経営改善・事業再生 2020年(6)
本記事は、以前のホームページに記載したものを整理したものです。
【1】企業価値を高める:中小企業のコンプライアンス・チェックシート
(20200925)
現在、「後継者不在」や「新型コロナウィルス感染拡大による先行きの不透明」などで、会社や事業の譲渡(M&A)を考えている経営者が増えています。
自社を高く売るためには、「企業価値」を高める必要があります。「売上・利益」「ビジネスモデル」「優秀な人材」などの他に、「法律を順守しているか?」「決められたことがきちんとやれているか?」などのコンプライアンスの実行も企業価値の評価対象になります。
日本弁護士会は、2020年1月に「中小企業支援のためのコンプライアンス・チェックシート」の改訂を行っています。
M&Aの検討の有無にかかわらず、トラブルを未然に防ぐために、このシートでの現状確認と必要に応じた対応を行って下さい。
Q1 会社の基本的なルール(株主総会・取締役・監査役)
~株主や役員との間の内部紛争による会社の混乱を防止するために~
1 株主は複数いるが、株主総会を開く予定はない
2 株主総会は開くが、書面で招集通知はせず、一部の株主しか出席しない
3 取締役会はあるが、実際に開く予定はない
4 株主総会や取締役会の議事録を作っていない
5 会社の定款がどこにあるかわからない
6 株主は複数いるが、株主名簿は作成していない
7 親族や知人が監査役になっているだけで会計監査はしていない
8 弁護士は費用が高いイメージがあるので利用したことがない
Q2 職場の基本的なルール(労働時間、セクハラ、パワハラ)
~従業員との間の残業代や解雇等の労働紛争を防止するために~
1 会社の就業規則は作っていない
2 気に入らない従業員や能力のない従業員はクビにしてもよい
3 労働組合に入った従業員には辞めてもらうことにしている
4 従業員が自主的に残業してくれるので、残業手当はないし、「36協定」も必要ない
5 タイムカードや出勤簿などで従業員の労働時間を管理していない
6 セクハラやパワハラは従業員同士の問題で会社の問題ではないと思う
7 結婚や出産をした女性従業員は辞めてもらう
8 「働き方改革」関連の法律は中小企業とは無関係だと思っている
Q3 取引先との契約
~取引先との間の契約関係をめぐる紛争を防止するために~
1 取引先との間で契約書を作成したことがない
2 取引先との間で契約書の締結をしたが中身を見ていない
3 取引先から支払条件や代金について一方的に不利な要求をされている
4 取引先から商品購入の際、不要な商品も一緒に買うよう求められている
5 取引先に暴力関係者がいるので不利な条件で取引を求められている
6 顧客名簿を従業員が自由に社外に持ち出せる
7 名簿業者から顧客名簿を買ったことがある
8 裁判沙汰はないので弁護士は必要ないと思う
Q4 債権管理・債権回収
~資金繰りに困らないように売上金を確実に回収するために~
1 受注のほとんどを口頭で行っている
2 受注した後に契約条件を口約束で変更することがある
3 受発注の内容を社内の帳簿できちんと管理できていない
4 入金予定日に代金が入ってこなくても放置することがある
5 取引を始める際、相手方の経営状況を全く確認しない
6 取引先の会社が潰れたとしても、社長個人に請求すればよいと考えている
7 取引先の社長が口頭で自宅を担保に入れると言っているので安心だ
8 取引先が倒産したときに取引先の商品を勝手に持ち帰ったことがある
Q5 消費者との関係(表示の問題、特定商取引法など)
~商品をめぐる顧客との間のトラブルを防止するために~
1 自社の商品の広告には、正直、少し大げさなところがある
2 クーリング・オフという言葉の意味を知らない
3 認知症の方との契約も署名捺印してもらった以上は全て有効と思う
4 消費者契約法という法律があるのを聞いたことがない
5 契約書に「商品事故は一切責任を負わない」と買いているので安心だ
6 自社商品の取扱い説明書に安全性に関する注意が記載されていない
Q6 営業秘密や知的財産(特許・商標・著作権など)
~会社が保有する営業秘密や知的財産を守るために~
1 顧客名簿や重要なノウハウがあるが、社内で秘密として厳重管理していない
2 重要な営業秘密を提供するにあたって、秘密保持契約を結ばない
3 他社から従業員を引き抜き、他社の営業秘密を入手したことがある
4 他社と製品の共同開発を行うにあたって、契約書を交わさない
5 他人のホームページに良いフレーズがあったので自社の宣伝に使っている
6 他社の売れ筋商品の名前を模倣して販売したことがある
Q7 コンピューターなどのITの関係
~IT化社会において情報の流出等を防止するために~
1 コンピューターウィルスの対策を行っていない
2 メールで添付ファイルを送る際にパスワード設定を行わない
3 フェイスブックやツイッターでの情報漏えい防止を従業員に注意していない
4 インターネットで通信販売をしているが、法律上の規制を意識したことがない
5 販促として電子メール広告を行っているが、法律上の規制を意識したことがない
6 汎用パソコンソフトを複数のコンピューターに使い回している
日本弁護士連合会のホームページでは、チェックシートの各項目に関する解説が記載されています。
当社でもご相談を受付けますので、ご連絡下さい。
【2】DXは単なるデジタル化ではありません
(20201025)
菅総理大臣に替わり「デジタル庁」をはじめ、「デジタル化」・「IT化」が話題になっています。
目的は、諸外国に比べ日本の生産性が低いことをデジタル化により改善し国際競争力を高めることです。
経済産業省で研究会を設け、ITシステムのあり方を議論し、2018年5月に『DXレポート~ITシステム「2025年の壁」の克服とDXの本格的な展開~』として、報告書として取りまとめ公表しています。
「DX:デジタルトランスフォーメーション」とは?
<経済産業省の定義>
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
製品をデジタル化するといった取組みではなく、「デジタルを使ってビジネスモデルに変革を起こすこと」を言います。
IT化・デジタル化は、単純な「非デジタルからデジタルへ」という流れを指すのに対して、DXはそこに「変革」という意味が加わります。つまり、デジタル技術でビジネスや社会、生活が変革されることです。
2025年の壁 *既存のシステムがDXが進まない要因になる
各企業は自社が使いやすいようにシステムを長年にわたりカスタム化(自社だけに対応)しています。これにより、システムの老朽化だけでなく、複雑化して、どんなものなのか実態が見えないブラックボックス化が生じます。
ブラックボックス化が解消できなければ、DXが進まないだけでなく、2025年以降、年間・最大12兆円(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があるといわれています。これが「2025年の壁」です。
経済産業省では2018年12月に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(DX推進ガイドライン)を発表しています。この構成と中小企業での取組みの基本的な考え方を示します、
この中では、大きく2つの構成になっています。
(1)DX推進のための経営のあり方・仕組み
(2)DXを実現する上での基盤となるITシステムの構築
(1)DX推進のための経営のあり方・仕組み
DXを検討するにあたり、最も重要なものは、「自社をどのような企業にするか?:方向性」です。すなわち、「事業ドメインを再定義」することです。
・誰に:自社のお客様は誰なのか?
・何を:そのお客様にどんな価値を提供するのか?(商品、サービス)
・どのように:その価値をどのように実現して(生産)、提供していくのか(販売)?
これが明確でないと、いくら「IT化」「DX」と言っても意味がありません。
少子高齢化、デフレ社会の中で出口を探っていたときに、「新型コロナウィルス感染拡大」という大波が押し寄せてきました。これにより様々な企業で「ビジネスモデルの大きな見直し(変革)」が必要になっています。この中でもいち早く変革を行い拡大に転じている企業もあります。
このビジネスモデルの見直しの中で、DXをどう推進していくかを検討していきます。下図はDX推進ガイドラインに示されている「経営のあり方・仕組み」を検討する上での考え方を整理する方向性を示しています。
(2)DXを推進する上での基盤となるITシステムの構築
上記の(1)で経営のあり方を決めた後に、DXを進める具体的な体制を造り具体的に実行していきます。中小企業の場合、自社でIT関係に詳しい人材がいないところがほとんどだと思います。当然、実行に当たっては外部に依頼することになると思います。
外部のベンダー企業に依頼する際は、決して丸投げにせず、主体性を持って進めて下さい。高いお金を出してほとんど使えないシステムを導入することになります。
全体のシステム構成を明確にした上で、一部を先行的に実施して、それから徐々に適用範囲を広げることをお勧めします。
新内閣になったこともあり、「デジタル化」「IT化」「行政改革」「中小企業再編」「地方銀行再編」など多くの施策・用語が飛び交っています。
この流れに飲み込まれないように、まずは自社の現状を把握し、外部環境の変化を読み取って、方向性を出すことが重要になります。