M&A・PMI(4)「顧客・取引先との関係維持」課題と取り組み
M&A成立後の「PMI」について5回シリーズで紹介します。
(1)M&A成功のカギ「PMI」とは何か
(2)「人と組織文化の統合」課題と取り組み
(3)「業務・システム統合」課題と取り組み
(4)「顧客・取引先との関係維持」課題と取り組み:今回
(5)「経営管理と収益シナジー」課題と取り組み
(4)「顧客・取引先との関係維持」課題と取り組み
M&Aの統合プロセス(PMI)では、社内の体制整備やシステム統合と並んで、外部の「顧客・取引先」への対応が極めて重要です。いくら社内を整備しても、顧客や取引先からの信頼を失えば、売上は減少し、M&Aそのものの目的が達成できなくなります。本記事では、顧客・取引先対応における課題と具体的な取り組みを整理します。
なぜ顧客・取引先対応が重要なのか
M&Aの成立は、顧客や取引先にとっても「大きな変化」です。たとえば、「担当者が変わるのでは」「サービス品質が落ちるのでは」「契約条件が不利になるのでは」といった不安が生まれます。こうした不安を放置すれば、顧客離れや取引停止につながります。
特に中小企業では、特定の顧客や取引先が売上の大部分を占めるケースが少なくありません。そのため、M&A後の外部対応は最優先で取り組むべき課題です。
顧客・取引先対応で直面する課題
1 主要顧客の離反リスク
取引先が「今後は不安だ」と判断し、他社に切り替えてしまう。
2 情報不足による誤解や憶測
社外に十分な説明を行わないと、事実と異なる噂が広がりやすい。
3 担当者変更による信頼関係の崩壊
長年の担当者がいなくなることで、顧客は「自分たちは軽視されている」と感じる。
4 サービス品質の低下懸念
統合作業の混乱により、納期や対応スピードが落ちると顧客満足度が下がる。
解決に向けた取り組み
1. 主要顧客・取引先への個別説明
統合の方針や今後の体制について、主要顧客・取引先には必ず個別に説明を行います。経営者自らが訪問して直接説明することで、安心感を与えることができます。
2. 一貫した情報発信
プレスリリースや公式文書、ホームページなどを通じて、統合の目的や顧客へのメリットを明確に発信します。「情報が出てこない」という状況が最も不安を高めるため、定期的な情報提供が欠かせません。
3. 担当者の継続と引き継ぎ
顧客にとっては「誰が担当するか」が非常に重要です。可能であれば従来の担当者を継続し、新しい体制へスムーズに橋渡しをすることが望ましいです。どうしても変更が必要な場合は、引き継ぎ期間を設けて二人体制で対応し、信頼関係を切らさないようにします。
4. サービス品質の維持・強化
統合作業によって顧客サービスが疎かにならないよう、社内で重点管理を行います。むしろ統合を機に「対応スピードを速める」「アフターサービスを強化する」といった改善策を示せば、顧客からの評価は高まります。
5. 統合によるメリットの提示
M&Aによって製品ラインアップが拡充したり、対応地域が広がったりするケースがあります。顧客にとっての新しいメリットを積極的に示すことで、不安を「期待」に変えることが可能です。
成功事例と失敗事例の違い
成功する企業は、M&A発表と同時に「顧客第一」の姿勢を鮮明に打ち出し、具体的な行動を伴っています。主要顧客には経営者が直接説明に赴き、担当者を変えず、むしろサービスを強化する取り組みを見せることで、安心と期待を醸成しています。
一方、失敗する企業は、社内のPMIに追われて顧客対応を後回しにしがちです。その結果、「聞いていない」「説明がない」という不満から顧客が離れ、取引先も契約を縮小するなど、M&Aの成果を失うことになります。
顧客・取引先対応は、M&AのPMIにおいて「外部の信頼」を守るための最重要課題です。主要顧客への個別説明、一貫した情報発信、担当者の丁寧な引き継ぎ、サービス品質の維持・強化、そして統合メリットの明示――これらを実践することで、顧客や取引先は安心し、むしろ統合後の成長を期待するようになります。
株式会社事業パートナー九州では、M&A後の顧客・取引先対応を含めたPMI全体の支援を行っています。「顧客への説明をどうすべきか分からない」「取引先に不安を与えてしまっている」といった課題をお持ちの経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。御社の状況に合わせた実践的な支援をご提供いたします。