる力)」と関連があります。
2.代替製品・代替サービスの脅威
5つの力の中で最も脅威的なものが「代替製品・代替サービス」の出現です。
今まで、販売していた製品、顧客に収めていた部品にとって替わるものがでてきた場合、全く対応できないことがあります。
これを防ぐ、あるいは被害を最小限にするには、常に市場動向、技術動向の情報収集を行う必要があります。
また、顧客との関係では、言われたことを実行するだけでなく、顧客との良好な信頼関係を持って、可能であれば、共同開発の関係に持ち込み、顧客の次の手を早くキャッチしてそれに対応できる準備をしておく必要があります。
顧客にとっては、自社で対応できないものは、最も親密な関係がある会社に最初に情報を出します。
3.買手(顧客)の交渉力
主要な顧客に対しては、「自社がなくてはならない存在」になることが重要です。
「オンリー1の供給先」になることが理想ですが、主要顧客に対しては、最も影響力がある(最も供給量が多い)立場を築くことが必要です。
そのためには、「顧客の要求すること」を早くキャッチして、顧客に「提案できる」関係を築くことが重要です。
逆に、取引量が少なく、先の展開も期待できない顧客(利益率が低い)とは思い切って付き合いを止めることも必要になります。
4.売手(供給業者)の交渉力
売手に対して有利に立てるのは、「大量に購入する」「規格品か汎用品を購入する」「供給業者を変更するのに費用がかからない」などの場合です。
そのためには、製品の設計段階から、「供給業者に依存しない」ものを選定して、供給業者に依存しないようにする必要があります。
また、購入に対しては、複数社が競合する状態にして、安価に購入できる状態を築き、場合によっては分散している供給先を絞って「大量発注」するような手段を取ることも必要です。
5.既存競合同士の敵対関係
既存競争企業間の敵対関係で、競争が激しくなります。
競争企業の状況を把握して、競争の中で「自社の立ち位置」を検討していく必要があります。
そのためには、「自社の強み」「コア・コンピタンス」を有効に利用して、「差別化・集中化」を行うことが必要になります。
なお、「差別化戦略」「集中化戦略」については、次号で紹介します。
今号では「戦略立案」に関して「現状の正しい認識」のための手法から事業の種類によって、それぞれ対応が違います。
製造メーカー勤務であったため、視点が「製造メーカー」主体になってしまいましたが、基本的な考えは、業種が異なっても同じと思います。
「現状を正しく認識」して、その現状に対して、将来の動向を加味して、自社のあるべき姿を描いて対策を戦略的に立案することが重要です。
北九州アシスト法務事務所は、主に、中小企業支援を業務とする行政書士事務所です。
経営理論だけでなく、現場に出向き、自社の状況を的確に把握して、それに対する「経営戦略」を経営者の方と共に考え、実践できるお手伝いをさせて頂きたいと願っています。
戦略立案の構成
経営戦略は、次の3つの戦略によって構成されています。
1.全社戦略
自社の事業領域(事業ドメイン)を設定することです。
この件は先に紹介していますのでご参照願います。
事業ドメインは、①誰に、②何を、③どのように提供するか、を明確にすることです。
そのためには、自社の強みである「コア・コンピタンス(核となる力)」をしっかりと認識する重要性を示しました。
2.事業戦略
事業戦略は、実施する事業別に戦略の対象相手を誰に置くかによって、次の3つに分けられます。
中小企業の場合、ほとんどが単一事業と思われますので、その事業に対して3つの視点で検討します。
多角化経営で複数の事業を展開している場合は、その事業ごとに設定します。
① 競合戦略
② 得意先戦略
③ 仕入先・協力会社戦略
3.機能分野別戦略
保有する自社の機能を、上記の「全社戦略」「事業戦略」に基づいて、長期的に実施する方針、内容を検討します。
「研究・開発(R&D)戦略」「マーケティング戦略」「生産戦略」「人事組織戦略」「財務戦略」などがあります。
事業戦略
1.競合戦略
まず最初は、自社に対する競合を明確にすることです。
その明確にした競合について、先に分析した「自社の状況」と「5フォース分析で検討した既存競合同士の敵対関係」の内容に基づいて戦略を検討することです。
この検討について、3つのアプローチについて紹介します。
自社の状況に基づいて、方針を決定します。
① リーダーの戦略(コスト・リーダーシップ戦略)
自社が実施する事業が、他の競合先に対して優位な立場にある場合に実施する戦略です。
「現状の優位な立場」が「強み」ですので、更にその強みを強化し、競合を寄せ付けないようにする戦略です。
同じ駅前で飲食店を経営している場合、他の店よりも「仕入調達のコストダウン」や「調理の生産性を上げる」などの対策を行って、他の店よりも「価格優位性」を実現する方法です。
また、来店客数が多い強みを活かし、新メニューを取り入れて、継続客の確保、新規の客の取り込みを積極的に行う方法もとれます。
さらに、競合先が新たなメニューを発表した場合、同様のメニューを提供して防御することも効果的な戦略です。
② チャレンジャーの戦略(差別化戦略)
市場に同じ事業で、既に先行しているリーダー的な競合先が存在する場合、チャレンジャーに求められるのはリーダーの模倣ではなく、違う切り口で顧客へアピールすることです。
No1企業は必ずしも全顧客を押さえることはなく、半数以上はNo1の会社を支持しない顧客が存在していると思われますので、その顧客に対して、リーダー企業と異なる切り口で事業展開を行うと活路が開ける可能性が高くなります。
他社との製品やサービスを徹底的に差別化して、顧客に魅力ある存在になることにより、その業界でポジションを形成することができます。
③ ニッチャーの戦略(集中戦略)
ニッチャーは、リーダーやチャレンジャーが行わないような特定の「すきま」を狙って集中化する戦略です。
特定の範囲に限定して、徹底的にコストダウンや差別化をする戦略です。
「コスト集中」により、特定の商品・サービスに対して徹底してコスト削減を図る方法と、「差別化集中」によって、特定の顧客や製品・サービスに対して徹底的に差別化する方法があります。
後発で参入する場合は、先行と同じ内容を実施しても、対抗するのは難しいので、徹底した「差別化集中」を行うことにより、独自のポジションを形成し、その中で「自社の強み」を適用し付加価値を高めることで、「価格競争」に巻き込まれない展開ができる可能性もあります。
ただし、この戦略が軌道に乗ると、リーダーやチャレンジャーも参入してくる可能性があります。
そのため、更に付加価値を高め、参入障壁を高くしておく必要があります。
2.得意先戦略
得意先戦略は、先の「5フォース分析」で示した「買手(顧客)の脅威」で示したように、いかに「顧客に対して優位な地位」を得られるようにすることが必要です。
そのためには、徹底的にお客と接して、「顧客の求める価値」を追及する必要があります。
ただし、無理をして、顧客の要求、例えばコストダウンを受け入れて「自社の経営に悪影響」になることは避けるべきで、あくまで、顧客と「WIN=WINの関係」を築くことが必要です。
「それぞれが目指すべき目標をお互いに認め合い、認識した上でお互いの役割を果たし、利益・メリットを配分しあえる関係」を構築し、長く良好な関係を継続することが重要です。
3.仕入先・協力会社戦略
仕入先・協力会社戦略は、先の「5フォース分析」で示した「売手(供給先)の脅威」で示したように「仕入先・協力会社に対して優位な地位」を得られるようにすることが必要です。
そのためには、仕入先、協力会社と密に接し、情報を共有し、協力し合える体制を築くことが必要です。
原材料や部材、製品の流通の全体最適化(サプライチェーンの最適化)を重視し、仕入先、協力会社の「強み」を理解して、それを自社のために有効に使用できるようにできれば、重要な経営資源になり「自社の強み」にすることができます。
顧客との関係と同じように、いかに「WIN=WINの関係」を築くことが重要です。
機能分野別戦略
全社戦略、事業戦略を決定した後は、それを実現するために、自社内で行う、各機能(部門)ごとの戦略を決めて、より実行できるレベルに具現化する必要があります。
事業によって、様々な機能が必要になると思いますが、ここでは、主な機能について説明します。
1.研究開発(R&D)戦略
未来永劫、現在と同じ製品・サービスで事業を継続することはできません。
市場・顧客の要求するもの(ニーズ)は変化しますし、技術の発展により供給できるもの(シーズ)も変化していきます。
事業を継続するためには、大なり小なり、研究開発が必要になります。
飲食店の経営でも新しいメニューの開発が必要ですし、結婚式場でも新しい演出方法の開発が必要になります。
研究・開発には通常次のように分類されます。
① 基礎研究(特定の商業目的をもたない純粋科学的な研究)
② 応用研究(特定の商業目的のための科学的な研究)
③ 実用化研究(基礎研究、応用研究の成果を製品、製法として実用化するための研究)
大企業の場合は、①~③までを一貫して実施できますが、中小企業の場合、資金、人財の面で③の実用化研究が主になります。
中小企業の場合、次の点を有効に利用して、自社単独でできないことを実施することも可能になります。
・顧客との共同検討:顧客の新製品開発の中に初期段階から参加して、研究開発の効率化を図る
・大学やその他の研究機関との共同検討:場合によっては、大学の試験研究費あるいは国や地方公共団体からの資金援助が期待できます
・異業種の他社との新商品の開発:連携によって、対象企業の「強みを組み合す」ことにより、ユニークな商品を開発できる可能性があります。
・補助金・助成金の利用:良いアイデアがあるのに実施する資金が不足する場合、内容によっては利用できる可能性があります。
2.生産戦略
製造業の場合、生産をどのように実施するかは重要な要素です。
生産戦略は「市場の需要予測」と「競合他社の生産(供給)能力」から、自社が必要な数量を設定し、それをどのように実現するかを決定することです。
① 市場の需要予測
これまでの市場の実績値、競合他社の実績、自社の実績から、今後の需要と自社の生産(供給)量を設定します。
需要予測では、「楽観的予測」「標準的予測」「悲観的予測」の3パターンを想定して、各パターンを実現できるシナリオを作成すると戦略に幅を広げることができます。
② 生産能力の把握・検討
上記の市場予測の各パターンについて、自社の製造工場(ライン)、協力会社の生産能力を考慮して、どこで生産したら最も効率が良いかを検討する必要があります。
これによって、自社の設備増強、新規の協力会社の開拓などが検討項目になります。
将来的な需要が不透明な場合、自社では全く生産せずに、設計だけを自社で行って、全てを外部に委託(アウトソーシング)する戦略もあります。
3.人事・組織戦略
会社の継続・発展で重要なものは「働く人(人財)」であり、その人財の能力を最大に発揮できる組織を構築することは必要です。
人事戦略では次の3つの視点が重要です。
① 採用戦略
「人は入社後の教育で伸ばせる」という意見もありますが、その人の持っている「資質」も大きな要素になります。
一昔前と比べ「一生同じ会社に勤める」という考えは多少は少なくなっていますが、就職を希望するほとんどの人は、まだ「一生勤める」気持ちで入社してくると思います。
最初から、「3年後は別の会社へ」「3年後に独立する」決意で来る人は、よほどの事情がない限りは少ないと思います(例えば親の会社を承継するための修行など)。
現在は、勤労者の減少により、中小企業での人の採用は、厳しい状況になっています。
これからは、募集する側の会社の魅力をアピールする姿勢が重要になります。
良い人財を集めるには、「良い会社:訴えることができる会社」が求められています。
② 人事制度
入社した人を定着させるには、人事制度の中で「賃金制度」が最も重要になります。
安定して良い人財を継続的に雇用するには、賃金面の欲求を満たす必要があります。
一昔前の「年功序列賃金」の要素はだいぶ薄れてきていますが、会社によっては何らかの形でまだまだ残っています。
これからは、優秀な人財に、周りが納得するような処遇を行うことが必要になります。
③ 人財育成
「人財育成」の基本は、「業務を通じての教育(OJT)」が最も有効であると思っています。
外部の研修もそれなりに有効な場合もありますが、これまでの経験上、効果は限定的で、業務と密接な関係がない場合は、時間とともにその知識も薄れていきます。
「書類の書き方(例えば設備購入やイベント開催の稟議書」や「社外・社内のプレゼン資料」は、上司がきちんと確認をして、対話を行い、指導することによりレベルが向上します。
稟議書で上司が「めくら判を押す」ようなことでは、その作成者のレベルは向上しません。
そのためには、会社の風土として、「何事もきちんと行う管理」が根付いてないと、あるいは「上司の能力」がないと、組織のメンバーの成長はありません。
外部の研修の場合でも、「資格を取るため」のようにアウトプットが要求されるものは意味があると思います。
組織の最適化
人財の能力を最大限に発揮するには、最適な組織を形成して、運用することが必要です。
① 組織形成の基本
・専門化の原則
業務を機能別(営業、製造、購買等)、地域別、顧客別、製品・サービス別など、同じ視点で分類して、できるだけ従業員が単一の仕事に専門化できるようにすべきです。
これによって従業員は、それぞれがその役割について反復学習するため、必要な専門知識と熟練を容易に習得し、仕事の能率を高めることができます。
・統制の範囲の原則
一人の管理者が統制できる人数は限界があります(8人が目安との説があります)。
管理すべき人の数が増えると、直接すべての従業員に指示を出したり、報告を受けることが難しくなります。
1ヶ月の中で、直属の上司と数回程度しか会話がないような組織は、たぶん、効果的な成果を得られないと思います。
近年は、取締役会の人数を減らして、有効な議論、意思決定を行う傾向もあります。
・責任・権限の一致
従業員に、与えられた業務に対して、適切な権限とそれに相当する責任を与える必要があります。
「権限を与えられてないのに、責任ばかり追及する経営者」や、「権限ばかり主張し、業務に責任を持たない従業員」がないようにすべきです。
・命令一元化の原則
従業員は、誰から指示を受けるかを明確にしておく必要があります。
上司から指示を受けたのに、後から社長から全く違う指示を受けた場合、従業員は対応に苦慮し、もっともそのようなことが生じる会社は、管理体制ができてないことになります。
② 組織の維持の基本
・目的、目標の共有化
組織内では、その構成員は、全社の目的、目標に基づいた「所属する組織の目的、目標」を共有する必要があります。
組織のメンバーがバラバラな方向に向かないように、全員のベクトルを一致させる必要があります。
・情報の共有化
組織が目標に向かって有効な行動を実施するためには、「全員で必要な情報を共有化」する必要があります。
組織の責任者は、メンバーと有効な「対話」を行い、情報の単なる伝達だけでなく、その真意についてよく理解させることが必要で、そのためには組織の責任者がきちんと理解することが前提になります。
・成果の公正な分配
組織が成果を上げた場合、組織構成員に公正に分配されることが、組織の構成員のやる気になり、次の成果に結びつくことになります。
あらかじめ社内規程などで報奨に関する項目を定めておいて、適切な対応が必要になります。
4.財務戦略
財務戦略は、経営戦略では必須の項目です。
いくら良い製品・サービスができても、資金がなければ実行に移すことができませんし、会社が継続しないと意味が全くなくなります。
利益がいくら出ていても、お金の流れが止まってしまったら、会社は生きていけなくなります(いわゆる黒字倒産)。
このために、「お金をどれだけ貯めているか?」「お金の調達先を確保しているか?」「資金調達先としての株主、銀行、取引先と良好な関係を築いているか?」などが重要な視点になります。
財務戦略を立案する前提は、「必要な資金(お金)」を決めて、これを実現するための「必要利益」を出して、そこから「売上」や「必要費用」を算出することが必須です。
「売上から各種費用を引いたのが利益」という成り行きの考えでは、会社の継続・発展は難しいです。
必要利益は、変更できない「固定費」と考えて、この目標値を実現するために各種の戦略的施策を実施しなければなりません。
自己資金で全て賄うようになるのが理想ですが、現実的にはほぼ不可能なので、金融機関からの融資を頼る必要がありますが、この場合も、「金融機関を利用する、制御できる」ように財務戦略を検討する必要があります。
金融機関に「利子を払い続ける」、最悪は「存続の命運を金融機関に握られる」ことは避けたいものです。
中期計画の策定・目標の設定
「現状分析(正しい認識)」、それに基づく「事業ドメインの設定」「事業戦略の立案」を行った後は、その事業戦略を実現するために、「計画」を立てることが必要です。
計画の最初は、中期計画を立案することです。
中期計画は、「5年先のあるべき姿」を設定して、それを実現するための具体策を、時間軸に当てはめていくことです。
書籍によっては、「10年後のあるべき姿」と紹介されているものもありますが、変化が激しい現在の状況では、「5年後が妥当」と思います。
最初のステップは、主要項目について、「5年後の目標」を設定することです。
この主要項目は、幾つか設定されると思いますが、「数値的な目標」を設定することが重要です。
「会社は成長して存続すること」が第一の使命で、そのためには、5年先を見て、いかに利益を積み上げて、自己資金を増やし、借入金に依存する体質から脱出できるかが最重要な項目です。
売上を伸ばすことも大事な要素になるかもしれませんが、むやみに売上至上主義に走ると、逆に借入金が増えるなどの問題が生じる可能性があります。
5年間の各年度の(借入金の返済も考慮した)利益を設定して、それに必要な売上を算出し、その売上が妥当なのかを検証。
無理な売上であれば、仕入や原材料の購入費の低減、直接部門(製造や販売)の効率化、間接部門費の削減、不要な資産の売却などの手段を検討する必要があります。
この中で、「戦略立案」で紹介しました、「自社の事業ドメイン」の中で「強みをいかに効率的に発揮できるか」が重要になります。
「効率化」の中に、「選択と集中」の考え方があります。
5年先の数値目標は、現状から「背伸びした目標(夢・ビジョン)」の方が望ましいと思います。
ただし、単なる夢ではなく、経営者がそれを実現する「シナリオ」を提示することが必要です。
到底無理な目標を立てたにもかかわらず、経営者の手腕で、短期間の間に「飛躍的な成長」を遂げた会社もあります。
その「シナリオ」を示すことにより、「各従業員が納得しやる気が生じ」、実現の可能性が高くなります。
「中期目標」を策定する意味として、「長期にわたる実施項目を明確にする」こともあります。
「新たな技術を獲得する」「他社を吸収する(M&A)」などは、調査から入る必要があり、年間の計画では対応できず、長期的な視野が必要になります。
年間計画の策定・目標の設定
「中期計画」を策定したら、次のステップは、年間の計画を策定することです。
「年間計画」での目標は、「必達目標:確実に達成できる内容」をベースにすべきと思います。
無理な目標を設定しても、各組織、個人が逆にやる気をなくしてしまう可能性があります。
最近、「無理な必達目標」を経営者が設定し強要したことが原因で、法や倫理に触れること(粉飾決算など)を実施した会社が問題になっています。
「必達目標」として、実現可能な目標を設定し、加えて「努力目標」を設定し、更なる組織、個人のやる気を引き出す手法もあります。
その際も、経営者が「シナリオ」を提示し、組織、従業員に納得してもらう必要があります。
年間計画は、先の中期計画とリンクして、5年後の姿(目標)を達成するために、この1年間で達成すべきことを明確にして、それを達成するためにどうするかを決めることです。
当然、先に示した「現状分析(認識)」「事業ドメイン」「戦略立案」に基づいて計画されます。
機能(部門)、個人毎の計画策定
全社の「中期計画・目標」「年間計画・目標」を設定したら、その内容に基づいて、各機能(部門)ごと、そして個人ごとの計画作成を行います。
この際の作成に当たっては、上位部門あるいは上司と十分にコミュニケーションを取ることが必要です。
上位の計画、目標を理解しないで、各部門や個人が計画策定、目標設定を行うことは意味がありません。
「目標管理制度」あるいはこれに準じた運用を行っている会社は多くあると思います。
この制度自体はすばらしいものと思いますが、運用によっては逆に弊害になることもあります。
組織あるいは自分が達成できるレベルにしか設定しなくて、それ以上のことにチャレンジしないことも想定されます。
先に示した全体の年間計画・目標と同じように、「努力目標」を設定することが有効と思います。
計画の実施(PDCA)
これまで示した各計画は、実施されなければ、「単なる紙切れ」にしか過ぎません。
私もこれまでの会社勤務で、期(年度)の変わり目に「各計画の策定・目標の設定」を行いました。
当然、必ずしも「計画・目標」がその通りに達成できたことばかりではなく、未達成のことの方が多かったと反省しています。
その原因としては、「計画(P)は立てた」「実行(D)はした」、その後が問題で、「チェック:検証(C)」と「アクション:修正(A)」ができていなかったことです。
計画を実施する中で、自分(自社)だけの問題ではなく、環境(市場、顧客)が変化するのが当然で、それに対応して、検証と修正が必要になります。
一度設定した計画を変えることには抵抗がありますが、「計画通り実施する」ことが意味のないものになることもあります。
ただし、「設定した目標」は、意味があるものであれば、それは変えないで、「その目標を達成するための手段」を変えることが必要と思います。
「設定した目標」は、「中期目標」「年間目標」に関係付けられていますので、それを変更することはよほどのことがない限り変更することはできないものです。
以上、「経営戦略」を実施するための「計画策定・目標設定」について紹介しました。
計画に設定する項目は、各会社によって様々だと思いますので、ここでは考え方を中心に紹介しました。
いずれにしても最初に示しましたように、「現状分析(正しい状況を理解する)」を行うことがスタートで、その会社の強みを発揮して、競合先と差別化できることが重要です。
また、計画策定、目標設定を行ったら、それを実現する執着心が要求されます。
中小企業の場合、計画・目標の未達成が存続に影響を与えることが十分考えられます。
「経営戦略」の策定の際に、ご支援が必要な場合、ご相談頂ければご協力させて頂きますのでお問い合わせをお願いします。
経営戦略のベースの考え方
ここでは、これまで紹介した「経営戦略のステップ」の中で必要な「ベースの考え方」について紹介します。
戦略思考
「戦略思考」とは、次の考えによって成り立っています。
1 全体と部分の関係を認識し、全体最適を考える
2 筋道を立てて論理的に考える
3 長期的な視点に立って仮説思考や目的を持って思考する
4 最終イメージを持って行動する
一昔前は「何でもある程度はできるゼネラリストで、組織に従順でまじめな人」が尊重されましたが、現在は「高い専門性を持ちながら、新しい提案ができ、現状を打破できる人」が要求されていると思います。
会社が総合力を発揮するためには、構成員の個々人が戦略化された集団である必要があります。
戦略思考に関係する考え方・手法を紹介します。
MECE(ミッシー)
ミッシー(MECE:Mutually Exhaustive Collectively Exhaustive)は、戦略思考の基本となる考え方で、「モレやダブリをなくす」ことです。
モレやダブリがあるとチャンスを逃したり、ムダが発生します。
モレやダブリをなくすためには、まず全体像を把握しなければならなく、部分だけを見ていたのではモレやダブリに気が付くことができません。
先に紹介しました「現状の正しい認識」や「戦略立案」を効果的に行うには、この考え方がベースになります。
以前の「問題解決のステップ」の中の「要因(原因)分析」で、製造現場での「4M分析:人、機械、材料、方法の観点で要因を分析する」はその一例で、モレやダブリをなくすための観点です。
・モレでチャンスを逃していないか?
モレが発生すると、チャンスを逃してしまいます。
例えば、市場分析では、市場構造は常に変化していますので、「新しい市場が生まれていないか」、モレは早めに見つける必要があります。
・ダブリでムダをしていないか?
ダブリがあるとムダが発生します。
限られた経営資源を有効に使用して目標を達成するには、ダブリをなくす必要があります。
・優先順位を付けて効果的に
ミッシーで「モレやダブリをなくす」本来の目的は、優先順位を付けるためです。
特にミッシーが重要性を増すのは、戦略を立案するときです。
戦略の目的は「会社としての目指すべき方向(目的、目標)に対して、いかに効率的かつ効果的に経営資源(ヒト、モノ、カネ)の配分を行い、競合に差別化を図りながら自社にとって優位な状況を継続するか」に尽きます。
貴重な経営資源の配分にあたっては、できるだけ「モレやダブリをなくし」、優先順位をつけることが、重要になります。
ロジックツリー
ミッシーの観点で、論理的に整理していくために、系統的に整理していく必要があります。
この際に有効な手法として「ロジックツリー(ピラミッド構造)」があります。
「ロジック」とは「論理」、「ツリー」とは「木の幹と枝」のことです。
「ロジック」でツリー状に関連付けて、相互の因果関係や大小関係を明らかにするものです。
先に示した「ミッシー」の考えで、論理的に分解・整理することで、いろいろな課題の「原因追及」や「対策立案」に役立てることができます。
事実や考えられることを系統的に結び付けることにより、次の利点があります。
(1) 全体像が明確になる
(2)「モレやダブリ」を抽出することができる
(3) 各項目の大小関係(重要度)が明確になる
(4) 各項目の因果関係が明確になる
これらにより、具体的な原因特定や対策立案が可能になります。
原因追及のロジックツリー
「なぜかを追及する(真の原因を探る)」際に使用する方法です。
課題に対して、重要な要素を設定して、その要素に対して、「なぜなぜ分析」の観点で、「なぜそうなるか、どうしてそうなのか」をブレークダウンしていく手法です。
まず「大きな枝を3本位」選定(この段階でモレがないように)、この大枝に対して「中枝を3本位」選定、さらにこの中枝に対して「小枝を3本位」選定します(必要に応じて更にブレークダウン)。
そして、仮に完成した「ロジックツリー」を先に示した「①~④の観点」で眺めて(精査して)、修正を行います。
モレがあれば追加し、ダブリがあれば整理し、因果関係に矛盾があれば修正します(例えば中枝と小枝が逆になっている)。
こうして完成した「ロジックツリー」を見て、重み付け(順位付け)を行います。
この重み付けは、これまで調べた結果(現状分析)や経験により決定され、場合によっては「追加の調査・検証」を行います。
この重み付け(順位付け)した、上位「3項目程度」に対して、対策を検討していきます。
もし、設定した原因が間違っていても、再度、ロジックツリーを眺めて、他の要因を比較的容易に抽出することができ、次の対応をスムーズに実施することができます。
対策立案のロジックツリー
「どうするかを追及する(真の解決策を探る)」際に使用する方法です。
課題に対して、重要な要素を設定して、その要素に対して、「どうするのか、どうしたら良いのか」を追及していく手法です。
例えば、「利益を増やす」ことが課題の場合、「売上向上」「仕入・原材料の価格ダウン」「間接部門費の低減」などが「大枝」として抽出されます。
そして、各大枝に対して、更に「どうするのか、どうしたら良いのか」を検討します。
「売上向上」には、「単価のアップ」「販売量のアップ」などが考えられ、更に「単価をアップさせるにはどうするか」を考えていきます。
「原因追及のロジックツリー」と同じように、仮に完成した「ロジックツリー」を先に示した「①~④の観点」で眺めて(精査して)、修正を行い、ロジックツリーを完成させます。
こうして完成した「ロジックツリー」を見て、重み付け(順位付け)を行います。
この重み付け(順位付け)した、上位「3項目程度」に対して、対策を検討していきます。
選定した対策の効果を予測することにより、目標を達成できるかを把握して、足りないようであれば、ロジックツリーの中の別の対策を選定することができ、次の対応をスムーズに実施することができます。
ゼロベース思考
人は「ものを考える時」はどうしても、「これまでの経験」や「自分を取り巻く環境の中」に基づいて、制限をかけてしまいます。
「過去はこれで成功した(失敗した)」「うちの会社ではこんなことはできない」「上司がこう言うから」など、いろいろなことが考えられます。
この時に、「真の原因、あるいは対策は何か」を制限なく、冷静に考えることが必要です。
この時に必要な観点は次の2点です。
(1) 自分あるいは組織の狭い枠の中で考えない
(2) 顧客(相手)の立場になって考える:顧客の利益を考える
自分(自社、組織)の都合ではなく、「真の姿」を追及して考え、その後に「制約条件」を検討して「実施の判断」を行う必要があります。
考えた時点で、「制約条件」を決めないで、絶対必要であれば「制約条件を克服する策」を検討すべきです。
例えば、検討の結果、「設備投資が必要」となったが、手持ち資金が足りない場合、あきらめるのではなく、「融資などの資金調達」「補助金申請」などの策を検討する必要があります。
②の「顧客視点」は、「ゼロベース」で考えるときの拠り(原点)になります。
どうしても自分(自社)基準で考えてしまいますが、「顧客の立場」で考えることが、「ゴール(真の解)」に近付ける可能性を高くします。
仮説思考
「仮説」とは、「仮の結論」のことで、正しい結論を、分析の積み重ねと試行錯誤で出すのではなく、最初に仮説(仮の結論)をおいて、それを検証するやり方をすると、最小限の労力と期間で、結論を導くことができる可能性が高まります。
結論に関係ない部分での分析や作業は無意味になり、それを防ぐには、「仮説を幾つか立てて、それを一つづつ検証」していく方が効率が良いです。
「新製品の開発」、あるいは「課題の解決」の場合の手順を示します。
(1) 仮説を設定する
(2) 設定した仮説を検証するための「調査やデータの収集」を行う
(3) 収集した調査やデータの検証を行う
(4) 検証の結果、仮説が正しいと判断されれば「結論」とする
*正しくなければ、他の仮説の検証を行う
(5) 「結論」としたものの対策を立案して実行する
今回紹介したものは、「経営戦略」を立案して、実行するために必要なものと思いますが、各々の会社・組織において、状況は様々で、個別に検討する必要があります。
各会社の課題を一緒に検討させて頂き、最良の方策を導けるようにご支援させて頂きたいと願っていますので、ぜひ、ご相談をお願いします。
今回の記事については、次の資料を参考にし、これに自分の経験、視点を加えて紹介しました。
<参考資料>
① 中央経済社 経営コンサルティング1 経営の基本
② 日本実業出版社 よくわかる経営戦略
③ 日本能率協会マネジメントセンター MBAマネジメントコース 事業戦略
④ 企業経営通信学院 中小企業診断士コース① 企業経営理論
⑤ すばる舎リンケージ これだけ!ビジネス理論
⑥ ダイヤモンド社 問題解決プロフェッショナル 「思考と技術」
⑦ 北九州商工会議所主催 問題解決スキルアップセミナー「ビズ・ナビ&カンパニー 原コンサルタント 講演」
⑧ 北九州テレワークセンタービジネスセミナー「梓書院 田村社長 講演」