M&Aアドバイザー資格制度
中小企業のM&Aでは、さまざまな問題が報告されています。この点は、先の投稿で「M&Aトラブル」として8回シリーズで報告しています。
*8回目の記事です。ここに他の7回のバックナンバーも示しています。
これらの問題を防止するために、政府は「M&Aアドバイザー資格制度」を検討しているとのことです。
この制度について、目的や現時点での検討内容を紹介します。
また、参考として、「M&Aの適正化」に関して、これまで政府等が進めてきた施策等について最後に紹介します。
2025年6月13日に閣議決定された成長戦略「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」では、中小企業のM&Aにおける質・倫理のバラつきを解消し、悪質業者の排除を図るために、新たなM&Aアドバイザー資格制度の導入を検討する方針が明記されています。以下に整理してご紹介します。
背景と目的
・M&Aアドバイザーの質および倫理観に大きなバラつきがあること。
→ 専門知識(財務・税務・法務等)や倫理意識の統一が必要とされています。
・中小・小規模企業側の不安解消と、信頼性あるM&A市場の形成。
→ 現状では「買手が従業員の雇用を維持しない」「買手が売手の経営者保証を外さない」などの不安もあり、資格制度はトラブル防止の切り札と位置付けられています。
資格制度の概要(検討内容)
制度対象者
・個人アドバイザー
制度内容(試験制度案)
・知識試験(財務・税務・法務・実務プロセス)
・倫理規定の遵守義務
・米国IBBA方式を参考に、業務経験の確認も検討(例:3件以上のM&A案件)
更新制度
・資格更新・倫理・教育要件(例:3年ごとの更新、継続教育など)
制度導入のプロセス
調査・検討段階
・中小企業庁が2025年5~6月に実施した研究会で案を検討
・国際的事例(IBBA:米国の中小企業M&Aブローカー協会制度)も調査
実施スケジュール案
・「2026年度開始の見込み」との複数報道あり
期待される効果
効果 | 内容 |
トラブル防止 | 不正買手排除、報告書の精度向上など |
市場の信頼性向上 | 資格保有者の倫理的行動・情報公開で信頼確保 |
専門性の底上げ | 知識・実務力の向上で買収対象企業も安心 |
今後のポイント
・2025年後半までに具体案の公表:制度設計、試験範囲、運営組織(国家 or 業界団体)、更新方式など。
・関連制度との連携強化:事業承継支援センターの体制強化や地域金融機関との連携も並行推進中 。
まとめ
・新制度は2026年度に向け導入が計画されており、M&A市場の信頼性と透明性を高める狙いがあります。
・今後、試験内容や適用範囲、運営の枠組み(例えば国家資格か民間認定か)などの議論が進む見通しです。
・関連して、M&A後のフォロー(PMI)、事業承継支援拠点の強化、金融機関との連携などの施策も一体的に実施されています。
今後、具体的な制度設計が公表された場合、情報を提供していきます。
(参考)これまでのM&Aに関する規制等
日本における中小企業M&Aの適正化に向け、政府は現在以下のような制度・規制を進めています。
中小M&Aガイドライン(2020年策定/2023年改訂)
・対象:M&A仲介事業者やFA向け。
・内容:重要事項説明の強化、利益相反防止、セカンドオピニオンの容認など、適正な業務運営を促す行動指針を整備。
・改訂(2023年):料金の最低水準明記や倫理面を含む項目強化 。
M&A支援機関登録制度(2021年度~)
・対象:仲介業者だけでなくFAなど幅広い支援機関。
・内容:登録に際しガイドライン遵守を宣言、違反時には登録取消も可能 。
・効果:補助金(事業承継・M&A補助金)の支援対象を登録済み機関に限定し、質の高い支援の普及を図る 。
・取引データの可視化:登録機関の匿名統計情報を公開し価格透明性を向上 。
研究会・検討会設置による制度整備
中小M&A市場改革検討会(2025年5月設置)
・売手・市場・買手の課題(例:契約テンプレ整備、PMI規範、手数料適正化)を包括的に検討。
M&Aアドバイザー資格制度検討(上述)
2025年1月より、民間団体主導で財務・法務・税務・倫理を問う試験制度の検討を開始。
試験は免許制ではなく「検定試験」形式で、合格者は登録・倫理規程遵守・氏名公開・違反時取消や公表の対象。
業界自主規制ルール
M&A支援機関協会(旧M&A仲介協会)
・2023年12月に広告・営業・コンプライアンス・重要事項説明の自主規制ルールを策定し、2024年4月より運用 。
・資格制度検討委員会を2025年1月設置、学識経験者・実務家による試験制度導入検討が進行中。
官民連携推進パッケージ
・2025年5月・石破会議にて発表:
この中の「事業承継・M&Aパッケージ」で次の点が示されています。
・売手保護の強化(雇用維持・保証解除違反時の買い戻しスキーム整備)
・官民支援機能の強化(専門家連携・紹介インセンティブ)
・優良買手の育成マッチング支援を進展
PMI(買収後統合)・労働者保護の促進
・注意喚起:不適切M&Aによる労働条件悪化や雇用不安に関し、中小企業庁が項目別注意を実施。
・PMIガイドラインで、労使協議の重要性を明記 。
まとめ:現在進行中の制度・規制
・ガイドライン整備・登録制度で基準を明確化・強制力付与
・資格試験導入を検討中で、倫理・専門性の民間検定による底上げ
・業界自主規制ルール強化で現場の質を向上
・官民連携パッケージで売手保護と買手育成支援
・PMI・労働者保護も制度面での裏付けを実施中
これらを合わせることで、「信頼されるM&A市場」への転換が政府の狙いです。
現状、これらの制度・規制では不十分なので、今回紹介の「M&Aアドバイザー資格制度」の導入検討が行われています。