人手不足時代の「ジョブカービング」 - 事業パートナー九州 北九州市(福岡県)経営コンサルタント

人手不足時代の「ジョブカービング」

「できる人を探す」から「できる仕事をつくる」へ

「求人を出しても応募がない」
「若い人を採用しても、なかなか定着しない」
「ベテラン社員が定年を迎えるが、これまでと同じ働き方を続けてもらうのは難しい」

こうした人材の問題は、いまや多くの中小企業にとって最大の経営課題の一つになっています。

これまでの「強い会社をつくる経営」シリーズでも、第4回では「人が辞めない会社」、第5回では「社員が育つ会社」を取り上げました。

第4回「人が辞めない会社」はこちら

第5回「社員が育つ会社」はこちら

しかし、人材を「採用する」「定着させる」「育てる」だけでは、これからの人手不足に対応できない企業も増えていくでしょう。

そこで注目したいのが、「ジョブカービング(Job Carving)」という考え方です。

ジョブカービングを一言でいえば、

「人を仕事に合わせるのではなく、仕事を人に合わせて組み直す」

という人材活用の方法です。

中高年社員の活用だけでなく、採用難、技能承継、若手育成、パート・シニア人材の活用など、中小企業が抱えるさまざまな人材課題に応用することができます。

ジョブカービングとは何か

「Carving」には、「彫る」「切り出す」という意味があります。

つまりジョブカービングとは、一つの職務をそのまま一人に任せるのではなく、仕事を細かく分解し、その中から本人の能力や経験、適性に合った仕事を「切り出す」考え方です。

例えば、「営業担当者」という仕事を考えてみましょう。

一口に営業といっても、実際には、

・新規顧客の開拓
・既存顧客への訪問
・見積書の作成
・顧客情報の入力
・提案資料の作成
・問い合わせへの対応
・クレーム対応
・若手社員への同行指導

など、多くの仕事が含まれています。

従来の採用では、これらをすべてできる「営業社員」を探そうとします。

ところが、そのような人材は簡単には見つかりません。

そこで仕事を分解します。

例えば、営業経験が豊富な60代の社員には「既存顧客のフォロー」「クレーム対応」「若手社員の同行指導」を担当してもらう。

データ入力や資料整理はパート社員に任せる。

新規開拓は若手社員が担当する。

このように仕事を組み替えることで、それぞれの人の強みを生かすことができます。

これがジョブカービングの基本的な発想です。

中高年社員の活用に適している

ジョブカービングが注目される理由の一つが、中高年社員や定年後再雇用者の活用です。

長年勤務してきた社員が60歳、65歳を迎えたとき、

「今までと同じ仕事を続けてもらう」

あるいは、

「第一線から外れて補助的な仕事をしてもらう」

という二者択一になっていないでしょうか。

しかし、中高年社員には長年蓄積してきた大きな財産があります。

顧客との人間関係、業界に関する知識、製造技術、トラブルへの対応力、社内外の人脈、若手を指導する力などです。

一方で、体力を必要とする仕事や長時間勤務などは、年齢とともに負担が大きくなることもあります。

そこで、「何ができなくなったか」ではなく、「何なら今まで以上に価値を生み出せるか」という視点で仕事を組み直します。

例えば、製造現場で長年働いてきた社員なら、実際の製造作業を減らし、「品質確認」「新人教育」「技術指導」「不具合原因の分析」を中心とした仕事に変えることも考えられます。

これは単なる高齢者への配慮ではありません。

会社が長年蓄積してきた技術やノウハウを次世代へ引き継ぐ、重要な経営施策でもあります。

「採用できない会社」にも有効

ジョブカービングは、現在働いている社員だけの問題ではありません。

採用にも活用できます。

中小企業の求人を見ると、ときどき非常に多くの能力を一人の応募者に求めています。

・営業経験がある。
・パソコンが使える。
・顧客対応ができる。
・管理業務もできる。
・できればマネジメント経験もある。
・そしてフルタイムで勤務できる。

これでは、知らないうちに「何でもできる人」を探していることになります。

当然、採用のハードルは高くなります。

ここでも、「この仕事は、本当に一人ですべて担当する必要があるのか」と考えてみることが重要です。

業務を細かく分ければ、

・顧客対応は経験豊富なシニア人材、
・資料作成やデータ入力は短時間勤務のパート社員、
・ITやSNS関連は若手社員、

という分担ができるかもしれません。

「会社が求める仕事に合う人を探す」のではなく、「採用できる人に合わせて、仕事そのものを再設計する」という発想です。

採用難が続く時代には、求人方法を変えるだけではなく、「求人する仕事そのもの」を見直すことも必要なのです。

若手社員を育てるためにも使える

第5回「社員が育つ会社」でも触れたように、中小企業にとって人材育成は重要な経営課題です。

第5回「社員が育つ会社」はこちら

しかし現場では、「若手を教育したいが、教える時間がない」という問題がよく起こります。

そこで、ベテラン社員の仕事の一部として行われていた「後輩への指導」を切り出し、一つの正式な役割として位置付けます。

例えば、
「技能伝承担当」
「新人教育担当」
「営業同行・育成担当」
などです。

これまでの中小企業では、教育は「時間が空いた人が行う仕事」になりがちでした。

しかし、技能や経験を若手に伝えること自体を正式な仕事として評価すれば、ベテラン社員の経験を会社の資産として残すことができます。

ジョブカービングは、仕事の再配置であると同時に、技能承継の仕組みづくりにもなるのです。

管理職や専門職の生産性向上にも使える

もう一つ、中小企業でぜひ考えてほしいのが、社長や管理職、専門職の仕事です。

例えば営業部長が、顧客訪問、見積書作成、売上集計、会議資料作成、メール対応、部下の相談、クレーム対応まですべて行っている会社があります。

果たして、そのすべてを営業部長が行う必要があるでしょうか。

仕事を分解してみると、「営業部長でなければできない仕事」と、「他の社員でもできる仕事」が見えてきます。

後者を事務スタッフやパート社員などに移すことができれば、営業部長は顧客との商談や部下の育成など、本来行うべき仕事に集中できます。

つまりジョブカービングは、単なる人材活用ではありません。

会社全体の生産性を高める業務改善の手法でもあるのです。

中小企業での導入方法

では、実際にどのように進めればよいのでしょうか。

まず行いたいのが「業務の棚卸し」です。

例えば経理担当者について、「経理を担当している」だけでは不十分です。

請求書発行、入金確認、経費精算、会計入力、銀行対応、資金繰り表作成など、実際に行っている仕事を細かく書き出します。

次に、それぞれの仕事を、
「専門知識が必要な仕事」
「経験が必要な仕事」
「定型化できる仕事」
「他の人でもできる仕事」
「身体的な負担が大きい仕事」
「若手に引き継ぐべき仕事」
などに分類します。

そして、社員側についても、
「何が得意なのか」
「どのような経験を持っているのか」
「今後どのような働き方を希望しているのか」
を確認します。

最後に、「会社が必要としている仕事」と「社員が力を発揮できる仕事」を組み合わせる。

ここまで行うことで、新しい職務が見えてきます。

重要なのは「仕事を与える」だけで終わらせないこと

注意したいこともあります。

特に定年後再雇用などでは、「負担の少ない仕事を用意してあげよう」という発想になりがちです。

しかし、本人にとって「会社から必要とされていない」と感じる仕事では、意欲は高まりません。

ジョブカービングでは、「何を担当するのか」だけではなく、
「なぜこの仕事が会社に必要なのか」
「どのような成果を期待するのか」
「どのように評価するのか」
まで明確にする必要があります。

例えば「若手の面倒を見る」という曖昧な仕事ではなく、「若手社員3名に対して月2回の同行指導を行い、営業ノウハウを伝える」とすれば、仕事としての役割が明確になります。

役割が変われば、評価制度や処遇についても併せて検討する必要があります。

「人がいない」ではなく「仕事のつくり方」を考える

これから中小企業の人手不足が簡単に解消するとは考えにくいでしょう。

そのような環境で、「若い人が応募してこない」「経験者が採用できない」と嘆くだけでは問題は解決しません。

経営者が考えるべきなのは、「今ある仕事の形は、本当にこのままでよいのか」ということです。

仕事を細かく分解してみる。
社員一人ひとりの強みを確認する。
ベテラン社員の経験を若手に移す。
短時間勤務者やシニア人材でもできる仕事を切り出す。
管理職を定型業務から解放する。

こうした小さな見直しを積み重ねることで、今まで採用対象にならなかった人材も戦力になる可能性があります。

そして、現在働いている社員についても、それぞれの強みをより生かせるようになります。

「人が足りないから採用する」という発想だけではなく、「仕事を組み替えることで、今いる人材と採用できる人材を最大限に生かす」。

これがジョブカービングの本質です。

強い会社は「人」に合わせて仕事を変えられる

人手不足時代の中小企業経営では、「優秀な人材を採用できる会社」だけが強いわけではありません。

むしろ重要なのは、「さまざまな人材を戦力化できる会社」になることです。

若手社員、中高年社員、定年後再雇用者、子育て中の人、短時間勤務者など、それぞれ働ける時間も経験も得意分野も違います。

その違いを「制約」と見るのか、「組み合わせられる経営資源」と見るのか。

ここに大きな違いがあります。

第4回では「人が辞めない会社」、第5回では「社員が育つ会社」を考えてきました。

第4回「人が辞めない会社」はこちら

第5回「社員が育つ会社」はこちら

そこからさらに一歩進めると、

人が辞めない。
人が育つ。
そして、その人が最も力を発揮できる仕事をつくる。

この3つを組み合わせることが、これからの中小企業の人材戦略では重要になります。

「人に仕事を合わせる」というジョブカービングの発想は、人手不足を単なる採用問題として捉えるのではなく、会社の仕事そのものを見直す経営改革につながります。

「人がいない」と考える前に、「今の仕事のつくり方を変えられないか」一度、社内の仕事を棚卸ししてみてはいかがでしょうか。

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