強い会社をつくる(4)人が辞めない会社の共通点
~ 採用より重要な「定着」の仕組みをつくる ~
~中小企業にとって「人」は最大の経営資源~
「求人を出しても応募がない」「採用しても、すぐに辞めてしまう」。
こうした人材に関する悩みは、多くの中小企業に共通する経営課題になっています。
少子高齢化によって働き手そのものが減少するなか、今後、人材確保が以前のように簡単になることは期待しにくいでしょう。
特に中小企業では、一人の従業員が退職することによる影響は決して小さくありません。
新たな人材を募集するための採用費用だけでなく、教育に費やした時間や費用、退職した社員が持っていた技術やノウハウ、取引先との関係なども失われる可能性があります。
さらに、残った社員に仕事が集中し、その社員まで疲弊して退職するという「退職の連鎖」が起きることもあります。
だからこそ、これからの中小企業経営では、「どうやって人を採用するか」だけでなく、「どうすれば今いる人が長く働き、成長してくれる会社になるか」という視点が重要です。
「強い会社をつくる経営シリーズ」第4回では、人が辞めない会社に共通する特徴と、中小企業だからこそできる人材定着の仕組みについて考えてみます。
なぜ社員は会社を辞めるのか
社員が退職すると、経営者は「給料が低かったのだろうか」と考えがちです。
もちろん給与は重要です。
しかし、人が会社を辞める理由は給与だけではありません。
例えば、
- 上司や同僚との人間関係
- 自分の仕事が評価されない
- 将来のキャリアが見えない
- 仕事量が多すぎる
- 経営者の考えが分からない
- 会社の将来に不安を感じる
- 成長している実感がない
など、さまざまな理由があります。
特に中小企業では、経営者と従業員との距離が近いため、経営者の言葉や態度が社員の働く意欲に大きく影響します。
「頑張っても何も言ってもらえない」
「何を期待されているのか分からない」
「社長が何を考えているのか分からない」
こうした小さな不満が積み重なり、ある日突然、退職という結果になって表れることがあります。
退職届が出てから対策を考えるのでは遅いのです。
「採用」と「定着」をセットで考える
人手不足になると、企業はまず採用活動を強化します。
求人広告を出し、採用サイトを作り、人材紹介会社を利用する。
もちろん必要な取り組みです。
しかし、毎年10人採用しても10人辞める会社であれば、人手不足は解消されません。
採用を「入口」とすれば、定着は「社内で活躍してもらう仕組み」です。
これからは、採用 → 育成 → 定着 → 活躍 までを一つの人材戦略として考える必要があります。
特に中小企業では、大企業のように毎年多くの新卒者を採用することは難しいため、一人ひとりの社員を大切に育てることが、そのまま企業競争力につながります。
人が辞めない会社には「コミュニケーション」がある
人材定着というと、福利厚生制度や賃金制度などを思い浮かべるかもしれません。
もちろん制度は大切ですが、それ以前に重要なのが日常のコミュニケーションです。
経営者や管理職が、
「最近どう?」
「仕事で困っていることはない?」
「この仕事、助かったよ」
と声を掛ける。
それだけでも社員の受け止め方は変わります。
特に有効なのが、定期的な1対1の面談です。
半年や1年に一度の人事評価だけではなく、短時間でも定期的に話す機会をつくることで、小さな不満や悩みを早期に把握できます。
中小企業には、大企業ほど複雑な人事制度は必要ありません。
むしろ経営者と社員との距離が近いという中小企業の特徴を、「弱み」ではなく「強み」に変えることができます。
「評価されている」と感じられる会社をつくる
社員にとって給与と同じくらい重要なのが、「自分の仕事を見てもらえている」という感覚です。
ところが、中小企業では評価制度が整備されておらず、「社長の感覚で給料や賞与が決まる」という会社も少なくありません。
これでは社員から見ると、「何を頑張れば評価されるのか」が分かりません。
必ずしも大企業のような複雑な人事評価制度を導入する必要はありません。
例えば、
- 技術力
- 仕事の正確性
- 顧客対応
- 後輩の指導
- 改善提案
- チームへの貢献
など、自社が社員に求める行動を明確にするだけでも大きな違いがあります。
「何を期待しているか」を会社が示し、「できたこと」をきちんと評価する。
この積み重ねが社員の成長と定着につながります。
社員に「この会社で働く未来」を見せる
若い社員が退職する理由の一つに、「この会社にいて、5年後、10年後、自分がどうなっているのか分からない」という不安があります。
中小企業では、大企業のように多くの役職を用意することはできません。
だからこそ、役職だけではないキャリアを考える必要があります。
例えば、
「3年後にはこの機械を任せたい」
「将来は新人教育を担当してほしい」
「この分野の専門家になってほしい」
「新規事業を任せたい」
など、その社員に期待する将来像を伝えることです。
人は、自分が成長していると感じられる場所には残りやすくなります。
会社の成長と社員の成長を結び付けることが、人材定着の重要なポイントです。
給与を上げるためにも「生産性」が必要
人材定着を考えるうえで、賃金の問題を避けて通ることはできません。
物価が上昇する中、社員の生活を守るためにも、企業には継続的な賃上げが求められます。
しかし、中小企業が無理に人件費だけを増やせば、経営そのものが苦しくなります。
そこで必要になるのが、生産性向上です。
業務の標準化、設備投資、DXやAIの活用、無駄な作業の削減などによって、一人当たりの付加価値を高める。
その成果を給与や賞与、教育投資として社員に還元する。
生産性向上 → 利益向上 → 処遇改善 → 定着 → さらなる生産性向上
という好循環をつくることが理想です。
人材定着は、人事部門だけの課題ではありません。
利益改善や業務改善と一体で考えるべき「経営課題」なのです。
中小企業だからできることがある
採用市場では、中小企業が大企業と給与や福利厚生だけで競争することは容易ではありません。
しかし、中小企業には中小企業ならではの魅力があります。
経営者との距離が近い。
意思決定が速い。
若いうちから重要な仕事を任せられる。
自分の仕事が会社の成果につながっていることを実感しやすい。
こうした特徴は、大企業にはない強みになり得ます。
大切なのは、それを会社自身が認識し、社員に伝えることです。
「大企業に負けない待遇」を目指すだけではなく、「この会社だから働きたい」と思ってもらえる会社をつくる。
これこそ、中小企業の人材戦略ではないでしょうか。
外国人材も「採用」から「定着」の時代へ
人手不足への対応として、外国人材を活用する中小企業も増えています。
しかし、外国人を採用すれば人手不足が解決するわけではありません。
日本人社員と同じように、
- 適切な評価
- キャリア形成
- コミュニケーション
- 教育
- 働きやすい環境
を整えることが重要です。
特に、言葉や文化の違いがあるからこそ、「会社が何を期待しているのか」を明確に伝える必要があります。
外国人材についても、単なる労働力ではなく、会社の将来を担う人材として育成する視点が求められています。
~人材定着は「経営力」で決まる~
人が辞めない会社に、特別な魔法があるわけではありません。
経営者が社員を見ている。
頑張りを評価している。
将来の成長を一緒に考えている。
働きやすい環境を改善し続けている。
こうした日々の積み重ねが、「この会社で働き続けたい」という気持ちにつながります。
特に中小企業では、一人の人材が会社の将来を大きく左右します。
だからこそ、「人が足りなくなったら採用する」という発想から、
「今いる人が辞めず、成長し、活躍する会社をつくる」
という発想への転換が必要です。
人材定着は人事の問題ではありません。
経営そのものの問題です。
そして、人が育ち、人が残る会社は、結果として顧客からも金融機関からも選ばれる「強い会社」になっていきます。
~事業パートナー九州からのご提案~
会社が強くなれば、事業再生は不要になります。
私たち株式会社事業パートナー九州は、経営改善や事業再生の支援だけではなく、「そもそも経営危機に陥らない会社づくり」を目指したご支援を行っています。
特に人手不足が深刻化する中、中小企業にとって「人材」は重要な経営資源です。
採用だけを考えるのではなく、人材の定着、育成、生産性向上、組織づくりまでを一体として考えることが、これからの企業経営には求められます。
資金繰り、利益改善、財務体質の強化、そして人材の定着。
これらは別々の課題ではなく、すべてつながっています。
人が育ち、利益を生み、その利益を人と会社の未来へ再投資する。
その好循環をつくることが、10年後も選ばれる「強い会社」につながると私たちは考えています。
次回は、「社員が育つ会社の共通点 ― 教育を『コスト』から『投資』へ変える ―」をテーマに、中小企業における人材育成について考えていきます。
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