(分岐点シリーズ第3回)「まだ大丈夫」が一番危ない理由
― 経営判断を先送りする企業の共通点 ―
前回までの記事では、赤字や借入といった財務構造の観点から、企業の再生可能性について整理しました。
第1回では「赤字3期の意味」、
第2回では「借入の構造」を取り上げました。
いずれの記事でも共通しているのは、
企業の状態は数字を分析することでかなりの部分が見えてくるという点です。
しかし、実際の現場では、数字以上に大きな問題があります。
それは、
経営判断の先送りです。
多くの企業が、本来判断すべきタイミングで決断できず、結果として選択肢を失っていきます。
今回は、この「判断の先送り」がなぜ起きるのか、そしてそれがどのような結果を招くのかを整理します。
なぜ経営者は判断を先送りしてしまうのか
企業の経営は、常に不確実性の中で行われます。
市場環境、原材料価格、人材不足、金融環境など、さまざまな要因が影響します。そのため、短期的な業績悪化が起きた場合、多くの経営者は次のように考えます。
・来期には回復するかもしれない
・大型案件が決まれば状況は変わる
・設備投資の効果が出るのはこれからだ
こうした期待は、決して不合理ではありません。
しかし、問題は「期待」と「現実」の区別が曖昧になることです。
企業の業績が悪化している場合でも、経営者は自分の会社をよく知っています。だからこそ、
「うちの会社はまだ大丈夫だ」
と考えてしまうのです。
この心理は、経営者として自然なものです。しかし、判断を遅らせる要因にもなります。
経営判断を難しくする3つの要因
経営判断の先送りは、単なる楽観ではありません。多くの場合、次の3つの要因が関係しています。
(1)情報の非対称性
企業の経営状況を最も詳しく知っているのは、経営者自身です。
そのため、外部から見ると危険な状態でも、経営者の視点では「まだ打てる手がある」と感じられることがあります。
しかし、問題は、その判断が客観的な分析に基づいていない場合です。
数字を体系的に整理せず、感覚で判断してしまうと、実際の危険度を見誤る可能性があります。
(2)社内外への影響
経営判断は、単なる数字の問題ではありません。
例えば、
・従業員の雇用
・取引先との関係
・金融機関との関係
・家族の生活
など、多くの人に影響します。
そのため、経営者は次のように考えることがあります。
・今決断すると従業員に不安を与える
・銀行に弱い会社だと思われる
・取引先に悪い影響が出る
このような心理が働くと、決断はさらに難しくなります。
(3)判断材料が整理されていない
もう一つの大きな理由は、判断材料が整理されていないことです。
企業が厳しい状況にあるとき、本来検討すべき選択肢は複数あります。
・再生(経営改善)
・M&A(事業売却)
・廃業
しかし、多くの企業では、これらを同時に比較することがありません。
再生を前提として検討する、あるいは廃業を前提として考えるなど、選択肢が最初から限定されてしまいます。
この状態では、合理的な判断は難しくなります。
判断を先送りした企業に起きること
経営判断を先送りすると、企業の状況は徐々に変化します。
典型的な流れは次の通りです。
最初は業績悪化です。赤字が続き、資金繰りが厳しくなります。
次に、金融機関との関係が変化します。追加融資が難しくなり、返済条件の変更を検討する段階に入ります。
さらに状況が進むと、資金調達の選択肢が狭まります。
最終的には、時間的余裕がなくなった状態で判断を迫られることになります。
この段階では、選択肢は大きく制限されます。
本来であれば再生できた企業でも、タイミングを逃すことで難しくなるケースは少なくありません。
「分岐点」は静かに訪れる
企業経営において、状況が劇的に変化する瞬間はそれほど多くありません。
多くの場合、変化は徐々に進みます。
・売上が少しずつ減る
・利益率が下がる
・借入が増える
・資金繰りが厳しくなる
このような変化は、日々の業務の中では見えにくいものです。
しかし、ある時点を境に、企業は大きな分岐点に立ちます。
その分岐点とは「今後の方向性を決めなければならない時期」です。
出口戦略という考え方
こうした状況で重要になるのが、出口戦略の視点です。
出口戦略とは、
再生・M&A・廃業を別々に考えるのではなく、同時に比較するという発想です。
例えば、
再生を選ぶ場合:どの程度の期間で黒字化できるのか。
M&Aを選ぶ場合:企業価値はどの程度見込めるのか。
廃業を選ぶ場合:保証人の負担はどうなるのか。
これらを並べて整理することで、初めて合理的な判断が可能になります。
判断のタイミングが最も重要
経営判断において、最も重要なのはタイミングです。
判断が早すぎることよりも、遅すぎることの方がリスクは大きいと言えます。
選択肢が多い段階で検討するのか、選択肢が限られた段階で決断するのか。
その違いは、企業の将来を大きく左右します。
当社の立ち位置
私たちは、
再生を前提に相談を受けるわけでも、
M&Aを勧めるわけでも、
廃業を提案するわけでもありません。
まず行うのは、
・財務構造の整理
・事業構造の分析
・選択肢の比較
です。
その上で、企業ごとに最も合理的な選択肢を検討します。
最後に
「まだ大丈夫」という感覚は、経営者にとって自然なものです。
しかし、その感覚だけで判断することは危険です。
企業の状況を客観的に整理し、選択肢を比較することで、初めて適切な判断が可能になります。
分岐点は、ある日突然訪れるものではありません。
静かに近づいてきます。
そのときに備え、早い段階で状況を整理することが、企業の将来を守ることにつながります。
次回は、
「売れる会社と売れない会社の決定的な違い」
というテーマで、M&Aの観点から企業価値について整理します。
「分岐点シリーズ」バックナンバー
(1)「赤字が3期続いた会社は、まだ再生できるのか?」はこちら
(2)「借入が多い会社は、本当に再生できないのか?」はこちら
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