(分岐点シリーズ第2回)借入が多い会社は、本当に再生できないのか?
~ 債務(借金)構造から見る再生可能性 ~
前回は、「赤字が3期続いた会社は再生できるのか」というテーマで、財務構造・債務償還年数・資金繰りの視点から整理しました。
今回は、多くの経営者が抱えるもう一つの不安に踏み込みます。
「借入が多い会社は、もう再生できないのではないか?」
この問いです。
結論から言えば、
借入が多いこと自体は、再生不能の理由にはなりません。
問題は、借入の「量」ではなく、「借入の構造」です。
借入総額だけを見ても意味はない
「借入が5億円ある」
「自己資本はほとんどない」
こうした状況だけを見ると、再生は困難に思えます。
しかし、次のようなケースは珍しくありません。
・売上30億円、借入5億円
・売上5億円、借入5億円
この2社では、意味がまったく違います。
重要なのは、借入総額 ÷ 年商、あるいは借入総額 ÷ 営業キャッシュフローです。
(1)月商倍率で見る危険度
実務でよく使う指標に「月商倍率」があります。
借入総額 ÷ 月商
一般的な目安は、
・3倍以下:安定
・6倍前後:注意
・6倍超:警戒
・10倍超:要抜本対応
例えば、月商5,000万円で借入3億円の場合、倍率は6倍です。
この水準で営業黒字であれば、再生可能性は十分あります。
しかし、月商2,000万円で借入3億円の場合、倍率は15倍。
この場合は、通常の改善では追いつきません。
(2)債務の「質」を見る
借入の構造を見る上で重要なのは、次の3点です。
1.短期借入と長期借入の比率
短期借入が多い場合、資金繰りの不安定要因になります。
長期借入中心であれば、再設計の余地があります。
2.金融機関の数
・1〜2行集中 → 調整しやすい
・5行以上分散 → 調整が難航しやすい
金融機関が多いほど、合意形成の難易度は上がります。
3.保証協会・プロパーの比率
保証協会付き融資が多い場合、金融機関のリスクは限定的です。
一方、プロパー融資が多い場合、金融機関は慎重姿勢になります。
(3)債務超過=再生不能ではない
債務超過もまた、誤解されやすい概念です。
重要なのは、
・実質債務超過か
・簿価上の債務超過か
土地の含み益や、減損未処理資産などがある場合、実態は異なることがあります。
また、再生とは「純資産を戻すこと」ではありません。
キャッシュフローを回復させることです。
再生可能企業の債務構造
借入が多くても再生可能な企業には、次の特徴があります。
・営業黒字または黒字化の見通しがある
・金融機関との対話余地がある
・主力事業が市場で通用している
・債務の整理が理論上可能
逆に、次の状態は危険です。
・営業赤字が固定化
・追加借入で運転資金を補填
・計画が希望的観測中心
リスケは再生の入口であって出口ではない
リスケジュール(返済条件変更)は、時間を確保する手段です。
しかし、
・黒字化の根拠が弱い
・数字が積み上げ型でない
・固定費削減が甘い
場合、単なる延命になります。
金融機関は、「本気で構造改革をする会社」には協力します。
しかし、「時間稼ぎ」の企業には厳しくなります。
サービサー移管の現実
借入が重い会社が最も恐れるのは、債権のサービサー移管です。
しかし、移管=即終了ではありません。
問題は、
・事前に整理しているか
・主体的に交渉できる状態か
です。
主体的に動ける企業は、条件調整の余地があります。
出口戦略の視点
借入が多い場合こそ、
1 事業再生
2 M&A
3 廃業
を並べて考える必要があります。
例えば、
借入が多くても、主力事業に価値があれば、M&Aの方が合理的な場合があります。
逆に、再生に5年以上を要する場合、保証人リスクが拡大します。
判断のタイミング
借入が重い企業の多くが、
・銀行からの圧力後に動く
・期限の利益喪失直前に相談
・資金ショート直前に検討
という流れになります。
しかし、最も選択肢が多いのは、まだ交渉余地がある段階です。
当社の立ち位置
私たちは、
借入が多いから「無理」とは言いません。
借入が多いから「再生」とも言いません。
やるのは、
・債務構造の整理
・キャッシュフロー分析
・選択肢の比較
です。
それが出口戦略診断です。
借入が多いことは、問題の「結果」です。
重要なのは、
・その構造を理解しているか
・再設計できる余地があるか
・他の選択肢と比較したか
です。
借入の多さは、再生不能の証明ではありません。
しかし、構造を見ないまま進むことは、危険です。
次回は、「まだ大丈夫」が一番危ない理由~ 判断を先送りする企業の共通点~
をテーマに掘り下げます。
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