経営改善・事業再生 2022年(2)
本記事は、以前のホームページに記載されたものを整理したものです。
【1】中小・零細企業にとって厳しい経営状況が続く
(20220424)
事業復活支援金の事前確認から思うこと
現在、「事業復活支援金」の受付・給付が進められています。当社((株)事業パートナー九州/行政書士北九州アシスト事務所)では、「認定の経営革新等支援機関」として、申請者が要件を満たしているかの事前確認を担当しています。
2022年4月24日時点で、139件の確認作業を行っています。
*申請の締切りは、5月31日(火)まで(事前確認の最終は5月26日(木))。
当社が対応する範囲は、商工会議所や金融機関と継続的な取引がない事業者なので、中小・零細企業や個人事業者が主な対象になります。
これまで、当社が「経営改善」「事業再生」「補助金申請支援」などで関わっている企業よりも事業規模(売上、従業員数)がかなり小さい事業者になります。
100件の確認が終了時した際の事業者の内訳を示します。
今回の確認作業で、直接やZoomでの面談を通して、小規模事業者の経営面・財務面の現実に衝撃を受けました。
「この収入額で生活ができているの?」「今後の展望はあるの?」更に「日本の社会はこのままで良いの?」と感じました。
経営のコンサルを依頼されているわけではないので、詳しい話は聞いていませんが、この状態の中で「頑張ります」と決意は分かるのですが「どうするの?」が見えない事業者がほとんどです。
「中小企業が日本社会を支えている」ということも事実であり、また「日本の産業の生産性が低いのは中小企業が多いことに原因がある」のも事実です。
現在の中小企業の経営状況
コロナ禍の悪影響が表面化してきている
飲食店及びその関連が厳しくなっている
最近、北九州市小倉の繁華街を歩いているとシャッターが下りて「テナント募集」の貼紙が目立っています。
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除され、人手は増えていますが、企業や団体によっては大人数での宴会は禁止になっていて、個人の中でも外食を控える状況が続き、飲食店の客足はコロナ禍以前には戻っていません。小さな個人営業の店だけでなく、複数店舗を所有する事業者の倒産や廃業も聞かれるようになりました。店によっては、休業補償が出ていた時の方が収入が多かったとの話もあります。
飲食店だけでなく、関係する業種、お酒や食品の「卸・小売店」、さらに製造しているところもダメージを受けており、今後更に倒産や廃業が増えてくることが予測されます。
飲食店の中には、コロナ禍で、テイクアウトやECサイトでの販売など、新たなビジネスモデルを取り入れたところもありますが、多くは何の変革もなくこれまでの商売を継続しているのが現状と思います。
飲食業の平均的な営業利益率は売上の3~10%であり、売上が減っている中での経営は厳しさが増します。
先に示した個人事業者の「頑張ります」だけでは経営を続けることができません。また、銀行から「コロナ融資」で借入を行ったところの中には、元金の返済が始まったところもあり、更に経営状況が厳しくなってきます。
また、飲食店にとって、「食料品の値上げ」も大きな影響を受けています。更に、経済の回復によって「人手不足」の面も影響を受けるようになります。
そのため、飲食店の経営に関しては、現状をよく把握して、今後の進め方の見直しが必要になります。
建設業、運送業はコロナ禍の他に大きな障害が★2024年問題
現在、国策として『働き方改革』が進められています。その中で、『時間外労働の上限規制』が進められています。大企業は2019年4月から中小企業は2020年の4月から導入されています。建設業や運送業などでは、5年間猶予されていますが、2024年からは対応が必要になります。
<導入の目的:厚生労働省の資料から>
長時間労働は、健康の確保を困難にするとともに、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっています。
長時間労働を是正することによって、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり労働参加率の向上に結びつきます。
このため、今般の働き方改革の一環として、労働基準法が改正され、時間外労働の上限が法律に規定されました。
<規定の内容>
●今回の改正によって、法律上、時間外労働の上限は原則として「月45時間・年360時間」となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなります。
●臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を守らなければなりません。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計について、
「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」
「6ヶ月平均」が全て1月当り80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
★上記に違反した場合には、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。
<経営に与える影響>
現在、建設業・運送業、特に中小企業にとっては、この残業規制は経営上厳しいことになります。次のことが予測されます。
・残業が減れば労働者の給料が減る
*月に約4万円、年間約50万円の収入減
⇒ 労働者はより給料が高い大手企業に移る
*中小企業は給料面で引き留めることは難しい
⇒ 中小・零細企業は、労働者を確保できなく事業継続を断念
今後の経営を考え直す
上記のように、コロナ禍や働き方改革等の規制などにより、中小企業の多くは、事業の再構築が求められています。
再構築と言っても簡単ではありません。十分な勝算がなく、行き当たりばったりに、現在の事業とかけ離れたことに手を出すと更に傷口を深くすることになります。
まずは、既存の事業についての現状分析を行って、しっかりとした事業計画を策定して進めることが必要です。
【2】国策として進める『事業再生』
(20220606)
2022年5月31日・事業再生シンポジウム
『コロナ後を見据えた中小企業支援と事業再生』というタイトルで行われた、日本政策金融公庫主催のシンポジウムをオンラインで視聴しました。
ここで驚いたのが「事業再生」という言葉が全面にでている点です。私の中では、「事業再生」という言葉は、経営に行き詰まった企業が絶望の中から這い上がろうとする姿を思い浮かべます。政府系の機関が主催するシンポジウムの名前としては違和感を感じました。逆に政府は今の中小企業の経営状況に関して危機感を持っている現れかもしれません。
この中では、注目すべき点は、今後、中小企業の支援として、各企業の状況を3つのフェーズに分けて、それぞれのフェーズに応じた支援を行うとのことです。
Ⅰ 収益力改善フェーズ
Ⅱ 事業再生フェーズ
Ⅲ 再チャレンジフェーズ
*これまで、日本の社会では企業経営を失敗する(廃業・破産)と復活は難しかったですが、今回はこの復活にも目を向けています。
各フェーズで実施される施策を紹介します。なお、これらの施策を含めて、「中小企業活性化パッケージ」の名称で施策がまとめられています。(2022年3月公表)
Ⅰ 収益力改善フェーズの企業への施策
(1)認定支援機関による伴走支援の強化
・収益力改善に向けた計画策定に加え、認定支援機関による計画実行状況のフォローアップや助言等を強化【2022年4月から実施】
*今まで「計画策定」に力を入れ、その後の継続的な支援が不足していて、改善が上手くいかなかった事例が多いことによる反省から。
(2)協議会による収益力改善支援の強化
・ポストコロナを見据え、中小企業再生支援協議会において、コロナ禍で緊急的に実施している特例リスケを収益力改善支援にシフト【2022年4月から実施】
*コロナ禍限定の特例リスケ支援を、全体に展開。
Ⅱ 事業再生フェーズの施策
(1)中小機構が最大8割出資する再生ファンドの拡充
・コロナ禍の影響が大きい業種(宿泊、飲食等)を重点支援するファンドの組成、ファンド空白地域の解消を促進【順次実施】
*関係情報を入手しましたら紹介します
(2)事業再構築補助金に「回復・再生応援枠」を創設
・再生事業者が優先採択される枠を創設し、収益力の向上を促進【第6回公募(6月30日締切り)から実施】
・補助率:3/4(中堅2/3)
・補助上限額:従業員規模により500万~1,500万円
*当社では、現在、2社の事業計画を策定支援を行っています
(3)中小企業の事業再生等のガイドラインの策定
(経営者退任原則、債務超過解消年数要件等を緩和)
・数百人規模の民間専門家(弁護士等)を活用し支援
・ガイドラインに基づく計画策定費用の支援制度を創設【2022年4月から実施】
Ⅲ 再チャレンジフェーズ
(1)経営者の個人破産回避のルール明確化
・個人破産回避に向け、「経営者保証ガイドライン」に基づく保証債務整理の申出を受けた場合には、金融機関が誠実に対応する、との考え方を明確化【2021年度中に実施】
(2)再チャレンジに向けた支援の強化
・経営者の再チャレンジに向け、中小機構の人材支援事業を廃業後の経営者まで拡大【2022年4月から実施】
・中小機構において、廃業後の再チャレンジに向けた専門家支援を展開【順次実施】
・公庫の再チャレンジ支援融資を拡充【2022年2月から】
政府の支援はあるが、経営者の決意・戦略・実行が重要
政府は、今後の日本経済の発展には、中小企業の事業再生が不可欠として、今回、政策を公表し推進しています。
政府がいくら旗を振っても、実施するのは中小企業の経営者です。
・中小企業の経営者の意識が変わり、
・正しい意味がある戦略を立案し、
・事業計画に落とし込み、
・実行に移すことが重要です。
最悪の行動は検討不十分で金融機関に駆け込む
今回の施策と以前に金融庁から各金融機関等に出した通達からは、「資金繰りに困っている企業は、金融機関に相談して助けてもらいなさい」と読み取れます。
現時点で、政府からの施策に関する各金融機関等への浸透状況はまちまちだと思います。各支店の担当者がどの程度内容を把握しているかは分かりません。
従来の金融機関のスタンスは、「日傘は貸しても、雨傘は貸さない」です。経営状態が悪くなって資金繰りが厳しくなった状態で借入を申し出ても多くの場合は断られると思います。
金融機関にお願いするにしても、まずは、次の点を明確にして行って下さい。
・現在の経営状況を把握する、例えば、いつまで資金繰りが回るのか?
・黒字(利益が出る)になるストーリーが描けるのか?
・当面の改善策(経費削減など)を示せるか など
一人の判断では、最適な解を導けない可能性がありますので、まずは、専門家にご相談下さい。
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