事業再生コンサル(3)金融機関との対話力
~数字ではなく「納得」をつくる仕事~
事業再生を進めるうえで、避けて通れないのが金融機関との関係です。
資金繰りが厳しくなり、借入金を約定どおり返済することが難しくなれば、返済条件の変更、いわゆる「リスケジュール(リスケ)」を金融機関に相談することがあります。
このとき経営者から、「銀行と、どのように交渉すればいいでしょうか」と聞かれることがあります。
しかし、私は事業再生における金融機関対応を、単なる「交渉」と考えるべきではないと思っています。
なぜなら、金融機関を言い負かしたり、強く要求したりして返済を待ってもらうことが目的ではないからです。
必要なのは、
「なぜ会社が悪くなったのか」
「どうすれば改善できるのか」
「その結果、将来どの程度返済できるのか」
を説明し、金融機関に納得してもらうことです。
つまり、事業再生コンサルタントに求められるのは「交渉力」というより、金融機関との「対話力」と「説明力」なのです。
リスケは「返済をしなくてよくなる制度」ではない
リスケについて、時々誤解があります。
「資金繰りが苦しいから銀行に返済を止めてもらえばよい」というものです。
しかし、当然ながら金融機関にとって貸付金は大切な債権です。
例えば、毎月300万円の元金返済を一定期間停止すれば、会社の資金繰りには大きな余裕が生まれます。
しかし、それだけでは会社そのものが改善したわけではありません。
仮に1年間返済を止めても、その間に収益構造が変わらなければ、返済再開と同時に再び資金繰りが苦しくなります。
したがって、リスケの本当の目的は、単なる返済負担の軽減ではありません。
返済を猶予してもらった時間を使って、会社を立て直すことです。
私は、この点を経営者と最初に共有することが非常に重要だと考えています。
金融機関が最初に知りたい「なぜ悪くなったのか」
金融機関への説明で、最初に必要なのが経営悪化の原因です。
・売上が減った。
・利益が出なくなった。
・資金繰りが苦しくなった。
これだけでは説明として十分ではありません。
・なぜ売上が減ったのか。
・なぜ利益率が低下したのか。
・なぜ借入金が増えたのか。
・なぜ資金不足になるまで対策できなかったのか。
その原因を具体的に説明する必要があります。
例えば、
・主要取引先への依存度が高く、受注減少の影響を大きく受けた。
・原材料価格が上昇したにもかかわらず価格転嫁が遅れた。
・過大な設備投資によって借入金返済負担が増加した。
・不採算取引を売上確保のために継続していた。
このように原因を具体化していきます。
ここで重要なのは、外部環境だけを原因にしないことです。
「コロナの影響です」
「物価高です」
「人手不足です」
もちろん、それらも重要な要因です。
しかし、同じ環境でも経営を維持できている企業があります。
したがって、外部環境だけでなく、自社の経営上の問題を認識し、それを金融機関に正直に説明することが、信頼関係をつくる第一歩になります。
次に必要なのは「改善できる根拠」
原因を説明しただけでは、金融機関は支援を判断できません。
次に必要なのが、「本当に改善できるのか」という根拠です。
例えば、
・不採算取引から撤退する。
・販売価格を改定する。
・外注費を削減する。
・遊休資産を売却する。
・新規顧客を開拓する。
・生産工程を見直して生産性を上げる。
・固定費を削減する。
こうした改善策を示します。
ただし、「売上を10%増やす」「経費を削減する」と計画書に書くだけでは十分ではありません。
重要なのは、「なぜ、それが実現できるのか」です。
・すでに価格改定について主要顧客の了承を得ている。
・不採算事業からの撤退を決定している。
・新規取引先との商談が具体的に進んでいる。
・人員配置の見直しを実施している。
こうした具体的な事実があれば、改善計画の実現可能性は高まります。
事業再生コンサルタントには、経営者が考えている改善策を整理し、金融機関が理解できる形に「翻訳する力」も求められます。
そして金融機関が最も知りたい「返済できる根拠」
金融機関にとって最終的に重要なのは、「この会社は将来、借入金を返済できるのか」ということです。
そこで重要になるのが、損益計画と資金繰り計画です。
・売上はいくらになるのか。
・粗利益はいくら確保できるのか。
・経費はいくら必要なのか。
・最終的にどれだけのキャッシュを生み出せるのか。
・そのキャッシュの中から、年間どの程度を借入金返済に回せるのか。
これを数字で示します。
しかし、ここでも重要なのは、数字そのものではありません。
例えば「3年後には営業利益3,000万円」と書くことは簡単です。
金融機関が知りたいのは、「なぜ3,000万円になるのですか」ということです。
つまり、数字の裏側にある根拠が必要なのです。
経営改善計画とは、単なる数値目標を並べた資料ではありません。
「原因→改善策→行動→数値→返済」というストーリーを示すものなのです。
経営改善計画は金融機関に提出して終わりではない
もう一つ重要なのが、計画策定後のモニタリングです。
事業再生では、計画どおりに進まないことも珍しくありません。
・売上が計画を下回る。
・原材料価格が上昇する。
・予定していた取引が開始されない。
・社員が退職する。
さまざまなことが起こります。
そのため、毎月あるいは一定期間ごとに、「計画と実績はどう違ったのか」を確認しなければなりません。
そして、差異が発生した原因を分析し、必要であれば改善策や計画そのものを修正します。
金融機関に対しても、良い数字だけを報告するのではなく、悪い数字が出た場合には、その原因と対応策を説明する。
こうした継続的な情報開示が信頼につながります。
複数の金融機関をどうまとめるか
事業再生では、複数の金融機関から借入をしている企業も多くあります。
メイン銀行、地方銀行、信用金庫、日本政策金融公庫、商工中金、信用保証協会など、立場の異なる関係者が存在するケースもあります。
その場合、一つの金融機関だけと話を進めればよいわけではありません。
各金融機関に同じ情報を提供し、会社の現状、再生方針、改善計画について共通認識をつくる必要があります。
特定の金融機関だけを優遇していると受け取られれば、金融機関同士の調整が難しくなる場合もあります。
だからこそ事業再生コンサルタントには、会社と金融機関の間だけでなく、金融機関相互の関係も意識しながら調整する能力が必要になります。
金融機関との信頼関係は一度ではつくれない
金融機関との信頼関係は、立派な経営改善計画を一度提出しただけでは生まれません。
重要なのは、その後です。
・約束した資料を期限までに提出する。
・月次試算表を早期に作成する。
・計画と実績の差を説明する。
・問題が発生したら早めに報告する。
・経営者自身が改善策を実行する。
こうした当たり前のことを積み重ねることで、金融機関の見方は変わっていきます。
逆に、都合の悪い情報を隠したり、説明する数字がその都度変わったりすれば、信頼は失われます。
事業再生では、金融機関から、「この会社なら支援を続けてもよい」と思ってもらえる関係をつくることが重要です。
事業再生コンサルタントは「通訳者」であり「橋渡し役」
経営者と金融機関では、同じ会社を見ていても視点が違います。
経営者は、
「会社を何とか残したい」
「従業員を守りたい」
「もう少し時間があれば改善できる」
と考えます。
一方、金融機関は、
「改善策に実現可能性があるのか」
「資金繰りは維持できるのか」
「将来返済できるのか」
を見ています。
この二つの視点をつなぐことも、事業再生コンサルタントの重要な役割です。
経営者の思いを数字と計画に変える。金融機関の質問を経営者が理解できる言葉に変える。
そして双方が同じ再生計画を見ながら、「この方向なら会社を立て直せる」という共通認識をつくっていく。
私は、これこそが事業再生における「金融機関との対話力」だと考えています。
事業再生で必要なのは、銀行との交渉に「勝つ」ことではありません。
金融機関に会社の現状と再生への道筋を理解してもらい、「納得」をつくること。
そして、その納得を継続的な信頼関係へ変えていくことです。
そのためには、財務の知識だけでなく、経営を理解する力、計画をつくる力、分かりやすく説明する力、そして経営者と金融機関双方との信頼関係を築く力が必要になります。
これも、事業再生コンサルタントに求められる重要な「専門力」の一つです。
次回予告
次回は、「事業再生は一人ではできない ~専門家チームで企業を支える時代へ~」をテーマに、税理士、弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士、M&A専門家などとの連携と、事業再生コンサルタントがチームの中で果たすべき役割について考えていきます。
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