経営改善・事業再生 2021年(3)
本記事は以前のホームページに記載したものを整理したものです。
【1】運転資金の借入の考え方?
(20210308)
経営改善・事業再生において、様々な企業の決算書を見る機会が多くあります。
会社規模に対して、かけ離れて多い銀行からの借入金がある企業もあります。「どうやってそこまで借りられたのか?」「よく銀行が貸したものだ!」と感じることが多々あります。
新型コロナウィルス感染拡大の影響による販売不振を助けるために、昨年(2020年)の4月から、政府系金融機関や民間の金融機関(信用保証協会の保証融資)が融資(貸付)を増やしています。
このことにより、現時点では「廃業・倒産」が抑えられていますが、今後、更なる売上減、そして返済猶予期間が過ぎて借入金の返済が始まると、経営破綻に陥る企業が増えてくることが予測されます。
借入の目的は2つ
企業にとって借入が必要になるのは次の2つの場合です。
【1】運転資金が不足している場合:消極性資金 できれば避けたいが・・・
【2】設備購入などの新規投資のため:積極性資金
今回は、運転資金の不足について、原因と対応を示します。
運転資金が不足している場合
(1) 運転資金不足になる原因
今回の「新型コロナウィルスの感染拡大」により、売上が急激に減り、運転資金が枯渇して、緊急融資を受けた企業も多いと思います。これは予測できない環境の変化によるものですが、一般的には「運転資金が不足する」のは、きちんとした経営をしていないからです。主な原因を次に示します。
1 急な資金不足の時のための準備ができていない
⇒ 資金繰表を付けていない場合が多い。
2 慢性的な赤字状態にある。
3 売上額の予定を立てないか、立てても根拠が乏しい。
4 入金があってから出金をするという絶対的なお金の流れのルールを守れない。
5 売上減少に対して売上向上策を積極的に考えて行動に移すことができない。
6 何よりも、社長が経営に死に物狂いになっていない。
以上のように、運転資金不足に陥るのは、経営者(社長)の資質・考え方・行動によることが大部分です。
(2)運転資金不足にならないための対策
運転資金不足にならないためには、常日頃次の対策を実施することが必要です。
1 まずは向こう「6ヶ月」間の可能な限りの正確な資金繰表を作成する。
2 入金サイトと出金サイトを再確認して、必ず入金後に出金するという仕組みを作る。
3 赤字の原因を見つけ出し、「売上総利益率(粗利率)」「営業利益率」の向上の方策を具体的に作る。
4 根拠を持って売上予定を立て、その結果の予定と実績の管理(予実管理)を行う。
*実績は遅くとも、翌月の5営業日までに把握できる仕組みをつくる。
どれもがやる気になれば実施できることです。
(3)運転資金不足になったときの対応:借入は?
結論:借入をしてはならない!借入をすれば倒産の扉を開けたことになります
<借入を行わない場合の対応>
1 各種の支払いを遅らせる
2 赤字の原因を見つけ出し、改善を行う
3 しっかりとした資金繰表を作成する
4 黒字の出る事業計画書をプロと一緒に作り実行する
(4)どうしても借入をしなければ対応できない場合
まずは、運転資金としていくら必要なのかを検討します
必要な運転資金は、「固定費の3ヶ月分」で算出して下さい。
固定費の内訳:下記の(A)+(B)+(C)
(A)製造原価の中の固定費+一般管理費の中の固定費
(B)販売後の入金時期より仕入代金の方が先の場合、その期間に先に発生する仕入代金
(C)固定の人件費以外に発生する人件費
<借入の方法>
上記の計算の上で、いつ運転資金が不足になるかを「資金繰表」を使って明らかにします。
その上で、運転資金が不足する最低3ヶ月前に、金融機関に借入申込みをして、不足する2ヶ月、遅くとも1ヶ月前には借入を終了させます。
運転資金不足の場合、借入は最終手段と考えて下さい。
借入ではなく、金融機関に元金の返済を一時的に止めてもらう方法「リスケジューリング:リスケ」もあります。リスケを行うと基本的には追加の借入はできなくなりますが、場合によっては、リスケの方が資金繰りが楽になる場合もあります。
まずは、資金繰表の作成など、上記の(2)に示した対策を実施することです。
【2】設備投資の考え方
(20210313)
企業の成長のため、特に製造業の場合、「新たな設備の導入」は必要と思われている方は多いと思います。
製造業の方、工場内を見渡して下さい。使わなくて、カバーがかかったり、さび付いた機械が目に付くかと思います。物を作らない、お金を稼がない機械が意外と多いことに気付くと思います。
設備投資は、うまく行えばお金を生み出しますが、一歩間違えると会社の経営を危うくします。
設備投資が不利な点
設備投資は、次に示す不利な要素を持っています。
1 設備を購入するために借りた借金・利子の支払いによる資金繰りの悪化
2 設備を保つための維持費(メンテナンス費用、修理費用)の発生
3 設備を操作するための人件費の増加
4 お客・市場の変化に対応する柔軟性がなくなっていく
上記の1~3は、設備導入によりお金が発生することですが、4については設備投資自体の内容に関するものです。
「ものづくり補助金」の設備導入の理由に、「外注で行っていたものを内製化して、コスト低減、納期短縮を行う」と記載されていることが多いです。
本当にそうでしょうか?自社で強みを持っている技術に関して、更に強みを発揮するために設備を導入するのは、市場が伸びている場合は成功する可能性が高いと思いますが、このようなケースはそんなに多くありません。
設備投資が失敗する場合
今まで外注に出していた自社では経験のない工程を実施するために、ある製品に特化した自動化された設備を入れた場合はどうでしょうか?
「内製化・自動化」と耳障りは良いですが、現場は苦労の連続になる可能性があります。
例えば、自動車の金属部品で「切断⇒溶接⇒塗装⇒組立て」の工程で、塗装だけを外注で行っていたのを、自動化された「塗装ライン」を導入したケースがあります。
ここでの問題点は、2つあります。
第1は「自社で塗装の技術をもっていない」こと、第2は設備の「検討時に生産していた部品の専用ライン」を導入したことです。
外注に出していた塗装は「単なる色塗り」ですが、「塗装前の下地処理」や「インキ」「乾燥工程」などにノウハウがあり、設備を入れただけでは簡単にはできない技術です。
また、「お客や市場の要求」は日々変化します。そのため、塗装の色や部品の形状が、変わることが多くあります。生産効率を追求した専用ラインを導入したばかりに小回りが利かなくなり場合によっては使用できない事態に陥るかもしれません。
外注は悪なのか?
決算書を見ると「外注費」が高いことが目に付く場合があります。その場合、経営コンサルタントは「内製化」を推奨し、設備を入れたり、人を採用することを進言する場合があります。
確かに、計算上、内製化を行った場合の方が利益が出る場合がありますが、先に示した「自社の保有技術」「市場の変化の予測」をよく検討して下さい。
製造会社で大切なのは、社内生産能力だけではなくて、外注からの購入を含めた総合的な供給力です。
理想的な経営構造の一つとして「工場を持たないメーカー」があります。モバイル機器、スマートフォンなどを販売しているアップル社はその例です。
機器や機種に応じて、最適な部品メーカーや加工メーカーを使い分けています。
強い営業力と優れた事業開発力を兼ね備えた「頭脳集団による経営」が理想ではあります。
中小企業の場合、特に自社で製品仕様を決められない部品・部材を製作しようとした場合、自社で全てを実施しようとしたらムダが多く発生します。この場合、協力してもらえる「違う技術を持つ優秀な企業」と連携できるかが重要になります。
今回は、設備投資の借入の前段階として、「設備投資の考え方」、特に否定的な面について紹介しましたが、十分に検討された設備投資は会社の発展に不可欠です。