「BCP(事業継続計画)」と「事業継続力強化計画」の違い
BCP(事業継続計画)
先の投稿記事で「BCP(事業継続計画)」について紹介しました。
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
*BCP:Business Continuity Planning
ここでは、BCPの中小企業版(簡易版とも言える)としての「事業継続力強化計画」について紹介します。
事業継続力強化計画
BCPは、1970年代にアメリカ・イギリスで事業を継続する1つの手段・手法として関心が高まってきたことで始まりました。実際にBCPが広まったのは、21世紀幕開け直後。2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロをきっかけとして、全世界の企業たちが事業継続の重要性を考えるようになりました。
日本でも政府の働きかけもあり、大企業を中心にBCPの策定が進められましたが、中小企業への広がりはごくわずかでした。
一方、頻発する地震や洪水などで被害を受ける工場などの各種の施設が被害を受け、被害を受けた企業だけでなく、その製品等を使用する企業も部品や資材が入らなくなり生産が止まり、事業活動に影響がでています。
そのため大企業だけでなく中小企業でも「BCP」を策定する必要がありますが、大企業で策定されているBCPは広範囲にわたり、複雑であることもあり、中小企業には人的資源、時間の面で策定が難しいのが現実です。
政府は中小企業でも策定が容易で効果が期待できる「事業継続力強化計画」の認定制度をスタートさせました。
2019年(令和元年)7月に「中小企業強靭化法」が施行され、その中に組み込まれました。
事業継続計画の記載項目
事業継続力継続計画には次に示す内容を記載し、「GビズID」を使って「経済産業大臣(地方経済産業局)」に申請して認定を受けます。
(1)事業継続力強化に取り組む目的の明確化
・従業員、顧客などの人命を守る
・(事業を継続させ)就業員の雇用を守る
・供給責任を果たし、顧客からの信用を守る など
(2)災害リスクの確認・認識
・ハザードマップ等を活用して、自社拠点(事務所・工場等)の自然災害や感染症等に対するリスクを認識する
・認識したリスクに対して事業への影響を評価する(被害の想定)
*この時は「ヒト(人員)」「モノ(建物・設備・インフラ)」、「カネ(資金繰り)」「情報(事業運営に関するデータ)」の4つの切り口から検討を行なう
(3)初動対応の検討
・災害が発生した直後にまず何をすべきか、初動対応を検討する
*人命の安全確保
*緊急時に対応できる体制の構築
*被害状況の把握・共有 など
(4)ヒト・モノ・カネ・情報への対応
・(2)で認識した「ヒト・モノ・カネ・情報」への影響を踏まえ、事業を継続できる対策を検討する
*欠員が出ても柔軟に対応できるように従業員の多能化の推進
*事務所、工場等の耐震化
*金融機関などからの借入の検討(運転資金の確保)
(5)(災害発生を前提とした)平時の取組み
・計画の推進体制の明確化(経営層のコミットメント)
・訓練実施、計画の見直し等、取組の実効性を確保する取組
認定を受けた企業に対する支援策
認定を受けた企業は次に示す支援策を受けられます
・低利融資、信用保証枠の拡大等の金融支援
・防災・減災設備に対する税制措置
・補助金(ものづくり補助金等)の優先採択(加点)
・連携をいただける企業や地方自治体等からの支援措置
事業継続力強化計画とBCPの違い
(1)事業継続力強化計画は国から認定される
事業継続力強化計画は、中小企業強靭化法によって定められたもので、作成方法や計画書の記入項目(前述)が決められていて、自発的に申請し要件を満たすことによって、国から認定を受けることができます。
*BCP(事業継続計画)には現時点では認定制度はありません
(2)能力の強化が重視
計画策定という側面よりも企業の災害に関する「能力強化」が重視されています。すぐに行動に起こせる内容で高い実効性を持っています。
(3)シンプルな内容
中小企業では単一事業を行なうことが多く、大企業に比べ決めるべきことが少ないので、計画がシンプルになります。
ただし、見かけはシンプルですが、その内容は充分な検討が必要です。方向性を間違うと策定する意味がなくなります。
(4)高い実効性
事業継続力強化計画は、緊急事態発生時における「初動」としての内容や手順を考えることを重視しており、定期的な訓練や計画の見直しにも重点が置かれており、実効性を高めるものとなっています。
リスクは災害だけではない
先の投稿で示した中小企業の状況を示した図を再掲します。
これを見てわかるように「災害リスク」だけでなく、企業経営には様々なリスクが存在します。
まずは、大局的に「自社の状況」を把握して、今回示した「事業継続力強化計画」の手順で「リスク」を抽出し、抽出したリスクの重み付けを行なうことです。
中小企業は、経営資源に限りがあり、限られた資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を有効に使うことを考えることが必要です。
変化が激しい「VUCA(ブーカ)」の時代の中でも、「現状を把握」することが重要です。
*「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」
*1990年代後半にアメリカで軍事用語として発生、2010年代になってビジネスの業界でも使われています
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