原材料・燃料価格の高騰にどう備えるか
三つの資金繰りシナリオで、実行できる経営改善計画をつくる
日本政策金融公庫の調査が示す、コスト高への備え
日本政策金融公庫が2026年10月19日に公表した「中東情勢の悪化による中小企業への影響に関する調査」では、仕入れにマイナスの影響がある企業は70.8%でした。また、仕入価格の上昇を回答した企業への価格転嫁の設問では、32.5%が「転嫁できていない」としています。
さらに、売上げまたは仕入れにマイナスの影響がある企業のうち、影響の解消時期を「わからない」とした割合は57.3%でした。調査は三大都市圏の日本公庫取引先を対象とし、有効回答は564社です。全国一律の状況を示すものではありませんが、先行きが見通せない中での経営課題を考える材料になります。jfc.go.jp
「いずれ仕入価格が下がれば、利益も元に戻る」。その期待だけで経営改善計画を立てると、回復が遅れたときに資金が不足しかねません。自社で動かせる価格、取引条件、在庫、支出を見直し、複数の状況に備えることが必要です。
最初に把握したいのは「どの仕事で、いくら残るか」
対策の出発点は、売上高と預金残高だけを見る管理から、商品・取引先・案件ごとの採算がわかる管理へ進むことです。
製造業であれば材料費と外注費に加え、加工時間や不良・手直しの負担を確認します。建設業では現場ごとの資材費、外注費、追加工事の請求漏れ、運送業では運行ごとの燃料費、高速代、待機時間などを整理します。
例えば、売上高が月1,000万円、材料費が400万円の会社で、材料の使用量が変わらず単価だけが10%上がれば、材料費は月40万円増えます。従来の営業利益が月30万円なら、ほかの条件が同じでも月10万円の赤字です。「材料が10%上がったから、売価も10%上げる」という考え方では、必要な値上げ幅を正確に判断できません。
まず、コスト増を月額で示し、それをどの商品、どの取引先で回収するかを決めましょう。以下の試算例は、調査結果ではなく、対策を考えるための仮定です。
三つのシナリオで、資金不足の時期と金額をつかむ
経営改善計画には、少なくとも次の三つの想定を用意します。
(1)仕入価格がさらに上昇する場合
主要材料や燃料の単価が、現在よりさらに5%、10%上がった場合を試算します。影響の大きい品目を優先し、追加負担額、利益の減少、月末の資金残高を確認します。対策は、仕入先との条件交渉、代替材料の検討、使用量や廃棄ロスの削減などです。品質や納期への影響も併せて判断します。
(2)高止まりする場合
現在の仕入価格が半年、1年続くと想定します。価格が上がらなくても、採算が合わない状態が続けば資金は減ります。現行価格でも利益を確保できるよう、受注単価、商品構成、作業方法、固定費を見直します。「値下がり待ち」を計画の前提にしないことが大切です。
(3)価格転嫁が遅れる場合
予定していた値上げが3カ月遅れる、一部しか認められないなどの想定です。先ほどの月40万円のコスト増を3カ月間回収できなければ、ほかの条件が同じ場合、当初計画に比べて120万円の負担増となります。実際の資金不足額は、仕入代金の支払日と売上代金の入金日まで反映して確認します。
三つの想定は重なることもあります。「仕入価格が上がり、値上げも遅れる」場合も点検します。今後12カ月の月次資金繰り表をつくり、資金が厳しい会社は、当面3カ月程度を週単位でも管理すると変化をつかみやすくなります。
価格交渉は「お願い」から「準備した提案」へ
価格転嫁を進めるには、値上げの必要額と開始時期を具体化します。仕入単価の推移、燃料費の増加、従来価格では維持できない採算を整理し、取引先に説明できる資料を用意しましょう。
一律の値上げが難しい場合には、数量、仕様、納期、配送頻度、最低発注量などの条件変更も選択肢になります。小口配送の集約や急ぎ対応の有料化など、負担が生じる理由に合わせた提案が重要です。
ただし、交渉を始めただけで、計画上の売上単価を引き上げることは避けます。「交渉予定」「合意済み」「新価格で受注開始」を区別し、適用日と実際の入金時期を管理してください。値上げによって受注量が減る可能性も試算し、会社に残る利益と資金で判断します。
不採算取引は、改善の余地と撤退の影響を確認する
長年の取引先でも、少量・多品種、頻繁な仕様変更、長い待機時間などにより、実質的な採算が悪化していることがあります。「売上が大きいから重要」と決めず、手間と費用を含めて確認しましょう。
見直す順番は、価格改定、取引条件の変更、作業改善、それでも改善できない場合の縮小・終了です。受注を止めれば、その売上で賄っていた家賃や人件費などの負担が残ることもあります。材料費などを差し引いた利益が固定費の支払いにどれだけ役立っているか、空いた人員や設備を別の仕事に振り向けられるかまで検討します。
取引終了による売掛金回収、専用在庫、契約上の扱いも確認し、会社全体の収益改善につながる形で進めることが必要です。
運転資金を確保し、追加融資の役割を明確にする
原材料価格が上がると、同じ量を仕入れるにも多くの資金が必要です。値上げが実現しても、入金まで時間がかかれば、その間をつなぐ資金が要ります。
在庫の適正化、請求漏れや請求遅れの防止、着手金・中間金の交渉、回収条件の改善を検討します。安く買うための大量仕入れも、在庫に資金が固定されれば負担になります。取引先への支払条件の変更は、契約や適用される取引ルールを確認したうえで協議しましょう。
資金繰り表には、仕入代金や給与だけでなく、借入返済、税金・社会保険料、賞与、設備修繕なども反映します。そのうえで、資金残高が最も低くなる時期と、事業継続に必要な手元資金との差額を把握します。
追加融資は、改善効果が出るまでの資金をつなぐ手段です。赤字が続く構造を変えないまま借入を重ねると、将来の返済負担が増えます。必要額、使途、改善時期、返済原資をセットで整理し、資金が尽きる前に金融機関へ相談しましょう。既存返済も含めて負担が重い場合は、改善計画と併せて返済条件の相談が必要か検討します。
計画を動かすには、担当者・期限・数字を決める
「価格転嫁を進める」「経費を削減する」だけでは、実行状況を確認できません。「主要取引先5社に翌月末までに改定案を提出する」「滞留在庫を3カ月で100万円減らす」など、担当者、期限、目標を決めます。
最初の1カ月で採算と資金繰りを整理し、次の1カ月で価格・条件交渉を進め、3カ月目に効果を検証するなど、短い区切りを設けましょう。月1回は売上総利益、価格改定の実施額、在庫、入金、資金残高を確認します。資金に余裕がなければ、週次で確認します。
想定より仕入価格が上がった、交渉が遅れた場合には、追加対策を前倒しします。資金残高が一定額を下回る見込みになったら金融機関に相談するなど、行動を起こす基準も決めておくと、対応の遅れを防げます。
自社の数字を整理するところから、ご相談ください
経営改善計画の役割は、資金不足の時期を早めにつかみ、打つべき手を実行につなげることです。売上が維持できていても、利益率と手元資金が下がっているなら、対策を始める時期です。
事業パートナー九州では、資金繰りや取引別採算の整理、経営改善計画の策定、金融機関への説明、実行段階の進捗管理などについて、会社の状況に応じて支援します。
「何から見直すべきかわからない」「値上げが進まず資金が減っている」という段階でもご相談ください。直近の決算書、試算表、借入返済予定表、主要取引の資料をもとに、優先する対策を一緒に整理します。
出典:日本政策金融公庫 総合研究所「中東情勢の悪化による中小企業への影響に関する調査結果」(2026年10月19日公表)
※記載の対策・試算例は、同調査を踏まえた当社の実務上の提案です。
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