事業承継・M&A・廃業 2022年(1)
本記事は、以前のホームページに記載したもを整理したものです。
【1】会社をどう終了させるかを考える
(20220124)
休廃業・解散の状況
前号で、2021年の倒産に関しては、前の年と比べて22%少ない「6,030件」と57年ぶりの低水準であることを紹介しました。その要因として、コロナ禍対策としての政府主導の「給付金・助成金の支給」「融資、信用保証による貸付」などによる資金援助があげられます。
2022年1月18日に、東京商工リサーチから2021年の「休廃業・解散」状況が示されています。
これによると、前年よりも減少していますが、過去3番目に多い件数になっています。倒産は少ないが休廃業等は高い水準になっています。実際、当社にも廃業の相談が増えてきています。
前年と異なる現象も見られる
件数は前年よりも若干減っていますが、「コロナ禍の影響」と考えられる変化も見られます。
黒字企業が減少
2020年の黒字企業の休廃業等:61.5%
2021年の黒字企業の休廃業等:56.5%
すなわち、2021年は前年と比べて、赤字の状態で休廃業等に至った企業が増えていることを示しています。
「黒字率」は2001年は「73.0%」と最高で、その後、緩やかに減少していましたが、「60%」を割ったのは初めてです。コロナ禍での経営環境の激変が企業の損益に大きな影響を与え、休廃業の決断を促した可能性があります。
これまでは、黒字で資金的に余裕を持って廃業していた企業が多かったのに対して、最近は赤字になって慌てて廃業したところが増えたと推察されます。
M&Aは増えているが難しい
強制的に会社を閉じる「倒産」以外の中小企業の自主的な着地点としては次の3つの方法があります。
(1)「廃業」:会社を廃業させる
(2)「承継」:社長を交代する
(3)「M&A」:会社を売却する
経営者の高齢化が進み大承継時代を迎えている中で、政府は「M&A」の推進に力を入れ、補助金も制度化しています。
(参考)M&Aの推移
下図のように確かにM&Aの成立件数は増えていますが、「休廃業の総数:約44,000件」に対して「M&Aの総数:約4,300件」とM&Aは休廃業等の一割とまだまだ少ないのが現状です。
M&Aによる売却を進めている内に、時間とともに赤字が増えて、財産を残して廃業できたものが、借金の方が多くなってしまう可能性もあります。
廃業を基準に進める
M&Aは相手があるのに対して、廃業は自分の意思で進めることができます。
会社の終わりに正面から向き合い、廃業という着地点を視野に入れながら、会社の着地問題に取り組むことが必要と考えています。
まずは、廃業をベースにして現状の調査を行い、課題を抽出し、その課題に対する対応を計画にまとめる。
その一連の作業の中でM&Aの可能性があるなら、期限を決めてM&Aに挑戦し、不成立の場合は損失が少ない間に廃業するのも一つの進め方と考えています。
倒産が増えることは社会的な損失が大きくなりますが、円満な(損失が少ない)廃業が増えることは悪いことではないと考えています。
【2】廃業のポイントは「保有財産と利益」
(20220213)
事業復活支援金の事前確認
2020年1月31日より、『事業復活支援金』の申請が始まっています。
コロナの影響で売上が落ちている中小企業、個人事業者に支援金を支給する制度です。
この支援金は、「制度の主旨を理解しているか?」「きちんと経営(管理)をしているか?」などの観点から、経営知識があり中小企業庁に登録されている機関が「事前確認」を行っています。
当社は、その「確認機関」として認定され登録されています。
飲食業と建設業が多い
募集開始から当社へ毎日のように問い合せがあり、確認業務を行っています。
これまでの2週間で受けた「約20件」で圧倒的に個人事業者が多く(約90%)、業種では、飲食業:39%、建設業:19%、美容関係:14%となっていて、飲食業と建設業で約6割を占めています。
飲食業はアルバイトを数名使っている規模、建設業は一人親方のところばかりです。
コロナ関連倒産も飲食業と建設業が多い
帝国データバンクから2月10日にコロナ関連の倒産件数が発表されています。
これまでのコロナ関連の倒産数(負債1000万円未満、個人事業者も含む)は、全国で「2,833件」で、このうち、飲食業:467件(17%)、建設業:314件(11%)と両方合わせて約3割を占めています。
体力があるうちに廃業を考える
事業を継続するかの判断
事業を継続するかを検討する情報として次の4点があります。
(1)保有財産(借金を含めた)の状況
(2)利益(赤字を含めた)の状況
(3)社長の年齢・後継者の有無
(4)事業の将来性
保有財産と利益を考える
今回は(1)~(4)の中で、「(1)保有財産の状況」と「(2)利益の状況」を考えます。
【1】利益がでていて(黒字)、廃業したらお金が残る
現在利益が出ていて、会社をやめても借金ではなく、お金が残せるゾーンです。貸借対照表の純資産がプラス(資産超過)で、損益計算書の最終の当期利益が継続的に黒字の会社です。このゾーンに位置する中小企業は2割にも満たないと思います。
このゾーンで社長が高齢で後継者がいない場合、廃業だけでなく、後継者を探し出したり、会社の売却も行うことができます。
ここで重要なのは、社長の「方向性と方法」の決断です。
方向性は「どうしたいか?」です。
・親族(誰にを含む)に継がせたいのか?
・従業員に継いでもらいたいのか?
・M&Aで売却したいのか?
・自分の代で会社を閉じたいのか?
方法は「実施の支援先(相談先)をどうするか?」です。
この支援先の選定を誤ると、混乱に陥るばかりです。税理士、弁護士、中小企業診断士など「士業」は各専門分野の知識はありますが、事業承継やM&A、ましては廃業に関する知識、経験を持っている方は少ないのが現状です。
複数の候補者を選定して、その方に正当な対価を支払って計画とその実行を依頼することをお勧めします。役所や商工会議所が行っている「無料相談」では、有効な解は見つからないと思います。
早めに決定する
時間は思った以上に早く過ぎます。高齢になればなるほど死亡だけでなく認知症のリスクも高くなっていきます。
社長にもしもの時があったら、関係する多くの方が困ってしまいます。事業承継やM&Aには多くの時間がかかります。廃業にしても最短でも半年以上が必要になります。
【2】利益がでている(黒字)が、廃業したら借金が残る
この場合、次の2つの方向性があります。
利益がでているので、継続して事業を続け借金をなくす(減らす)
社長がまだ若くて時間がある場合は可能ですが、社長が高齢の場合はいつ何が起きるか分かりませんので時間的な余裕がありません。
利益がでている事業を他に売却(事業譲渡)を行い、残った借金の処理を行う
利益が出ている事業を、M&Aで事業譲渡の形で売却を行い、その対価を受け取る方法です。高い金額で売却できて借金をなくせる場合もありますが、ほとんどの場合、借金が残る形になります。
借金が残った場合は、様々な方法を用いて借金を減額する、なくす施策を行います。借金の返済先は命までは取らないので、しっかりと対応できれば道はあります。
【3】利益は出ていない(赤字)が、廃業しても財産が残る
このゾーンの場合、事業の将来性が見込めない場合、直ぐにでも廃業すべきです。
今回のコロナ禍の影響で、利益はでていないがまだ現預金が残っているケースも多いと思います。
コロナの感染拡大が減ったとしても消費者の行動が変わって、以前の売上が見込めないようであれば、体力(財産)があるうちに事業をやめることも選択肢としてあります。
売上の回復を期待して事業を継続して赤字が続き、気がついたら借金の方が増えてしまう可能性もあります。
【4】利益がでてなく(赤字)、廃業したら借金が残る
この場合が最も厳しい状況です。
事業をやめたら借金が払えない。事業を継続しても更に赤字が増え、場合によっては借金が更に増えてしまいます。
この状態では、通常の金融機関はお金を貸してくれなく、逆に、返済を求められます。
この時に、一発逆転を狙った無理な借金やギャンブル的な投機にはしると更に状況が悪くなり地獄に進みます。
この場合は、冷静になって、いかに損失を減らして終息させるかです。そのためには、社長が負けを認めることです。負けを認めたときから再生の道が開けていきます。
廃業を支援します
廃業は悪いことではありません。赤字なのにぐずぐずと継続して更に経営状況を悪化させることが悪いことです。
現状を見直して、先の見通しが立たない場合は、「倒産」に至らない前に、早めに廃業を決断して、実行した方が損失が少なく、再起できる可能性も高くなります。
「廃業」を前提に進めて、その一連の検討の中で、「M&A」による売却の可能性が見えてくる場合もあります。
【3】深刻・急がれる事業承継:『ガイドライン』の改訂
(20220327)
2022年3月17日に中小企業庁から『事業承継ガイドライン』の改訂と『中小PMIガイドライン』の策定が公表されています。
ここでは、『事業承継ガイドライン』について紹介し、『PMI』については別記事で紹介します。
事業承継の状況
『事業承継ガイドライン』が平成28年度(2016年)に改訂されてから約5年が経過し、この間、事業承継は徐々に進みつつありますが、経営者の高齢化に歯止めがかからず、特に直近は長期化している新型コロナウィルス感染症の影響もあり、事業承継を後回しにする企業も少なくありません。
経営者の高齢化は更に進んでいる
1990年代前半に平均4.7%であった経営者交代率は長期にわたって低下傾向にあり、ガイドラインが前回改訂された2016年以降も大きな変化もなく、直近5年間の平均では3.8%となっています。
交代が進まないために、全国の経営者の平均年齢も、1990年の「54.0歳」から一貫して上昇を続け、2020年には初めて60歳を超えています。
また、経営者の年代別の推移でも、経営者の高齢化は顕著に示されています。2000年では50歳代が中心でしたが、現在は60歳以上で70歳を超えた経営者が多い状況です。
事業承継をあきらめ廃業が増えている
中小企業白書2021年版に東京商工リサーチの『休廃業・解散企業』の動向調査結果が示されています。これによると休廃業は増加傾向にあります。
また、経営者の後継者の決定状況を見ると、半数以上が廃業を予定しています。
廃業理由として、「事業承継の意向ががない」「事業に将来性がない」という理由が約70%を占めますが、約30%が「後継者がない」と回答しています。(2019年・日本政策金融公庫総合研究所の調査結果)
廃業を基準に考えることも選択の一つ
親族内に経営者としての後継者がいない場合は、社内の人材に託すか、社外から招へいすることが考えられます。
また、近年は、会社を売却する「M&A」が注目され、多くのマッチング(仲介)会社が取り組んでいます。
しかし、後継者が決まるまで待つ、事業を引き継いでもらえる会社が出るまで待つ、というスタンスもありますが、待っている間に経営状態が悪くなる場合もあります。
廃業は悪いことではありません。赤字なのにぐずぐずと継続して更に経営状態を悪化させることが悪いことです。
現状を見直して、先の見通しが立たない場合は、「倒産」に至らない前に、早めに廃業を決断して、実行した方が損失が少ない場合があります。
「廃業」を前提に進めて、その一連の検討の中で、「M&A」による売却の可能性が見えてくる場合もあります。