経営改善・事業再生 2022年(4)
本記事は、以前のホームページに記載したものを整理したものです。
【1】収益を上げなければ『働き方改革』はできない
(20221201)
コロナ禍の影響で、「良い面」でも「悪い面」でも大きく業績が変わった企業が多いと思います。
また、ここにきて、ウクライナ情勢、気候変動、円安などによる「各種の工業資源の値上り」「食料品・生活用品の値上り」が企業の経営や家計に影響を与えています。
更に、「働き方改革」の推進による時短(残業時間の抑制)、根本策が見えない人手不足、経営者の高齢化に伴う事業継続問題など・・・、企業の経営状況、特に中小企業、小規模企業にとっては、益々厳しい状況になってきています。
今回は、中小企業の「働き方改革」をどうするかについて紹介します。
結論は、「働き方改革」を実現するには、「収益を上げる」しか方法はありません。収益を上げられなければ、従業員は会社を去り(他の会社に転職)、倒産か、廃業しか道はありません。
「働き方改革」を実現するためには?をまとめたものを示します。
青のラインは「どうするか?」を示したものです。逆の赤のラインは「働き方改革を実現するステップ」を示しています。
0 収益を上げる必要性
現在、大企業でなく、中小企業・小規模企業にも「働き方改革」が国の政策として求められています。
働く側の労働環境を良くしてあげる、また働く環境が良くないと、今いる従業員が辞める、募集しても人材が集まらなくなり、会社の存続に影響がでます。
大企業や収益力のある企業にとっては、「働き方改革」というのは、制度の整備ということですが、収益の余力がない企業の場合は、まず、収益力を上げて「働き方改革」ができる原資を産み出さなければなりません。
現状のまま、時短を推進したら、売上・利益の減少を招き、人を増やすと人件費がアップして、それが収益を減少させ、最悪の場合は倒産につながります。
1 収益を上げるには「生産性向上」が必要
まず、日本の生産性が世界的にみてどうなのかを、2020年の「公益財団法人・日本生産性本部」の公表資料から示します。
<日本の一人当りの労働生産性>
日本の一人当りの労働生産性は「78,655ドル(809万円)」、OECD加盟の38ヶ国中23位です。
トップのアイルランドに対して37.9%、3位のアメリカの55.6%です。主要先進7ヶ国の中で最も低い水準で、もはや先進国と名乗れない状況になっています。
<コロナ前後の労働生産性>
これだけ生産性が低いと向上する余地があるとも思われますが、コロナ禍の回復状況をみると日本の生産性の向上が他の国よりも更に大きく低下していることが分かります。
これは、2020年4~6月のデータなので、その後のコロナ禍の各国の経済施策を考えると更に差が開いていると思われます。
日本の生産性が低い要因は、企業の組織風土(年功序列の評価)、教育問題、IT導入の遅れなど様々なものがあります。
「PRESIDENT誌2022年6月17日号」にラグビーの前日本代表ヘッドコーチを務めた「エディー・ジョーンズ氏」が日本の生産性が上がらない要因として次の点を挙げています。
(1)ビジョンの策定、評価システムができていない
(2)長時間労働 *ムダな作業 *集中力低下
(3)安全志向 *失敗を許さない風土
2 生産性を上げるには企業の体質を変える
日本の企業はこれまで「お客様第一主義」で、低コスト化、商品のラインナップの拡充など、お客様の要望に何でも対応しようとしてきました。これにより、収益性の悪化、ムダ(ロス)の拡大に歯止めがかからなくなってきているのが現実ではないでしょうか。
また、建設業や製造業では、多層の下請け構造(ピラミッド)が形成され、発注先の言うことを聞き入れて、精一杯な改善により要求に応えてきました。残念ながら今回のコロナ禍で真っ先に仕事を減らされむなしさを感じている下請の経営者も多いと思います。
生産性を阻害している要因は、シンプルに次の2つではないでしょうか。
(1)分散している *多くのことに対応
(2)安すぎる *適正な代金を取っていない
総合電器メーカーの中には、製品数が多いがゆえに、技術者や営業要員が分散し、専門メーカーに負けているところもあります。飲食店でもメニュー数が多く、これにより調理の効率が落ちたり、食材ロスが増えてムダが生じています。
また、思い切って、絞って、値段を上げてみることを考えてみて下さい。
商品アイテムを減らす、製造品目を減らすなどの「絞り作戦」と「価格アップ作戦」によって、利益を上げて、冒頭の「働き方改革」に取り組んでみて下さい。
3 事業ドメインを再定義する
企業の中で最も重要なことは、「事業ドメイン」を決めることです。
中小企業の経営者は、変化が激しい中で、売上を上げる、利益を上げる、新商品を開発する、販路を開拓する、資金の調達(資金繰り)など、多くの課題に取り組んでいるのが現状です。
ここで、立ち止まって考えて頂きたいのが、
「一生懸命やっているが、方向性は大丈夫なのか?」
「このまま突き進んでいいのか?」
「もっと違う道があるのではないか?」、
これらの不安を取り除ける方策を得ることです。
この不安を取り除く方策が、「事業ドメイン」を決めることです。
事業ドメインは、「誰に」「何を」「どのように」を決めることで、自社は「何屋さん」「どういう事業をする会社」を決めることです。
これを決めることにより、進むべき方向が明確になります。
多くの中小企業は、この「事業ドメイン」を明文化はしていなくても、経営者の頭の中では決まっているかと思います。
まずは、現在の状況の「事業ドメイン」を明文化して下さい。
「誰に」:対象のお客さんは誰ですか?、勝負する市場は、地域はどこですか?
「何を」:主力の商品・製品は何ですか?、これは上の「誰に」と適合していますか?
「どのように」:どのように売っていますか?どこから仕入れをしていますか?
次に、コロナ禍、消費者の意識変化、インターネットの進展などの社会、技術変化によって、現状の「事業ドメイン」の見直しを実施します。
中小企業の場合は、資源(人・もの・金)が少ないので、リスクがある大きな変化はできないので、先に明文化した「現在の事業ドメイン」を検討し、どこをどう変更するのかの見直しを慎重に行う必要があります。
「誰に」:現在の対象お客・市場が適切なのか?対象を広げすぎてないか?他に適切な対象がないか?などの見直しをデータも確認しながら検討します。この結果により、対象が変わる可能性もあります。
「何を」:現在の製品・商品に対して、自社の見方とお客・市場の見方が違っている可能性があります。お客・市場によっては、新製品・新商品の可能性もあります。この時は、より付加価値が高い(販売価格が高い)製品・商品を検討することが重要です。従来品よりも高くてもお客さんが買ってくれるものを考えるべきで、材料を安くして価値を下げるようなことをすると市場から見放されます。
「どのように」:上記の「誰に」「何を」が決まれば、「それをどのように売るか?」「どのように生産するか?」「どのように調達するか?」などの方策の検討になります。例えば、売り方として、従来の販売方法だけでなく、インターネットの普及により様々な販売方法があり、選択肢が広がっています。
4 意味がある事業計画を策定する
これを機会に「意味がある事業計画(経営計画)」を策定することをお勧めします。
「事業ドメイン」を再定義することにより、進むべき方向が明確になりました。その方向性を明確に定めていくのが「事業計画」です。
まずは、「事業ドメイン」の中で、10年後の将来像を描くことです。
「このご時世、明日のことが分からないのに、10年後はわかるはずがない」という意見もあるかと思いますが、先が読めないほど、「事業計画」は重要になります。
自社のあるべき姿を事業計画書の形でまとめ、そこに描かれた自社の未来を実現させるために、経営者が率先して、自己変革することが必要です。経営者自身が、企業と顧客に対する責任を果たしていく行動を示すことで、社員の自己変革を促し、社風を一新して、顧客と社会に貢献できる企業を作り変えることができます。
5 経営者の考え方を変える
この1年間、「社長の教祖」、「日本のドラッカー」と呼ばれた、伝説の経営コンサルタントの「一倉定」先生の社長学シリーズを読んで学んでいます。
その中で、何度も出てくる次の言葉があります。
「事業経営とは、変転する市場と顧客の要求を見極め、これに合わせて我が社をつくりかえることである。」
40年以上前の言葉ですが、現在に当てはめても納得がいく言葉です。
経営者としては、会社を継続させることが最大の使命です。
いくら、目標管理制度を導入したり、経営者と従業員の交流を深めたり、社内の環境整備を行っても、利益を上げる事が継続的にできなければ、会社を存続することができません。
中小企業の経営者としては、会社を継続させる、そのためには利益を上げる、そのためには「事業ドメイン」を明確にして、事業計画を立てて、それを実行し、(外部環境の変化等)必要に応じて、修正していくことが必要です。
考え方を変えるのは難しいですが、「考え方を変えないと生き残れない」のが事実です。
★ 経営者の考え方が変わると・・・
経営者の考え方が変わると、先に示した図の逆の動きが実現できます。
経営者の考え方が(良い方向に)変わると、
・意味がある事業計画が策定されます、
・その事業計画書の中には、「事業ドメイン」が明確に定義されています、
・事業ドメインが再定義されると、企業の体質が変わります、
・体質が変わると生産性が上がります
・生産性が上がると、当然、収益が上がります
・収益が上がると、従業員の給料が上がり、勤務時間も少なく、働き方改革が実現されます
極論すると、経営者の考え方が変わらないと、働き方改革は実現できません。
【2】社長が連帯保証人にならなくて借入ができるか?
(20221219)
最近、各種の報道で、2023年から金融庁が、「銀行等が融資を行う際に、借入金を返せなくなった場合に経営者が個人で背負うことになる「経営者保証」を実質的に制限する」旨の報道がなされています。
「経営者保証」を付ける場合は、銀行等は経営者に「どうしてつける必要があるか?」を説明する義務があり、「経営者保証」を付けた件数を金融庁に報告することになっています。
この点は、すでに、当社が別の記事で紹介したように、今年度の金融庁の方針で示されていることで、この具体化の一環になります。
経営者保証に依存しない融資の割合
先の投稿で示した金融庁が公表している「経営者保証に依存しない融資の割合の推移」を再掲します。
2013年に制定された「経営者保証に関するガイドライン」に沿って、これまでも金融庁が金融機関に一定の条件を満たせば経営者保証に依存しないよう要請を行っていました。
約10年経過して、徐々に経営者保証を付けない融資は増えてきていますが、まだ全体で30%に留まっていて、金融庁は不十分と判断しているようです。
どうしたら経営者保証をつけないで済むのか?
「経営者保証に関するガイドライン」では、次の3条件を満たせば、経営者保証を金融機関が要求しないように定めています。
(1)法人(会社)と経営者(社長)の関係が区分・分離されている
*資産の所有やお金のやり取りに関し、法人と経営者の関係を明確に分けている。
(2)財務基盤が強固である
*法人のみの資産や収益力で借入金の返済が可能となるように、財務基盤を強化する。
(3)適時適切な情報開示をしている
*金融機関へ決算書、資金繰り表などの財務情報を適時適切に開示を行い、経営の透明性が確保されている。
これまで当社に資金調達・銀行返済・補助金の獲得などでご相談・ご支援している会社の中で上記3点全てを満たしている会社はほぼありません。上記の「30%」というのは逆に高い数値と感じています。
「そんなに良い会社があるのか?」「条件を満たす会社がなんで借りる必要があるの?」という印象です。
今後の銀行の対応は?
今回の金融庁の方策での「事業での失敗を個人財産に及ぼさない」ということは、生活基盤の確保、再チャレンジしやすいなどの点では良い方向であると思います。よって、社長にとっては、ある程度の安心感を持って会社経営を行えると思います。
一方、銀行側の対応はどうでしょうか?
先日、ある銀行員にこの「経営者保証」の件について話をしました。その方によると「経営者保証」を付けるのは当たり前(常識)で、「経営者保証」を付けない方針は全く認識していませんでした。約10年経過しても「経営者保証のガイドライン」は、各銀行の多くの実務担当者には伝わっていないのが現実かと思います。
金融庁の方針では、各銀行に、「経営者保証」の状況報告を義務付けるとのことです。
その場合、銀行はどうするでしょうか?
金融庁への報告で、経営者保証を外した割合を報告しなければなりません。外した割合が低い場合、金融庁から理由を求められる等の可能性があります。
となると、経営者保証を外した割合を増やすには、従来は経営者保証を付けて貸し出していたものが、貸し出しがなされない可能性があります。
今回の金融庁の方針は、逆に、ベンチャー企業や事業再構築を行う企業等への貸し出しが減るのではないかと思います。この点は、今後の動きをみたいと思います。
良い経営をして実績を積むしかない
現在、コロナ禍等により様々な中小企業への支援策が行われています。
これを冷静な目で見ると、中小企業の中でも「良い企業」向けの施策がほとんどです。
経営状況が悪い中小企業は、各種の施策や制度を使いたくても使えないのが現状です。「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」などでは、補助金をもらう前に一旦全額を企業が負担しなければなりません。企業によっては補助金が採択されても、最初の支払分を銀行が貸してくれなくて断念している場合もあります。
政府の方針は、
・「きちんと経営して実績を上げている企業」を支援し、
・「計画性がなく、実績を上げていない企業」は市場から撤退してもらう
国としては、多くの企業が実績を上げて、税金を多く納めてもらう、そのために、補助金を出しています。
要は、しっかりと経営(事業)計画を策定して、銀行や取引先に情報開示を行い(透明な経営)、良い業績を上げることです。
まずは、現状分析・計画の策定です。
当社は、認定支援機関として、現状分析・計画策定、その後の実行支援を行います。