経営改善・事業再生 2018年(1)
本記事は以前のホームページに記載したものをまとめたものです。
【1】国連サミットで制定された「持続可能な開発目標」
(20180109)
昨年の4月から「九州工業大学」の産学連携のコーディネータを務めさせて頂いてます。
本年の九州工業大学の学長の年頭の挨拶の中で、「持続可能な開発目標(SDGs:エスディージーズ)」という言葉がでてきました。
2015年9月の国連サミットで採択された、発展途上国だけでなく先進国も取り組む「2016年から2030年までの国際目標」です。
「17の目標と169の具体的なターゲット」で構成されています。
ここでは「17の目標」と「日本政府の対応」を紹介します。
この中の一部を自社の経営(製品開発、人材教育など)に取り入れてみてはいかがでしょうか。
「17の目標」
主に発展途上国の課題(2001年制定の前身の継続)
① 貧困をなくそう
② 飢餓をゼロに
③ すべての人に健康と福祉を
④ 質の高い教育をみんなに
⑤ ジェンダー平等を実現しよう
*ジェンダー:社会的・心理的性別(世の中の男性と女性の役割の違いによって生まれる性別)
⑥ 安全な水とトイレを世界中に
先進国にも関わりの深い新たな課題
⑦ エネルギーをみんなにそしてクリーンに
⑧ 働きがいも経済成長も
⑨ 産業と技術革新の基盤をつくろう
⑩ 人や国の不平等をなくそう
⑪ 住み続けられる街づくりを
⑫ つくる責任つかう責任
⑬ 気候変動に具体的な対策を
⑭ 海の豊かさを守ろう
⑮ 陸の豊かさも守ろう
⑯ 平和と公正をすべての人に
⑰ パートナーシップで目標を達成しよう
日本の取組み
国連サミットでの採択を受けて日本政府は関係省庁が連携し体制を構築して進めています。
●ビジョン:「持続可能で強靭、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す。」
●実施原則:①普遍性、②包摂性、③参画型、④統合性、⑤透明性と説明責任
●フォローアップ:2019年までを目途に最初のフォローアップを実施。
8つの優先課題と具体的施策を設定して進められています
① あらゆる人々の活躍の推進
・一億総活躍社会の実現
・女性活躍の推進
・子供の貧困対策
・障がい者の自立と社会参加支援
② 健康・長寿の達成
・薬剤耐性対策
・途上国の感染症対策や保健システム強化、公衆衛生危機への対応
・アジアの高齢化への対応
③ 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
・有望市場の創出
・農山漁村の振興
・生産性向上
・科学技術イノベーション
・持続可能な都市
④ 持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備
・国土強靭化の推進・防災
・水資源開発・水循環の取組
・質の高いインフラ投資の推進
⑤ 省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会
・省・再生可能エネルギーの導入・国際展開の推進
・気候変動対策
・循環型社会の構築
⑥ 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
・環境汚染への対応
・生物多様性の保全
・持続可能な森林・海洋・陸上資源
⑦ 平和と安全・安心社会の実現
・組織犯罪・人身取引・児童虐待等の対策推進
・平和構築・復興支援
・法の支配の促進
⑧ SDGs実施推進の体制と手段
・マルチステークホルダーパートナーシップ
*国、事業者、消費者、有識者などの関係者が参画するオープンな体制で連携すること
・国際協力におけるSDGsの主流化
・途上国のSDGs実施体制支援
中小企業には関係ないと思えるが・・・
国連の問題、日本政府の問題で中小企業には関係ないと思われますが、この内容に沿って経営を検討している企業もあります。
経団連は、SDGsの基本理念を取り入れた行動指針の改定を決定しています。
また、「17の目標⑤のジェンダー平等を実現しよう」については、日本の女性の社会進出(女性管理職比率、議員の女性比率など)の面で諸外国に比べて低い状態です。
今後、中小企業にも、直接的、間接的に影響がでてくる可能性がありますので、頭の片隅に置いておいた方が良い話題です。
【2】人手不足・業種で格差~銀行員が建設業に転職できるか?~
(20180113)
人材不足の業種間の格差が一段と広がっています。
最も深刻なのが「宿泊・飲食業(外食業など)」次いで「運輸・郵便(宅配便など)」「建設業」「小売業(コンビニ含む)」の順になっています。
製造業は自動化が比較的進んできて、これらの業種に比べると良いですが、会社によっては不足で困っています。
一方、銀行は、ITの活用で業務量が減ってきていることもあり、人員過剰になりつつあります。
今号では、人手不足に対する各業界の最近の動きを紹介します。
人手不足対策の基本
人手不足の対策として、次のことがなされています。
(1)幅広い人材の活用
① 女性の活用
② 高齢者の活用
③ 外国人の活用
女性や高齢者の雇用は最近の施策によって広がりつつありますが、更に追加の施策が必要です。
以前に働く女性のための「ベビーシッター」の取組みを紹介しましたが、最近、東京都が「ベビーシッター」の使用に対して補助金を支給することが報道されていました。
女性の方が今後活躍される場は益々増えてくると思います。
人材の潜在力として最も高いのは、「外国人の活用」です。
国も外国人の受入を増やす方向で進めていますが、まだまだ企業の現場からの要請とはかけ離れていて、更なる受入拡大を検討せざるを得ないと思います。
(2) 一人当たりの生産性の向上
① 各人の能力向上
② IT技術による自動化
日本は他の先進国と比べて、労働生産性が低いと言われています。
IT技術の導入や規制緩和によってまだまだ生産性を上げることは可能で、上げなければ日本の産業は危機的な状況に陥ります。
(3) 人材の流動化
先に述べたように、銀行などでは人が余ってきます。
銀行で余った人を人手が足りない例えば建設業に回すようなことは現実的にはできません。
先に示した「外国人の活用」も含めて、人材配置の最適化を考えていく段階にきていると思います。
各業種の取組み例
コンビニの取組み
現在のコンビニのレジは、主に主婦の方、学生のアルバイト、最近は外国人の留学生のアルバイト(資格外活動)が増えてきています。
人手不足の影響で、コンビニのレジも時給を上げないとアルバイトが集まらない状況です。
コンビニでは、IT技術の導入で、究極的にレジをなくす検討を行っています。
各商品には「電子タグ(価格がわかる電子チップ)」が付いていて、コンビニを出る際にこれを読み取って金額を算出します。
お客さんはあらかじめ登録してあるので、スマホや顔認証で特定されて、レジを通過することなく精算できるシステムです。
中国では既に採用しているコンビニもあります。
ただし、日本人は「現金主義」が強いので普及できるかはわかりませんが技術的には可能です。
建設業の取組み
最近は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックと各種インフラの老朽化の対応などで建設業は仕事が増えてきていますが、これまでの長期的な仕事量の減少で業者や人手が減少して対応できない状況になっています。
・建設投資額:1992年度(ピーク)84兆円⇒2015年度48.5兆円、42%減少
・建設従業員数:1997年平均(ピーク)685万人⇒2015年平均500万人、27%減少
・資格を持つ技能者は現在「約340万人」⇒今後10年間で高齢化により約3割の「約110万人減少」
縮小した状況の中で、仕事が増えても対応できない状況で、今後更に高齢化による技能者(職人)の減少により、業務の進め方を大きく見直す必要があります。
大手の建設会社(ゼネコン)各社は、建設現場にロボットやICT(情報通信技術)などを活用した省人化工法の開発・導入を進めています。
従来の建設業では、ゼネコンから1次下請け⇒2次下請け⇒3次下請けという階層的な構造でしたが、人手不足によって下請けの会社で廃業に追い込まれているところがでてきて、この構造が成り立たなくなってきています。
このため、ゼネコン自体が存続するには、自らが省人化の技術開発を行う必要性に迫られています。
社会人講座 相次ぎ開講
人材不足の対応として、IoTやAIの技術導入が必要になってきていますが、これに対応できる人材が不足しています。
人材不足に対応するために、大学で講座を開講して、企業が人を送り再教育をさせる動きが広がっています。
経済産業省系の「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」の特別講座として、東京大学と大阪大学に設置しています。
また、文部科学省の人材育成拠点形成事業「エンピット・プロ」は、5大学を中心とした講座を設置しています。
北九州市立大学が中心で、九州工業大学、熊本大学、宮崎大学、広島市立大学が共同で5つのコースを設けています。
今後も人材育成、ニーズと人材のマッチングの面でこのような産学連携は増えてくると思われます。
物事には多面的にアプローチしてみる
中小企業が必要な人材をタイムリーに集めることはほぼ不可能です。
他社との連携、大学との連携、外国人の採用など従来あまり行っていないことに取り組んでいく必要があります。
座して死を待つよりも、考えた上での迅速な行動が必要になっています。
【3】大きな環境変化の中で求める人材像を明確にしていますか?
(20180117)
AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの技術の変化、少子高齢化やグローバル化(国際化・多様化)などの社会的変化、人の幸せに対する思いの変化など、現代は大きな変革期に入っています。
また、変化の速さはこれまで経験がしたことがないスピードで進んでいます。
この環境変化の中で、企業が求める人材像は変化しています。
従業員の数が少なく、資金的に厳しい中小企業にとって「採用」は会社の存続に大きな影響を与えます。
経営者はしっかりとした考えで「採用」に取り組む必要があります。
企業を取り巻く環境変化のキーワード
現在の企業を取り巻く環境変化の主なものを示します。
AI(人工知能)時代
10~20年後に、国内労働人口の約半分にあたる職業が「AI」や「ロボット」で代替されるという予測があります。
人生100年時代
寿命が延び、それに伴い良い面や課題が多く表面化しています。
長寿社会に適合した社会システム、特に「健康に働く」ことの整備が急がれています。
健康経営
社員が身体的な面だけでなく、精神的な面も健康でなければ、企業の持続的な成長は見込めません。
また、「健康・ヘルス」が様々な形の事業を創出しています。
ウェルビーイング
「身体的、精神的、社会的に健康で豊かであること」を示します。
「超高齢社会(日本は65歳以上の方が27.3%*2016年9月)」を語る上での「健康寿命」「介護負担の削減」などと合わせて使われています。
働き方改革
残業時間の低減、子育て支援など、働く時間を少なくする動きが進められています。
当然、単なる労働時間の短縮ではなく、生産性を向上させた上での時間短縮が必要です。
時間だけ短くして、生産効率が変わらなければ企業は存続できません。
組織風土改革
組織の経営者や管理職、社員が持つ暗黙のルールや規範、土壌、文化といった「組織風土の改革」に多くの企業が取組みを開始しています。
新規事業創出
既存事業の売上の伸びがなくなったり、利益が減少したりした場合、既存事業に代わる「新規事業」を産み出す必要があり、多くの企業が挑戦しています。
新卒一括採用時代の崩壊
日本の多くの企業は新卒の一括採用を行ってきました。
しかし近年では、通年採用や中途採用、女性・高齢者・外国人の採用と、時期や対象が多様化しています。
企業が求める「人材」の変化
このような環境変化の中で企業が求める「人材像」とはいかなるものでしょうか。
日本経済団体連合会が2016年度に行った調査では、企業が採用選考活動で重視している上位の項目は次の通りです。
①コミュニケーション力、②協調性、③主体性、中小企業にも当てはまる内容と思います。
この項目が挙げられるのは10年以上前から大きな変化はないとのことですが、求められる内容が変わってきています。
変化は、企業自体が「生産性の向上」から「創造性の発揮」へと変わってきているからです。
企業は他社と異なる「強み」を持ち、その「強み」が社会・市場に受け入れられないと成り立たなくなってきています。
①~③の各内容がどう変わったかを紹介しますが、現在多数を占めると思われる「指示待ち人間」「マニュアル通りにしっかりと実施する優等生」は、採用されにくくなります。
私の事務所の行動指針である「自立と連携」、これが実施できる「人材」が求められています。
コミュニケーション力
●これまで
比較的限られた人間関係の中で相互理解する力
●これから
価値観の異なる相手とも相互理解し、双方向で学びあえる力
協調性
●これまで
ルールに沿い、周りと足並みをそろえて動ける力
●これから
多様性を尊重し、異文化を受け入れながら組織力を高める力
主体性
●これまで
チームに与えられた課題を率先して実施する力
●これから
自ら課題をみつけ、チームを作って解決する力
関連情報:人をほめる際の原則
人はほめられて伸びると言われていて、実際そうだと思います。
ほめられると「やる気・意欲」がでて、仕事や勉強の質も向上します。
ただし、この「ほめ方」は難しいです。
原則①:誠実な気持ちでほめる
形式的な「ほめ言葉」は、相手から簡単に見透かされてしまいます。
いい加減な気持ちで大きなことをほめるより、小さなことについて本気でほめる方がずっと効果的です。
原則②:人格より行為や事実をほめる
相手の人格そのものより、相手の行為や事実をほめる方が、ほめ言葉が具体的になって伝わります。
「あなたはとても美しい」「あなたは人格的に素晴らしい人だ」と言っても違和感を感じると思います。
「あなたの髪の毛はとても美しい」「あなたのお客様と接する言葉使いは素晴らしい」「(書架を見て)ものすごい読者家かですね」・・・の方が伝わります。
細かい注意力で相手の良いところを探せば何か見つけることができると思います。
【4】社長、前月の経営成績をいつ知りましたか?
(20180125)
銀行からの借入金の返済に困った会社の「経営改善」の支援をさせて頂いた際に感じたことです。
「現状がわからなくて、どうやって改善するの?」
「当たり前のことが当たり前でない」のが現実です。
前月の経営実績を翌月に早く知る
「社長、あなたの会社の前月の実績をいつ知っていますか?」。
中小企業の社長さんにこの質問をしたら、どういう答えが返ってくるでしょうか?
① 1日にはわかるよ
② 5日以内にはわかるよ
③ 20日頃にはわかる
④ 税理士事務所に聞かないとわからない
⑤ (経理の担当者に任せて)気にしたことがない
①と②の会社の経営は大丈夫でしょう。
③は「イエローカード」。
④と⑤は「レッドカード」です。
④と⑤の会社のほとんどは、5年以内に消滅する可能性が高いです。
(表現が悪いかもしれませんが)ひどい会社は、税理士事務所に任せて、年に1回の決算の時しか状況がわからないということがあります。
利益が出そうであれば、税理士事務所主導で保険などを使った節税対策!。
少々の赤字であれば、税金を払わなくてラッキー!。
大赤字であわててどうする?。
ある税理士事務所に聞いてみました
ある会社については、前月の実績を当月に出すことができなくて、翌月の半ば、つまり1ヶ月半後にようやくできるという具合です。
確かに決算処理は、期末から2ヶ月後ですので構わないということもあるかもしれません。
税理士事務所の所長さんに聞いてみました。
Q:なぜ、そんなに月のまとめに時間がかかるのですか?
A:お客さんが書類を出してくれないので・・・。
Q:なぜ、出すようにしないのですか?(出すように指導しないのですか?)
A:そんなことは考えたことがない。実施しようとしてもそんな時間がないし、お金ももらっていない。
何人かの税理士さんにお聞きしましたが、ほとんどの方がこの回答でした。
税理士さんの変更は?
「これではだめだ」
「(失礼ですが)これでは、お客さんを任せることができない」
経営改善をお手伝いした会社の税理士事務所さんがこの対応の場合、お客さんに「税理士事務所さんを変更」してもらっています。
お客様に税理士事務所の変更をお願いした場合、ほとんどの場合「わかりました。税理士事務所を変更します。」と了承して頂いています。
月のまとめ(試算表・資金繰り表)は何のためにあるの?
毎月の経営状況をまとめるのは、決算書作成や税金対策のためではなく、「経営状況を把握・分析」して、会社の経営状況をよりよい方向に持っていくためではないでしょうか?
以前勤めていた会社の社長
大企業2社の共同出資会社の「サラリーマン社長」は、実績をあげなければならない。
厳しい社長でした。
前月の結果は「5営業日まで(完ぺきではないが実態がわかるレベル)」、中間の把握として「20日までに15日の集計」を、そして経営会議を月に2回実施していました。
これらの実績(数値)の結果を基に、問題点の把握、実施している対策の効果を確認していました。
これにより、問題が大きくならないうちに手を打つことができていました。
経営改善は、現状を把握するのが最初
「どうなっているのかがわからない」ほど怖いものはありません。
1ヶ月後に前月の結果が分かっても何も手を打つことができません。
その間に更に1ヶ月、わけがわからない状態で進んでいます。
ほとんどの会社は、この経営状態を把握する仕組みを作り、運用することで経営改善が進みます。
現状がわかれば、経験上、打つ手が見えてきます。
経営者の意識が変わり、それにより社内の意識も変わっていきます。
試算表を5営業日までに作成するために、税理士事務所に顧問料を多く払っても、それ以上の成果が出ると思います。
「今の姿は過去の行動の結果、将来の会社の姿は現在の行動の結果!!」
今すぐ考えを変えて、行動しましょう。それにより結果は変わります。
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