強い会社をつくる(8)AI・DXで利益を生み出す会社へ
中小企業でも始められる経営改革
AI・DXは大企業だけのものではない
前回は、「新しい市場に挑戦する経営」をテーマに、現在の事業が順調なうちに、将来の収益を支える「第二の柱」を育てることの重要性についてご紹介しました。
新規事業への挑戦は、企業の成長に欠かせません。しかし、そのためには、現在の事業の生産性を高め、利益を生み出す経営基盤を強化することも必要です。
そこで注目したいのが、AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用です。
「AIやDXは大企業が取り組むものではないか」
「導入には多額の費用がかかるのではないか」
「当社にはITに詳しい社員がいない」
中小企業の経営者からは、こうした声を聞くことがあります。
しかし、現在では比較的低コストで利用できるAIやクラウドサービスが増え、中小企業でも業務改善に取り組みやすくなっています。
重要なのは、最新の技術を導入すること自体ではありません。
「AI・DXを使って、どのように仕事を減らし、利益を増やすか」という経営の視点です。
今回は、中小企業が無理なく始められるAI・DXの活用方法と、利益につなげるための考え方をご紹介します。
AIとDXは何が違うのか
AIとDXは、よく一緒に使われる言葉ですが、意味は異なります。
AIとは、人間が行ってきた文章作成、情報整理、分析、予測などの知的な作業を、コンピューターによって支援・実行する技術です。
例えば、生成AIを使えば、報告書の下書き、会議録の要約、営業提案書の作成、顧客からの問い合わせへの回答案作成などができます。
一方、DXとは、デジタル技術を活用して業務の進め方や組織、さらにはビジネスモデルを変革することです。
例えば、紙の伝票を電子化することは「デジタル化」ですが、その情報を受注管理、在庫管理、請求業務まで連携させ、業務全体を効率化することはDXにつながります。
つまり、AIは業務を支援する技術の一つであり、DXはその技術を含めて会社の仕事の仕組みを変える取り組みです。
AIを導入することが目的ではなく、会社の生産性や収益力を高めることが目的なのです。
中小企業こそAI・DXが必要な理由
中小企業にとって、AI・DXの活用が重要になる最大の理由の一つが、人手不足です。
少子高齢化によって働き手が減少する中、これまでと同じ人数を確保し続けることが難しくなっています。
一方、企業の業務量は必ずしも減りません。
受注管理、見積書の作成、請求業務、顧客対応、在庫管理など、日常業務には多くの時間がかかります。
特に中小企業では、一人の社員が複数の業務を担当しているケースが少なくありません。
そのため、特定の社員に仕事が集中し、その社員が休んだり退職したりすると業務が止まることがあります。
こうした状況を改善するためには、単に人を増やすだけではなく、仕事の進め方そのものを見直す必要があります。
AI・DXによって定型業務を効率化できれば、社員は営業、顧客対応、技術開発など、より付加価値の高い仕事に時間を使えるようになります。
「人を増やして仕事をこなす経営」から「少ない人数でも成果を出せる経営」への転換が求められています。
まずは身近な業務改善から始める
AI・DXというと、大規模なシステム導入を想像するかもしれません。
しかし、中小企業では、身近な業務から始める方が効果的です。
例えば、次のような業務が考えられます。
(1) 事務作業の効率化
見積書、報告書、議事録、社内通知などの作成をAIで支援する。
請求書や経費精算をクラウドサービスで管理する。
紙の書類を電子化し、検索や共有を容易にする。
(2) 営業活動の効率化
顧客情報をCRM(顧客関係管理)で共有する。
過去の取引履歴を分析し、追加提案の機会を探す。
AIを活用して営業資料や提案書の下書きを作成する。
(3) 製造・現場業務の改善
生産実績や不良発生状況をデータ化する。
設備の稼働状況を把握し、停止時間を減らす。
作業手順を動画やデジタルマニュアルで共有する。
(4) 人材育成への活用
新人教育の資料を整備する。
社内の業務マニュアルを検索しやすくする。
AIを活用して研修教材や理解度確認の問題を作成する。
こうした取り組みは、一つひとつは小さな改善かもしれません。
しかし、毎日の業務で積み重なれば、大きな生産性向上につながります。
「仕事を減らす」ことから考える
AI・DXの導入を検討する際、最初に行うべきことは、システムを探すことではありません。
まず、現在の業務を整理することです。
例えば、
・毎月、同じ内容を何度も入力している
・紙の書類を探すのに時間がかかる
・社長しか判断できない業務が多い
・同じ資料を複数の社員が作成している
・顧客情報が担当者ごとに分散している
といった問題はないでしょうか。
こうした業務を洗い出し、「やめられる仕事」「簡素化できる仕事」「自動化できる仕事」に分けて考えます。
ここで重要なのは、無駄な仕事をそのままデジタル化しないことです。
必要のない報告書をAIで短時間に作成できるようにしても、その報告書自体が不要であれば、本当の業務改善にはなりません。
まず仕事を見直し、そのうえで必要な部分にAIやデジタル技術を活用する。
この順序が大切です。
AI・DXの効果は「利益」で評価する
AI・DXを導入しても、利益につながらなければ経営改革としては十分ではありません。
そこで重要になるのが、費用対効果の確認です。
例えば、毎月50時間かかっていた事務作業を、AIやシステムの活用によって20時間に短縮できたとします。
30時間の削減です。
仮に、その業務の人件費を1時間当たり2,000円として計算すると、月6万円、年間72万円相当の作業時間を削減できたことになります。
ただし、これは直ちに72万円の利益が増えるという意味ではありません。
実際には、システム利用料や導入費用がかかります。
また、削減した時間をどのように活用するかによって、経営への効果は変わります。
・空いた時間を営業活動に使い、受注を増やす。
・残業時間を減らし、人件費を抑える。
・顧客対応を充実させ、リピート率を高める。
こうした成果につなげることが重要です。
「何時間削減できたか」だけでなく、「利益や付加価値がどれだけ増えたか」まで確認することが、経営者に求められます。
AI・DXは人手不足対策にもなる
人手不足への対応として、採用活動の強化や外国人材の活用を検討する企業も増えています。
もちろん、人材確保は重要です。
しかし、採用だけで人手不足を解決しようとすると、採用費や人件費が増え、企業の負担が大きくなります。
そこで、採用と同時に考えたいのが業務の省力化です。
例えば、受発注業務を自動化できれば、担当者の作業時間を減らせます。
在庫管理をデジタル化すれば、確認作業や入力ミスを減らせる可能性があります。
また、AIを活用したマニュアル整備は、新人や外国人社員への教育にも役立ちます。
ただし、AI・DXは人を不要にするための取り組みではありません。
社員が単純作業から解放され、より重要な仕事に集中できる環境をつくることが目的です。
第4回、第5回で取り上げた人材定着や人材育成とも結び付けて考える必要があります。
導入で失敗しないための5つのポイント
AI・DXの導入では、システムを導入したものの、社員が使わず、費用だけが発生するケースもあります。
こうした失敗を防ぐために、次の点を意識することが重要です。
① 経営課題を明確にする
人手不足の解消、残業時間の削減、営業力の強化など、何を改善したいのかを決めます。
② 小さく始める
最初から全社導入するのではなく、一つの部署や業務で試し、効果を確認します。
③ 現場の社員を参加させる
実際に業務を担当する社員の意見を取り入れ、使いやすい仕組みをつくります。
④ 情報管理を徹底する
生成AIに顧客情報、個人情報、営業秘密などを入力する際には、利用サービスのデータ管理条件を確認し、社内ルールを整備する必要があります。
また、AIが作成した文章や分析結果には誤りが含まれる可能性があるため、重要な判断には人による確認が欠かせません。
⑤ 効果を数値で確認する
作業時間、残業時間、不良率、受注率、利益など、改善効果を定期的に確認します。
AI・DXは、導入した時点がゴールではありません。
導入後も改善を続けることが重要です。
経営者自身がAI・DXを理解する
中小企業のAI・DXで、もう一つ重要なのが経営者の姿勢です。
「ITのことは担当者に任せている」という経営者もいます。
しかし、AI・DXは単なるシステムの問題ではなく、経営の仕組みを変える取り組みです。
そのため、経営者自身が目的を理解し、取り組む方向性を示す必要があります。
もちろん、経営者が専門的なプログラミング技術を身につける必要はありません。
まずは、生成AIを使って文章の下書きを作成したり、情報を整理したりするところから始めてもよいでしょう。
実際に使ってみることで、どのような業務に活用できるかが見えてきます。
そして、社員からの改善提案を積極的に受け入れ、効果のあった取り組みを社内に広げていくことが大切です。
経営者が学び、社員とともに改善を続ける会社こそ、AI・DXを経営力に変えられる会社ではないでしょうか。
~AI・DXは利益を生み出すための手段~
AIやDXは、導入すること自体が目的ではありません。
中小企業にとって重要なのは、限られた人材と資金を有効に活用し、生産性を高めることです。
そのためには、まず現在の業務を見直し、無駄な作業を減らす。
次に、AIやデジタル技術を活用して、必要な業務を効率化する。
そして、削減した時間や生み出した余力を、営業、顧客対応、人材育成、新規事業などに振り向ける。
業務改善 → 生産性向上 → 利益改善 → 人材・設備への再投資
この好循環をつくることが、AI・DXを活用した経営改革の本質です。
大企業のような大規模投資をしなくても、中小企業には取り組めることが数多くあります。
まずは、身近な業務を一つ改善することから始めてみてはいかがでしょうか。
~事業パートナー九州からのご提案~
会社が強くなれば、事業再生は不要になります。
私たち株式会社事業パートナー九州は、経営改善や事業再生の支援だけではなく、「そもそも経営危機に陥らない会社づくり」を目指したご支援を行っています。
AI・DXについても、単に新しいシステムを導入するのではなく、現在の業務内容、収益構造、人員体制などを分析し、経営改善につながる取り組みを検討することが重要です。
当社では、経営分析、業務改善、事業計画の策定、資金調達などを通じて、中小企業の生産性向上と利益改善を支援しています。
これまでのシリーズで取り上げてきた資金繰り、利益改善、財務体質の強化、人材育成、営業戦略、新規事業への挑戦は、すべてAI・DXとも深く関係しています。
人手不足を嘆くのではなく、限られた人材でより大きな価値を生み出せる会社へ。
そして、生み出した利益を人材や新たな事業へ再投資する。
その積み重ねが、10年後も選ばれる「強い会社」につながると私たちは考えています。
次回は、「ビジネスモデルを変える勇気 ― 『今まで通り』が最大のリスクになる ―」をテーマに、環境変化に対応するための経営の転換について考えていきます。
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