経営改善・事業再生 2021年(5) - 事業パートナー九州 北九州市(福岡県)経営コンサルタント

経営改善・事業再生 2021年(5)

本記事は、以前のホームページに記載したものを整理したものです。

【1】「両利きの経営」「未来事業費」~事業再構築を考える~

(20211220)

最近「両利きの経営」という書籍が目に入り、早速、購入して、読んでいます。また、以前に紹介した「社長の教祖」と称された経営コンサルタントの「一倉定」先生の書籍を読んで経営の勉強をしています。両方の内容を考えると時代や国は違っても基本的な考えは同じであると感じています。更に、現在話題になっている「DX:デジタルトランスフォーメーション」にも通ずるものと思っています。

また、実務で、幾つかの企業の「事業再生・経営改善」「事業再構築補助金・ものづくり補助金」の支援に取り組んでいる中で、企業が生き延びて発展していくのを考え、実行支援を行っていくのが当社に求められている使命であると考えています。

 

両利きの経営:「深化」と「探索」

事業経営とは「変転する市場と顧客の要求を見きわめて、これに合わせて自社をつくりかえる」こと(一倉定)。

「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く(「両利きの経営」の表紙より)。

ここでいう「二兎を追う」ということは、「深化」と「探索」を同時に行うことです。

深化:自社の持つ一定分野の事業を継続して、深掘りして、磨き込んでいくこと

*既存事業について、強みを更に磨き、製品の質の向上、販路を広げて、売上・利益をあげていくこと

探索:既存の事業以外の事業を探索し、その製品化、事業化を実現すること

これを図で示すと次のようになります。

「深化」とは?

「深化」は「(1)従来商品等を従来市場で量を増やす」および「(3)新市場・新顧客に従来商品等を適用する」に該当します。なお、この時は、従来商品等は、コストダウン(生産性向上、不良率の低減、原材料費低減など)、デザインの変更などを行い、既存顧客の売上増加(シェアの拡大)、新規顧客の獲得を行います。

「探索」とは?

直近の10年の間は、ますます多くの企業や産業が破壊的変化に遭遇するようになっています。50年前、アメリカの「S&P500社」の平均寿命は「50年」でしたが、現在は「12年」になっています。多くの企業が市場から去って(倒産・廃業等)、新たな企業が台頭していることを意味しています。破壊的変化により、各企業の経営者には、これまで以上に素早くこの脅威に対応しなければならないという重圧がのしかかっています。

50年前であれば、いや20年前には、経営者には対応できる時間があり、変化への対応が少々遅れたとしても挽回はできました。現在は、変化の流れを逃したり、破壊的イノベーションに対応し損なった場合は、直ぐに倒産に追い込まれていきます。昨今では、中小企業だけでなく幾つかの大手の企業が倒産や吸収合併、会社分割に追い込まれています。

そのため、従来の事業に代わり、新たな事業を興していくことが必要になります。

それを後押しする施策として、本年(2021年)4月から「事業再構築補助金」の制度が施行されています。これは、コロナ禍で売上が減少した企業が新たな事業に取り組むことに補助金を出す制度です。

 

当社の事業再構築補助金の状況

当社では、第2次(7月2日締切り)、第3次(9月21日締切り)の募集で支援を行い、これまでに4件の採択(100%)を得て、採択を受けた企業は新規事業に取り組んでいます。また、第4次募集(12月21日締切り)で2件の申請を行い、第5次(2022年3月締切り予定)の1件の計画策定に着手しています(もう1件は着手前)。

この計7件を上の図に当てはめてみます。

この中で事業化が難しいのは、新規の「商品・技術・サービス」です。②の案件は、従来の顧客にも適用できる可能性があるので(2)の領域にしていますが、ほとんどの顧客は新規になると思われ(4)の領域に近いものです。表の右側にいくほど実用化は難しくなります。⑤は従来技術をより高度化(その面では新規と言えないこともない)したもので、これらの7件の中では最もリスクは少ないと判断しています。

(4)の領域(商品、市場ともに新規)は、事業化への道は厳しいものです。この領域に取り組む企業の経営者は「誰(顧客)」「何(商品)」を明確にして、スピード感を持って取り組む必要があります。特に資源(ヒト・モノ・カネ)が乏しい中小企業の場合は、新規事業の失敗は倒産の扉を開けることになります。倒産の覚悟を決めて新規事業に取り組まない限り、既存事業にしがみついていたら確実にいずれ倒産に向かうことになります。

 

未来事業費の考え

一倉定先生の書籍では、何度も「未来事業費」という言葉がでてきます。企業の成長のために現業の利益の一部を「新規事業等のために確保」しておくことを意味します。これを図で表すと次のようになります。

現業だけで考えると上図の未来事業費は現業利益になります。実際は「未来事業費」は、新製品・商品の開発、生産性向上のための設備投資、販売や購買の組織強化などの経費に使われ、利益としては残りません。

50年以上前に企業が生き延びるために「新規事業の重要性」を強調していたことに驚きを隠せません。

 

<一倉定先生の書籍より(まとめとして)>

これからの会社は、現事業のみに心をうばわれて、将来の備えを怠ったら、それは破綻につながる。

未来事業費によって蓄積された、潜在的実力こそ、ほんとうの意味の内部蓄積なのである。

財務的蓄積のみをもって、事足れりとしていられる時代ではない。それどころか、未来事業に遅れをとって、ピンチに追い込まれたときには、財務的な蓄積など、アッという間にくいつぶしてしまう。

★56年前の言葉ですが、現在に最も適した言葉です。

 

 

【2】危機を乗り越える力・2021年当社の振り返り

(20211226)

危機を乗り越える力

この言葉は、2021年版の「中小企業・小規模企業白書」で書かれている言葉です。その中で次の3つが危機を乗り越える課題として示されています。

【1】中小企業の経営戦略の再構築

【2】デジタル化の推進

【3】事業承継・M&Aの推進

この3つの項目について、当社が関係した2021年の取り組みを紹介します。

*示す各図は、中小企業白書からの抜粋です。ご興味がある方は白書をお読み下さい。

【1】中小企業の経営戦略の再構築

白書では「中小企業の財務基盤と感染症を踏まえた経営戦略」と題して現状が示されています。

1 これまでにない金融機関の融資

2020年3月から、コロナ禍による経済活動の停滞による運転資金の補充を目的として、政府系の金融機関である「日本政策金融公庫」「商工組合中央金庫」の融資が始まり、それだけでは対応できないので、5月から「信用保証による民間金融機関」の融資が行わました。

これらの融資は、従来では財務状況上で借入が難しい企業も借入ができました。また、借りる必要がないと思われる企業も借入を行っています。

借入金の元本の返済には据置期間が設けられ、更に一定期間は実質無利子の融資になっています。

次に、政府系金融機関と民間の金融機関の融資状況を示します。2020年3月から2021年2月の約1年間で、合計「約240万件」の借入が行われました。

<政府系金融機関による融資件数>

<信用保証による民間の金融機関の融資件数>

2 返済の開始による資金ショートの可能性

コロナ禍が早めに終息すると予測し据置期間を1年に設定した企業は既に借入金の返済が始まっています。今後、順次、返済が開始される企業が増えてきます。

返済までに経営状況を立て直すことができた企業は問題ありませんが、「コロナ融資」やその他の助成措置で(かろうじて)存続できていた企業は、これらがなくなった段階で資金繰りに苦しい状況に追い込まれることになります。このため、政府はこの救済として、更なる元本返済の据置策も行っています。2021年4月からは「中小企業再生支援協議会」による「新型コロナ特例リスケジュール支援」も行われています。

政府の支援にも限界があり、今後、経営状況の悪化と先行き不安により、経営者の高齢化・経営承継者の不在もあって、倒産や廃業が増えてくることが予測されます。

今回のコロナ禍で、経営者が手元資金の重要性を認識した点です。次に示すように以前に比べて、月商に対する必要と考える手元資金(現金・預金)の額が増えています。

これからの経営は、いかに利益を増やして内部留保(純資産・自己資金比率)を増やすことが重要です。

3 当社の事業再生・経営改善の取り組み

運転資金や借入金の返済に困っている企業の要請を受けて、経営再建の支援を行っています。

・現在の財務状況、事業の状況を分析して、

・当面必要な資金繰り対策を実施し、

・再建に向けた各種の対策を検討し、

・対策の実施 に対する支援を行っています。

企業の負担を少なくするために、必要に応じて、「経営改善計画」の補助金の利用も行っています。

上記に示したように、直近は、経営が苦しくなった企業からの相談や支援依頼が増えてきています。

4 当社の「事業再構築」の取り組み

2021年3月から「コロナ禍」等により、売上が減少した企業が新規の事業を行うことに対して助成する「事業再構築補助金」が制度化され、今年度(2022年3月末まで)、5回の公募が行われています。次年度も予算規模が少なくなりますが、継続実施されることになっています。

当社では、第2次公募から、補助金を希望する企業の申請の支援(主に事業計画の策定)を行っています。マンパワーの面で各公募回で2件に絞って支援を行い、第2次、3次で計4件の採択を得ています(採択率:100%)。第4次(12月21日締切り)も2件の申請を行い、現在は第5次(2022年3月締切り予定)の案件の事業計画策定の支援を行っています。

申請を支援した一部の企業とは、その後の計画遂行のための実行支援も行っています。

 

【2】デジタル化の推進

白書では「事業継続力と競争力を高めるデジタル化」と題して現状が示されています。

1 現在の中小企業のデジタル化の状況

最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)という文字が毎日のように目に入ってくると思います。最近、DXに関する書籍が多く発刊され、勉強されている方も多いと思います。

それでは、「中小企業ではDXをどのように進めたら良いか?」の問いかけに対して、明確に回答して、行動に移している企業は少ないのが現状です。中小企業の経営者の大部分は、自分たちには関係ないと思われていると思います。

これからは、「DXなくして事業の継続はない」と考えて、取り組んで行く必要があります。

DXは現状の業務・作業内容のデジタル化を行うことではありません。デジタル技術の導入によって、生産性を向上させ、それにより利益を増やし、事業継続力と競争力を高めることです。

そのため、現状の業務フローを整理して、その中のどこにデジタル化の施策を打てば生産性が向上できるかを検討することです。このDXの施策を外部のITメーカーに丸投げしたり、特定の従業員に一任することでは、効果はでてきません。

白書に記載の調査結果では、経営者がデジタル化に積極的に取り組んでいる場合の方が、プラスの効果を生んでいます。

2 当社のDX支援の取り組み

現在、中小企業のDXの取り組みについて、調査・検討を行っています。今後、順次、ホームページやメルマガで発信していきます。

 

【3】事業承継・M&Aの推進

白書では「事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経緯資源の有効活用」と題して現状を説明しています。

1 休廃業・解散件数の増加

次の図に示すように、企業の休廃業と解散が年々増加しています。その主な理由に経営者の高齢化と後継者不在が上げられます。これらの中には、赤字で継続が難しい企業もありますが、黒字の優良企業も約60%ほど含まれています。

上図でも経営者の平均年齢が上昇していることを示していますが、下図に各年(5年毎)の経営者の年代分布を示します。これを見ても60歳以上の経営者が多いことがわかります。

経営者が高齢であることが必ずしも悪いことではありませんが、経営者が高齢になるほど、収益力が落ちていることと、新しいことへの取り組みが少なくなることが示されています。

白書では、

・新事業への進出

・設備投資の実施

・試行錯誤(トライアンドエラー)を許容する組織風土

について示されていて、経営者が高齢になるほど取り組みが減っていることを示しています。ここでは「トライアンドエラーを許容する組織風土」について示します。

M&Aの増加

後継者がいなくて廃業になることを防ぐ方法として、「M&A」があります。一昔前はM&Aは大企業での話でしたが、ここ数年は中小企業でも活発に行われるようになっています。

その原因は、

(1)政府が中小企業のM&Aを推進

各都道府県に「事業引継ぎセンター」を設けて、M&Aを推進しています。

(2)マッチングサイトの出現

ネット上に、売りたい企業や買いたい企業の情報を掲載し、マッチングを行うサイト(運営会社)が増えたこともM&Aが盛んになった要因の一つです。

M&Aの買手企業が、M&Aに当たって重視する点は、「対象企業の成長性」や「保有の経営資源(人・技術など)」で、買収により更なる成長を見込んでいます。同業の企業を買収する場合が多いですが、異なる分野・業種の企業を買収して新事業に進出する場合もあります。

また、売手企業が企業や事業を売却するのは、後継者不在などにより事業継続が難しくなり、従業員の雇用が守られるようにするケースが最も多い要因です。

2 当社の事業承継・M&Aの取り組み

当社は、M&Aに関して次の取り組みを行っています。

事業承継・M&Aの詳細はホームページをご覧下さい

(1)M&A支援機関として登録

当社は、中小企業庁に「M&A支援機関」として登録し、「中小M&Aガイドライン」に遵守した取り組みを行います。これにより、「事業承継やM&Aに関する補助金」の申請支援も行うことができます。

(2)バトンズの認定M&Aアドバイザー

小規模M&Aを推進しているバトンズ社(日本M&Aセンターの関連会社)が運営している「マッチングサイト」を利用して、M&Aの相手先の探索を行うとともに、M&Aの一連の手続きの支援を行います。

来年は今年の活動をより高度に

来年は上記に記載の内容をより専門的に進めていきます。

キーワードは、「事業再構築」「DX」「事業承継・M&A」です。

 

 

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