「倒産・休業・廃業」特に休業について
倒産、休廃業ともに増加している
2025年4月に公表された「中小企業白書2025年」に示されている「倒産」「休廃業」の状況(推移)を示します。
倒産の状況
下図に倒産件数の推移を示します。
2009年(リーマンショック)以降、倒産件数は減少傾向でしたが、2021年を底に増加傾向に転じています。
コロナ禍中の「2020年・2021年」は。政府主導の金融支援策等で倒産件数は低く抑えられていましたが、金融支援終了後は増加しています。
直近は、「コロナ融資返済負荷」だけでなく、「人手不足」や「物価高」を要因とした倒産も増加しています。
休廃業の状況
休廃業・解散件数の推移を下図に示します。近年減少傾向でしたが、倒産と同様に2023年に増加傾向に転じています。
倒産と同じ要因に加え、後継者不在による影響もあります。
倒産・廃業・休業の内容を説明
本投稿では「倒産」「廃業」「休業」について説明します。
「倒産」の説明
倒産の定義
企業が債務超過または資金ショートによって、事業の履行が不可能になった状態。外部に対する支払不能(デフォルト)を含む、経営破綻の状態。
倒産の分類
倒産には「法的整理」と「私的整理」があります。
● 法的整理(裁判所の関与あり)
破産(会社破産):清算型。資産をすべて処分して債務を整理。会社は消滅。
民事再生:再建型。事業継続を前提に、再生計画に基づいて債務整理。
会社更生:大企業向け再建型手続。更生計画に基づく厳格な債務整理。
特別清算:会社清算の一形態。債務超過の可能性があるが、破産せず債権者と調整して処理。
● 私的整理(裁判所の関与なし)
任意整理:債権者との個別交渉による支払条件の変更など。
事業再生ADR:第三者機関が仲介する債権者との調整手続。
中小企業再生支援協議会スキーム:専門家による事業再生計画の作成支援。
「 廃業」の説明
廃業の定義
経営者の意思で自主的に事業を終了させること。必ずしも債務不履行や破綻とは限らない。
廃業の特徴
・財務上の問題がなくても可能(例えば、後継者不在、健康上の理由、引退など)
・会社形態の場合は清算手続が必要
廃業の分類
・通常清算:負債なしで、法人を解散・清算する手続
・特別清算:負債がある場合の清算手続(上記の倒産にも該当)
「 休業」の説明
休業の定義
「法人」を残したまま、事業を一時的に中断すること。将来的に再開の意思がある場合。
休業の特徴
・明確な「再開の意思」がある
・資金繰りや病気、経営環境の変化など一時的理由で実施
・税務署・市区町村などに「休業届」等を提出する必要がある
・法人税・消費税の申告義務が続くことに注意(収益ゼロでも)
「休業」について更に詳しく説明
ここでは、これまであまり説明してこなかった「休業」について更に詳しく説明します。
法人の「休業」は、会社を解散せず、事業活動を一時的に停止する状態です。倒産や廃業とは異なり、将来的に事業を再開する意思がある場合に選択されます。ただし、法人格は維持されるため、税務・法務・社会保険などの対応が必要です。
以下に詳細を体系的にご説明します。
1 届出・手続き関係
(1) 税務署(国税)
法人税等の「休業届」提出は不要
ただし、以下の手続きを行うとよい:
・法人税の確定申告書に「休業中」の旨を記載
・所轄税務署に対して口頭または任意様式での休業通知
法人税・消費税の申告義務あり(収益ゼロでも)
・法人税確定申告書(別表一など)を提出(※休業中と記載)
・消費税課税事業者であれば、売上ゼロでも申告義務あり
(2) 法務局(登記関係)
「休業の登記」という制度は存在しない
・会社は通常通り存続していると見なされる
・役員変更などがある場合は、通常どおり登記義務あり
(3)都道府県税事務所・市区町村役所(地方税)
法人住民税の均等割の納付義務あり
・利益が出ていなくても、休業中でも課税
*会社規模・資本金等に応じて年間約5〜7万円
法人事業税は、事業収入がなければ非課税
(4) 社会保険事務所(年金事務所・ハローワーク)
役員報酬の支払いがゼロになれば社会保険脱退可能
・休業期間中に役員報酬を支払わない場合は、社会保険(厚生年金・健康保険)脱退可
・雇用保険に加入している社員がいなければ、ハローワークにも休業の届出を
2 税務上の取扱い
法人税・消費税
・上述のとおり、売上ゼロでも「確定申告義務」は存続
・e-Taxでゼロ申告(別表一の記載)のみでも対応可能
繰越欠損金
・欠損金の繰越期間(最大10年間)は、休業中も進行する
・繰越期間中に復活して利益が出なければ控除不可に
・長期休業を検討する際には留意
3 休業中に「してよいこと」「してはいけないこと」
してはいけないこと(=営業活動に該当する行為)
・商品の販売・仕入れ
・新規契約の締結・請求書発行
・請負業務の実施
・給与・報酬の支払い(社会保険義務が発生)
してもよいこと
・固定資産の保守・管理
・既存契約の終了手続
・官公署への届出・書類提出
・株主総会、定款変更など内部手続き
4 休業中に「しなければならないこと」
・法人税申告:年1回の確定申告(利益ゼロでも)
・消費税申告:課税事業者であれば義務
・法人住民税:均等割の納付義務あり
・定期株主総会:形式上実施が必要(省略も可能だが議事録は作成)
・法定調書の提出:役員報酬があれば提出必要
5 休業からの再開手続き
法務局への手続き
・特に「再開の登記」は不要(そもそも休業登記が存在しないため)
税務署への手続き
・通常は、確定申告で収益発生を申告すれば実質再開
・必要に応じて「事業再開届(任意)」を提出
地方自治体への手続き
・法人住民税や事業税において自動的に再課税対象
社会保険の手続き
・役員報酬や従業員給与の再開に合わせて再加入
6 実務上の注意点
・繰越欠損金の有効活用を見据えて、長期休業は注意
・登記上の「みなし解散」回避
→ 最後の登記から12年放置すると法務局から「みなし解散」公告が出る
・会計処理は簡略化しても記録は必要
「休業」を含めて事業の停止に関してお問い合わせください。