経営改善・事業再生 2018年(2)
本記事は以前のホームページに記載したものをまとめたものです。
【1】「トクサイ(特別採用)」~頻発する企業不祥事から思うこと~
(20180218)
東芝、東洋ゴム工業、三菱自動車、スズキ、日産自動車、スバル、神戸製鋼、三菱マテリアル・・・、日本の超優良企業がなぜ?
企業の品質や経営のデータ改ざん、日本のモノづくりに対する信頼が大きく揺らいでいます。
三菱マテリアルの子会社や神戸製鋼の不正は、素材の検査データを改ざんしたと報告されています。
これらの不正では、主に、
・現場の課題:甘え、重圧
・過剰品質:材料に求める要求仕様が厳しい
・経営者の意識:品質よりも効率に
の3点が関わっていると思います。
トクサイ(特別採用)とは? 甘えの原因
以前、モノづくり企業で技術部門や品質管理部門の管理職をやらせて頂いていた頃があります。
その際に「トクサイ(特別採用)」ということを知り、実際に運用していました。
「トクサイ」とは規格や仕様から多少外れた製品でも、安全性や性能に問題がなければ使う側(需要家)が買い取る措置で、品質管理の仕組みに関する国際規格の「ISO9001 」でも認められています。
工場の立ち上げ時には、機械の精度や材料の特性及び作業者のスキル(工程管理能力)が安定しないため、製品の性能のばらつきが非常に大きくて、これにより、お客様と取り交わした数値を外れることもありました。
その際は、外れたものを一旦保留にして、お客様に「特別採用申請書」を提出して、保留品の扱いについて協議を行います。
お客様にとっては迷惑な話ですが、この保留品を使わないとお客様の生産数量が落ちたり納期が遅れることになるような場合は協力して頂けます。
協力とは、その保留品を使って性能テストを行って、製品として問題がないことを確認することです。
場合によっては、使えると判断されても、正式な仕様を満たしていないので、値引きして納入ということもあります。
では、この「トクサイ」が何度も続いたらどうなるでしょうか?
納入する側は、受ける側(お客様)に、問題がなかったら「仕様の数値を変更」してくれないかと思いますし、問題がなければ数値を改ざんして合格の数値に変更して出荷しようと考えるのではないでしょうか。
受ける側は、決めた仕様を簡単には変更することはしません。
長い時間をかけて決めた仕様を相手の都合で、問題ないことが分かっていても、変更することはしてくれません。
そのため、「いつまでに、どうやって」仕様書に記載した数値のものを納入することができるかと「改善計画書(対策書)」なるものを要求してきます。
日本の製造業の良いところは品質が良いことですが、社会(消費者)の要求に対して「過剰品質」になっているものもあるかと思います。
先日、ある一部上場の技術のOBの方と話をしていたら、「自分が勤めていた会社では、20年以上も前に「トクサイ」という制度はなくなった。まだ存在しているとは驚きである」とのこと。
「トクサイ」やこれに準ずる制度や仕組みをなくしていくことを目指して双方が検討することが必要と思います。
現場への重圧
素材メーカーや部品メーカーを取り巻く環境は厳しさを増しつつあります。
人口減少に伴う国内市場の縮小が進め一方で、自動車関連業界をはじめとする大口需要家から、値下げや納期短縮などの厳しい要求を突き付けられています。
それは、経営者や営業から末端の製造現場に、直接的なあるいは無言の重圧になっています。
そのため、「自らの組織・会社」を守るという意識が働き、改ざんという方向に走ったと推察します。
人は個人的には非常に高い倫理感を持っていたとしても、組織の中では何か理由を付けて異なる行動をとることも考えられます。
工場長や製造担当の役員が、社長の想いを「忖度」して、誤った判断を行う可能性もあります。
また、経営陣と現場の意識の違いもあるかと思います。
経営者の意識の変化
品質に対する経営者の意識も変わってきている可能性もあります。
従来、日本の製造業は品質の高さに重きを置いていましたが、経営者に品質に関する意識が薄れ、コストや納期を優先(効率化)するようになっていることも考えられます。
「AIやIoTに代表される第4次産業革命」の進展もあり、5年先も見通せない先行き不透明感が強まる中で、モノづくりのノウハウを地道に蓄えて品質や生産性を高める取組みより、目先の収益確保に走る傾向が強まっている可能性があります。
欧米の企業との間では、今回のデータ改ざんは「契約不履行:約束した仕様をみたしていない」や「詐欺罪:データ改ざんはだましである」と捉えられ、多額の損害賠償請求や場合によっては刑事告発がなされる可能性があります。
今回の一連の不正問題は、日本の製造業にとって、「品質とは何か?」を関係者全てが考え直す契機になると前向きに取らえていく必要があります。
再発を防ぐ:組織風土の変革
検査は内容にもよりますが、ほとんどの検査項目は、機械が測定して、その結果は自動的にサーバーに取り込まれて、判定は機械(コンピュータ)が自動的に結果を出すようになっています。
ただし、ほとんどの場合、運用しやすいように、人が介入する仕組みを設けていると思います。
先に紹介したように「トクサイ」のように、だんだんと感覚が麻痺していくことが考えられます。
今後、抜本的な会社全体の組織風土の変革が必要になってきています。
大企業はなかなか体質を変えることは難しいですが、中小企業の場合、社長の考えを変えることで比較的短時間で「組織風土」を変革することができる可能性があります。
「組織風土の変革」は、「事業承継」のような大きなイベントに合わせて行う場合もありますが、例えば今回の一連の不正の新聞等の報道をきっかけとして、行動を起こすことも可能と思います。
【2】倒産企業の寿命「23.5年」~2017年の倒産件数は「8,405件」~
(20180223)
2018年2月23日の日刊工業新聞に、昨年(2017年)の倒産に関する記事が掲載されていました(東京商工リサーチのデータ)。
2017年に倒産した企業の平均寿命が前年比「0.6年」短い「23.5年」と3年ぶりに前年を下回ったとのことです。
「23.5年」ということは、多くの企業が、「事業承継」されることなく、一代で消滅していることを表しています。
倒産について、業種ごとや業歴などで注目すべき点がありますので紹介します。
「倒産」と「休廃業・解散」
2017年の倒産件数は「8,405件」で、2016年の「8,446件」に比べてわずかに減少しています。
※倒産ではない休廃業・解散は、2016年は「29,583件」です。
倒産は最近は減少していますが、「後継者がいない」などによる「廃業」が増加して、「事業承継」が問題になっています。
下図は、中小企業白書2017年版からの抜粋です。
業種ごとの平均寿命は?
<長寿の業種>
・製造業:32.9年(前年比:0.8年増)
・運輸業:27.0年(前年比:1.8年増)
・卸売業:26.1年(前年比:1.2年減)
<短命な業種>
投資業を含む金融・保険業:16.4年(前年比:2.0年増)
参入が容易な「飲食業」、高齢化を見越して設立した「老人福祉・介護業など」も比較的短命な企業が多くなっています。
業歴では?
倒産の中に占める「業歴30年以上の老舗企業」の割合は「31.2%」で、7年連続で「30%以上」になっています。
老舗企業は不動産や内部留保などの資産が厚く、長年の取引実績で金融機関や取引先の信用を得ていて倒産しにくいと言われています。
しかし、金融庁の方針により、金融機関の貸し出しに関するスタンスが変わりつつあります。
「個人保証」や「担保」に依存した「日本型金融」から、将来性などを判断して貸し出しを行う「事業性評価」に変わりつつあります。
老舗企業の中には、過去の成功体験から抜け出せず新たな取り組みに遅れたり、グローバル化や多様化するニーズの中で開発や投資ができなくて倒産に至るケースも見られます。
倒産しない企業体質になるには
まずは、自社の状況、外部の環境を、よく見ることです。
そして、環境に応じて、「変わっていく」ことです。
自分で判断できないときは、「本物のコンサルタント」に見てもらうことです。
現在の自社の状況、特に経営者が高齢になっている場合は、経営を立て直す(事業再生)ことと併行して「事業承継」も検討していかなければなりません。
政府は、2018年を「事業承継元年」と位置づけて、税金面、補助金、相談窓口の整備を進めています。
商工会議所、金融機関、各種の専門家などが、「事業承継」に力を入れ始めていますが、本質を見抜いて、的確な対応ができる機関やコンサルタントはわずかです。
「本物のコンサルタント」を選定して、早く対応することが望まれます。
【3】正しいコストの認識とコスト低減
(20180301)
会社は利益を出さないと存続はできません。
● 利益=売上ーコスト
コストには、
・製造業であれば「製造に関わる費用(材料費、労務費、エネルギー費など)
・小売業であれば、商品の仕入代金になり、
また、販売や管理に関する費用も含まれます。
利益を上げるには、売上を上げる、コストを下げるしかありません。
今回は、このコスト低減について紹介します。
顧客満足を下げないでコスト低減を図る
ミラサポのメルマガの中に次の事例が紹介されています。
<小規模のスーパーマーケットの事例>
● 事例の内容
・コスト低減のターゲットとして「電気代の低減」を検討
・実施内容:
店内やショールームの蛍光灯の数を減らす(店は従来よりも暗くなる)
・結果:
電気代は低減(予測通り)、売上は減少(客数が減少)
⇒ よって、「利益は減少」
● この事例の分析
① 目的の面
・本来は「顧客満足を下げることなく、コスト低減を図る」べきであったが、単純に「コスト低減」が目的になっていた。
② ビジネスモデル(利益の源泉)の面
・「顧客が快適に買物ができる空間を維持すること」を考慮しなければならないが、その観点が抜けていた。
③ 時間軸(長期的/短期的)の面
・長期的な視点でのコスト低減が実現できるかの検討が必要であるが、短期的なコスト低減のみに注力してしまい、必要な投資を行う判断ができなかった。
④ 定量的/定性的の面
・数値で計れない定性的な項目(今回の場合は顧客満足)に目を向けなければならなかったが、電気代という定量的な項目にのみ目を奪われてしまった。
★ どうすれば良かったのか?
店の照明は従来の明るさ(顧客満足)を維持して、電気代を減らす。
この場合、蛍光灯からLED照明に変更する、あるいは、ロスが少ない変電設備に更新する方法があります。
ただし、設備投資が必要のため、その時点と今後の財務状況を把握・検討して、長期的な目で投資判断を行う必要があります。
コスト低減の検討ステップ
① コスト低減の目的を明確に
コスト低減の目的は利益アップです。
事業計画の中で、どれだけ利益を上げる必要があるかを十分に検討する必要があります。
② 自社のビジネスモデル:利益の源泉(強み)を考慮
コスト低減により、自社の強みを消してしまうことは実施してはいけません。
例えば、少量多品種の生産対応で顧客から優先的に仕事を受注していたのに、コスト低減のため、数量が集まらないと受注しないことになったら、利益の源泉を失うことになります。
③ 中長期的な視点で
いつ、コストの低減が実現できればよいのかを検討します。
設備投資が必要な場合、短期的にはコストは増加しますが、中長期的に投資を回収できれば総合的にみれば利益が上がることになります。
④ 定性的な効果を考える
コストは金額で示され(定量的)ますが、数値化しにくい項目(定性的)も考えてコスト低減を行う必要があります。
人件費を削れば(人員削減、時間短縮など)コストは下がりますが、従業員の士気(やる気)は下がると思います。
その結果、優秀な人材は去っていき、残った従業員もやる気をなくし、やがて経営に重大な影響を及ぼすことになります。
コスト低減の方法
コスト低減を検討する際に、「ECRSの法則」が役立ちます。
E(Eliminate):無くせないか?
C(Combine):一緒にできないか?
R(Rearrange):順序を変えられないか?
S(Simplify):簡素化できないか?
この考え方は、上から順に検討した方が効果が大きいです。
ある製品を製造しようとした場合、設計段階・企画段階で、ある部品を無くせないか?、工程(プロセス)設計で一つの工程を無くせないか?と最初の段階で十分に検討する必要があります。
性能を落とさないでいかに無駄をなくしてコスト低減を行うか、要求される性能に対して過剰品質になっていないかを徹底的に考えることが必要です。
コスト低減を行うことにより、お客様(消費者)の満足を下げて、売れなくなったら本末転倒です。
価値(性能、お客満足度)を維持して、コストを下げて、利益を生み出していくことが、「会社の基礎体力」を上げていくことになります。
【4】どうする北九州~若者の流出が止まらない街~
(20100304)
市制55周年を迎えた北九州市ですが、2018年初は「95万人」を割り込み、100万都市は昔の話になってます。
特に若者の流出、北九州の大学を卒業した後に市外、県外に就職する者が多くなっています。
その原因は何でしょうか?
① 地元の企業に魅力がない、やりがいが見つからない。
② 所得水準が低い:稼げない。
の両面があるかと思います。
北九州市の市役所、学校、経済団体などが何とか若者の定着を増やそうと様々な施策を行っていますが改善は進んでいません。
今回は、北九州市の現在進行中及び今後実施される施策について紹介していきます。
主に、雑誌「財界九州」の2017年1月~2018年3月号までに掲載された北九州関連の記事を中心に紹介します。
雑誌を読みながら、「天神ビッグバン」「博多ウォーターフロント計画」「外国人観光客」など、「福岡市」の記事が圧倒的に多く、北九州市との勢いの違いを感じました。
大学生の流出防止の対策
2015年に北九州市と下関市の「12の大学+高専」、「3つの自治体(福岡県、北九州市、下関市)」、「3つの経済団体」、計19団体が「北九州・下関まなびとぴあ」を組織しました。
目的は、大学等の卒業生の地元就職率を上げるためです。
事業期間は2015年度からの5年間で、地元就職率を「24.2%(929人)」から「34.2%(1300人)」と「10ポイント」の向上を目的としています。
次に示す対策を行い、学生と地元企業の出会い・体験の場を増やすことを進めています。
・地域を志向する授業科目の開講:低学年から地元企業の紹介
・地元就職・採用などの調査研究:地元企業の紹介誌「しごとZINE(じん)」
・小倉中心部に就職支援スペースを開設:「まなびとJOBステーション」
・インターンシップや合同企業説明会を実施
また、奨学金の返還を軽くする「北九州市未来人材支援基金」も運営されています。
しかし、残念ながら、効果は上がっていなく、地元就職率は「22%台」と足踏みしています。
北九州市の産業面の施策
これまでの北九州の産業の蓄積をベースに新しい試みが多くなされています。
ここでは、主な施策の項目だけを紹介します。
① 北九州エコタウン:1997年~、20年経過
・国内で26ヶ所が指定されていますが、第1号認定です。
・過去の公害(スモッグ、死の海)を克服してきた技術を海外に移転しています。
・2008年には「環境モデル都市」に認定されています。
② 建築現場を自動化する「iコンストラクション」
・2017年7月に「北九州市iコンストラクション推進協議会」設立。
・精密機器メーカーの「トプコン」を誘致して、最先端のトレーニングセンターを設置。
・ドローンによる「3次元計測」、ICT(情報通信技術)の適用
*地元の中小規模の建設業者にどうやって普及させるかが課題になっています
③ 介護ロボット
・北九州市の高齢化率は「29%」で全国の政令市で最も高くなっています
・2016年に「国家戦略特区」に認定され、「IoTを活用した介護現場の効率化」の面で国からの補助を受けながら開発が進められています。
・介護は「食事」「入浴」「排泄」の3点が重要ですが、介護現場を観察すると「記録業務」の負担が大きく、「音声入力」「計測システムの自動入力」の開発も進められています。
④ 北九州e-PORT構想2.0
・北九州のデータセンターを中心としたICT(情報通信技術)サービスを、いつでも簡単、便利に使える社会基盤を提供することを目指しています。
・「市民にICTサービスを使ってもらってより便利な生活をしてもらう」「地元企業がICT技術によって成長してもらう」ことを目的にしています。
・これを実現するために、市民や企業に「ICTサービス」を伝えることができる人材の教育も行っています。
⑤ 洋上風力発電:「ひびきウィンドエナジー」
・最大「44基の風車」を設置し、最大「22万キロワット」、「18万世帯分」の発電を目指します。
⑥ 宇宙ビジネス:衛星開発プロジェクト
・九州工業大学では、多くの国々と共同で「衛星の開発プロジェクト」を進めています。
・この開発には、地元の多くの企業が協力を行っています。
各種のインフラの整備
上記が産業面のアプローチですが、インフラの整備として次のことが実施または計画が進められています。
・北九州市と下関市をつなぐ第三の道路「下関北九州道路(関門海峡道路)」構想が本格化する可能性
・「スペースワールド跡地」の再開発
・「東芝跡地」の再開発
・老朽化した公共施設の統廃合
・北九州空港の有効利用(貨物、国際・沖縄便)
北九州市がいかに魅力ある都市になるか
当社では、経営コンサルタントの立場から、九州工業大学の産学連携コーディネータ―の立場として、北九州市の中小企業の経営者の方と様々な対話を行っています。
北九州に若者を引き寄せるためには、「働き甲斐のある職場」「夢のある仕事」が必要で、更に、給料の面でも満足が得られることが必要です。
そのためには、各企業は、もう一段、高い目標を持って、経営改善に取り組み、利益を上げて、社員の給料を上げることです。
自分の会社だけで上げることが不可能であれば、他社との合併、売却なども考えていく必要があります。
最悪なのは、人手不足により、経営が成り立たなくなることです。
北九州は、比較的、中小企業に対して、公的機関による支援体制はできていると思います。
ただし、この支援は入口のアドバイスであり、最後まで責任を持ってくれるものではありません。
最後は自分自身ですが、「真の経営コンサルタント」の話を聞くのも一考です。