経営理念の概念
前回の投稿で「従業員数名の中小企業にも「経営理念」が必要か?」を紹介しました。
今回は、この「経営理念」に関する「ミッション」「ビジョン」「パーパス」「コンセプト」について、それぞれの意味と適用するケースを説明します。
1. ミッション(Mission)
意味
ミッションは、企業の「存在意義」や「果たすべき役割」を明確にしたものです。なぜこの会社が存在するのか、社会にどのような価値を提供するのかを示します。
適用するケース
・企業の根本的な目的や社会的意義を明確にするために使用
・社員の共通意識を形成し、企業文化を築く際に活用
・採用活動や投資家向けの説明で企業の価値を伝える
例
「世界中の情報を整理し、誰もがアクセスできるようにする」(Google)
2. ビジョン(Vision)
意味
ビジョンは、「企業が将来どのような姿を目指すのか」という長期的な目標や理想像を表します。企業が進むべき方向性を示し、社員のモチベーションを高める役割を果たします。
適用するケース
・企業の長期的な目標を設定する際に使用
・経営戦略の方向性を明確にし、従業員を導く
・ステークホルダー(顧客、投資家、取引先)に未来の展望を伝える
例
「2025年までに世界で最も持続可能なエネルギー企業になる」(エネルギー関連企業のビジョン)
3. パーパス(Purpose)
意味
パーパスは、企業の「社会的な意義」や「企業が本質的に何のために存在するのか」を示します。ミッションに近い概念ですが、より深い哲学的・倫理的な意味合いを持ち、企業の存在価値を社会的な文脈で説明します。
適用するケース
・企業の社会的な意義を明確にし、ブランディングに活用
・CSR(企業の社会的責任)やESG経営における指針として利用
・消費者や社会との関係を深め、共感を生むマーケティング戦略に適用
例
「より良い未来を創るために、すべての人に健康とウェルビーイングを」(ヘルスケア企業のパーパス)
4. コンセプト(Concept)
意味
コンセプトは、商品・サービスや事業の「基本的な考え方」や「デザインの軸」となるものです。ブランドのアイデンティティや戦略的な方向性を明確にするために使われます。
適用するケース
・商品・サービス開発において、デザインや提供価値を明確にする
・マーケティング戦略やブランディングの方向性を決定する
・企業のブランドイメージを形成し、他社との差別化を図る
例
「ミニマルなデザインと最高のユーザー体験を追求」(Appleの製品コンセプト)
まとめ
概念 | 意味 | 適用するケース | 例 |
---|---|---|---|
ミッション(Mission) | 企業の存在意義や目的 | 企業文化の形成、社員の意識統一 | 「世界中の情報を整理し、誰もがアクセスできるようにする」(Google) |
ビジョン(Vision) | 将来的に目指す理想像 | 長期的な成長戦略の指針 | 「2025年までに世界で最も持続可能なエネルギー企業になる」 |
パーパス(Purpose) | 社会的な意義・存在価値 | CSR・ESG経営、ブランディング | 「より良い未来を創るために、すべての人に健康とウェルビーイングを」 |
コンセプト(Concept) | 商品・サービスの基本的な考え方 | 商品開発、マーケティング戦略 | 「ミニマルなデザインと最高のユーザー体験を追求」(Apple) |
活用のポイント
・ミッション・パーパスは企業の「根幹」として組織全体に関わる
・ビジョンは「未来の方向性」を示すものであり、目標として設定される
・コンセプトは、特定の事業やブランドに適用され、具体的な戦略やマーケティングに活かされる
それぞれの概念を整理し、企業の経営戦略やブランド形成に活かすことで、より明確な経営理念を構築できます。
中小零細企業が「経営理念」を策定する際に重視すべき概念
中小零細企業が経営理念を策定する場合、 「ミッション(Mission)」と「パーパス(Purpose)」 を中心に考えるのが最も重要です。
その上で、事業の成長やブランド形成を考える段階で 「ビジョン(Vision)」や「コンセプト(Concept)」 を補足すると良いでしょう。
1. ミッション(Mission):企業の存在意義を明確にする
なぜ重要なのか?
・企業の規模に関係なく、 「何のためにこの事業をやるのか?」 を明確にすることは、従業員や取引先、顧客にとっての共通認識になります。
・中小企業では、トップ(経営者)の想いが企業文化や事業の方向性に直結するため、 ミッションがブレないことが経営の安定につながる からです。
ミッションの策定ポイント
・「誰のために、何をする会社か?」
・社会にどんな価値を提供するのか?」
・「この事業を通じて解決したい課題は何か?」
例
・建設業の許認可を支援する行政書士
「中小建設業者が安心して事業を継続できるよう、迅速かつ確実な許認可取得をサポートする」
・ペット葬祭事業
「ペットとのお別れを大切に、飼い主の気持ちに寄り添った葬祭サービスを提供する」
2. パーパス(Purpose):社会的意義を明確にする
なぜ重要なのか?
・近年、消費者や取引先は 「この会社は何のために存在するのか?」 を意識するようになっています。
・特に中小企業は、地域や特定のコミュニティとの関係が強いため、 パーパスを明確にすると共感を得やすい です。
パーパスの策定ポイント
・「この事業を通じて、どんな社会を作りたいのか?」
・「単なる利益追求ではなく、社会にどのように貢献するのか?」
・「従業員やお客様にとって、どのような意味を持つ企業でありたいか?」
例
外国人の会社設立・在留資格支援
「外国人が日本で安心して起業・生活できる環境をつくる」
金属リサイクル事業
「限りある資源を有効活用し、持続可能な社会の実現に貢献する」
3. ビジョン(Vision):長期的な目標を描く
なぜ重要なのか?
会社の成長を考えたとき、 「5年後、10年後にどうなっていたいか?」 を考えることで、従業員のモチベーションや経営の方向性が明確になります。
ただし、規模の小さな企業では まず事業の安定が優先 されるため、最初から大きなビジョンを掲げる必要はありません。
ビジョンの策定ポイント
「3年後、5年後、どのような会社になっていたいか?」
「どんなサービスや商品を提供しているか?」
「どんなお客様に喜ばれる存在になっていたいか?」
例
ペット葬祭事業
「地域で最も信頼されるペット葬祭業者として、飼い主に寄り添うサービスを提供し続ける」
食品(酢)の製造メーカー
「お酢の健康効果を広め、全国のお客様に愛されるブランドを確立する」
4. コンセプト(Concept):事業の方向性を明確にする
なぜ重要なのか?
・中小企業の場合、 事業や商品ごとに明確なコンセプトを決めると、競争力が高まる 。
・コンセプトは マーケティングやブランディング に活用され、競合との差別化につながる。
コンセプトの策定ポイント
・「このサービス・商品は、他社とどう違うのか?」
・「どんなお客様に向けて提供するのか?」
・「どのような価値を伝えたいのか?」
例
・ペット葬祭
「家族の一員であるペットとのお別れを、温かく心に残るものに」
・外国人向け経営支援
「日本でのビジネス成功を支える、ワンストップ支援サービス」
結論:中小企業はまず「ミッション」と「パーパス」から
優先順位
1 ミッション(Mission):まずは「何のためにこの会社があるのか?」を明確にする
2 パーパス(Purpose):社会的な意義を示し、共感を得る
3 ビジョン(Vision):将来の目標を描く(事業が成長してきた段階で設定)
4 コンセプト(Concept):商品やサービスごとの個別の特徴を明確にする
実践のステップ
1 経営者自身が「何のためにこの事業をやっているのか?」を言葉にする
2 従業員や関係者と話し合い、共感を得られる理念を固める
3 お客様や取引先に「自社が目指すこと」を伝えやすい形に整理する
4 ミッションやパーパスを会社のホームページやパンフレットに明記する
5 事業の成長に合わせて、ビジョンやコンセプトを追加・修正する
まとめ
★まずは「ミッション(何のために?)」と「パーパス(社会的意義)」を明確に!
★事業が軌道に乗ったら「ビジョン(将来の目標)」や「コンセプト(独自の価値)」を追加
★経営理念は一度決めたら終わりではなく、事業の成長に合わせて進化させる
これらを意識すると、中小零細企業でも ブレない経営の軸 を持つことができ、社員や顧客からの信頼を得やすくなります。