中小企業は新規事業を生み出せる?
ほとんどの中小企業は、成長期を過ぎて「成熟期」あるいは「衰退期」に入った業種・事業に取り組んでいると思います。その原因は、日本の産業のほとんどが成熟期や衰退期に入っていることによります。
この状況を打破して、売上・利益を増やすには、成長が見込める新規事業に取り組む必要があります。
中小企業の経営者には、自社では「新規事業」は生み出せないという意識があると思いますが、まずはこれを打ち破ることがスタートです。
中小企業のポジション
2023年7月20日に、当社の事務所がある「COMPASS小倉」の5周年のイベントがありました。
その中で「宇宙ビジネス」の取組みのパネルディスカッションがあり、パネラーとして関東の「金属加工メーカー」の社長さんが招待され参加されていました。
この企業は、普通の下請け主体の金属加工屋さんでしたが、社長の代替わりを機に、「宇宙分野の部品・ユニットの製作」に取組み、今では、高付加価値製品として実績を上げているとのことです。
経営者が「新規事業」を行うことを決断し、方向性を示すことにより、従業員が取り組むべき内容が明確になり、企業のレベルが上がることを感じました。
視点によっては、中小企業は新規事業を生み出すには適していると言えます。
新規事業というと、「大企業」や「スタートアップ企業」と思われますが、次の表のように、中小企業は、大企業とスタートアップのそれぞれの良いところを備えた存在であるとも言えます。
新規事業の取組み方
経営者の意思決定
当社が関係している「金属加工会社」の新規事業への取組を例に説明します。
この会社は、装置メーカーからの依頼を受けて、装置に使用される部品を製作(加工)し、装置メーカーに納入しています。
この仕事では、装置メーカーからの下請けであり、自社で独自製品や市場開拓を行うことはできません。そのため、社長や経営幹部は、新規事業の必要性を感じていました。
通常は、必要性を感じてもなかなか踏み出すことができません。
この会社では、外部コンサルタントの指導で、経営(事業)体質の改善に取り組んでいたこともあり、社長は新規事業に取り組む判断をしました。
対象は、「特殊な電子機器・システム」の開発・製造です。
新規事業に対する向き合い方
比較的社歴が長い中小企業の場合、既存事業のために最適化された組織・仕組みになっています。
その組織・仕組みでの中に新規事業を組み入れてもうまくいきません。例えば、技術部の中に「新規事業推進課」なるものを設置し、技術部長に新規事業を託すことです。この場合、どうしても技術部長は、既存事業を優先してしまい、リソースを既存事業に割り振り、新規事業は後回しになってしまいます。
人的ソースの切り離し
この金属加工会社の場合、既存事業のリーダー格の方に新規事業を兼務させていましたが、上記の問題が見えたために、外部から新規に核となる人材を採用し、既存事業と完全に分けました。
外部からのリソースの確保
新規事業を行う場合、自社が持ってない技術を導入するには、外部の力に依存する場合があります。
その場合、次の方法が考えられます。
(1)業務委託:ある部分的な要素に関して、ターゲットを決めて資金を出して開発を委託
(2)M&Aによるリソースの確保:資金的な余裕がある場合、関係する技術を持っている会社を人員を含めて買い取ることも方法の一つです。
資金の切り離し
中小企業の場合、大企業ほどの資金力はなく、新規事業に必要な資金を確保する必要があります。
現在、政府は、新規事業に取り組むための「事業再構築補助金」や「ものづくり補助金」等の制度を進めています。
新規事業の内容にもよりますが、これらの補助金を活用して、既存事業と資金面で分けて進めるのも有効な方策です。
この金属加工メーカーも補助金を活用して新規事業をスタートさせました。
また、最近は、大学では「産学連携」に力を入れており、新規事業の核となる製品・技術を大学と共同で行う方策もあります。この場合、経済産業省系だけでなく文部科学省系の補助金等を活用できる可能性があります。
経営者の決意と継続性
新規事業は、簡単に収益を得ることが難しく、時間の経過とともに、経営者の熱意が薄れてくることがあります。
新規事業はうまくいかなくても当たり前。だから新規事業の場合には、失敗しても手を挙げた時点で「マル」、うまくいったら「ハナマル」というくらいの気持ちでなければ、挑戦に向けた前向きな風土はつくれません。
中小企業の場合の新規事業の取組みは、大企業と比べて、その成否は企業存続に影響を与える可能性があります。そのためには、実施の前に、できる限りの調査が必要になります。
特に、市場・顧客のニーズを的確に取らえることが重要で、方向性を間違わないことです。