事業再生コンサル(4)事業再生は一人ではできない
専門家チームで企業を支える時代へ
事業再生コンサルタントに求められる専門力について、これまで3回にわたり紹介してきました。
第1回では、事業再生は単に倒産を防ぐだけでなく、企業の未来をつくる仕事であること。
第2回では、財務分析だけでは会社を再生できず、ビジネスモデル、営業、人材、組織など、経営全体を見る力が必要であること。
第3回では、金融機関との関係において重要なのは、交渉に勝つことではなく、再生への道筋を説明し、納得と信頼をつくることであることをお伝えしました。
そして今回のテーマは、「事業再生は一人ではできない」ということです。
事業再生には、財務、税務、法務、労務、金融、営業、組織、M&Aなど、多岐にわたる専門知識が必要です。
しかし、これらすべてに精通し、実務まで対応できる専門家はほとんどいません。
だからこそ、これからの事業再生コンサルタントには、自分自身の専門能力だけでなく、必要な専門家を集め、チームとして企業を支援する能力が求められます。
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(1)「事業再生コンサルが、今、求められている理由」はこちら
事業再生の現場では、複数の問題が同時に発生する
例えば、資金繰りが厳しくなった製造業の会社を考えてみましょう。
金融機関への返済が難しくなり、リスケジュールを検討しています。
しかし、会社の問題は借入金だけではありません。
売上が減少し、利益率も低下している。設備は老朽化し、生産性が上がらない。従業員の高齢化が進み、若手社員も採用できない。
さらに、社会保険料や税金の支払いが遅れ、経営者個人の保証債務も問題になっています。
こうした状況で、財務分析と経営改善計画の作成だけを行っても、会社の再生は困難です。
税務、労務、法務、金融、生産改善、営業など、それぞれの問題に対応する必要があります。
しかも、これらの問題は互いに関連しています。
人員削減を検討すれば、労務問題が発生します。
事業を売却しようとすれば、税務や法務の問題が生じます。
金融機関への返済条件を変更する場合には、資金繰りだけでなく、将来の収益計画や事業の継続可能性も説明しなければなりません。
つまり、事業再生では、一つの問題を解決するために、別の専門分野の判断が必要になるのです。
税理士は財務・税務の重要なパートナー
事業再生において、税理士は欠かせない存在です。
決算書や試算表の分析、税務上の問題の整理、資産・負債の確認、税負担の検討など、幅広い役割があります。
特に事業再生では、帳簿上の数字と実際の資産価値が異なることも珍しくありません。
回収できない売掛金、長期間動いていない在庫、実際には価値が低下している設備などを確認し、会社の財務実態を把握する必要があります。
また、債務免除や事業譲渡、会社清算などを検討する場合には、税務上の影響も重要になります。
ただし、税理士の専門性を生かすためには、事業再生コンサルタントが経営全体の課題を整理し、必要な検討事項を共有することが重要です。
社会保険労務士は「人と組織」を支える
事業再生では、人件費の見直しが必要になることがあります。
しかし、人件費は単なる経費ではありません。
会社を動かしているのは従業員であり、人材を失えば事業の継続そのものが難しくなる場合もあります。
社会保険労務士には、雇用契約、労働条件、就業規則、賃金制度、社会保険、労務リスクなどについて専門的な助言を求めます。
特に、配置転換や労働条件の変更、人員削減などを検討する場合には、法令を踏まえた慎重な対応が必要です。
事業再生では、単に人件費を削減するのではなく、必要な人材を維持しながら、生産性の高い組織へ変えていくことが重要です。
行政書士は許認可・行政手続きの専門家
行政書士も、事業再生の場面で重要な役割を担います。
建設業、運送業、産業廃棄物処理業、介護事業など、許認可が事業継続の前提となる業種では、事業再生に伴う許認可上の問題を確認しなければなりません。
例えば、M&Aや事業譲渡を行う場合、許認可をそのまま引き継げるとは限りません。
事業形態の変更、役員の変更、事業所の移転などについても、必要な行政手続きの確認が求められます。
また、外国人材を雇用している企業では、在留資格や受入体制の確認も必要になります。
行政書士には、こうした行政手続きや許認可の専門家としての役割が期待されます。
なお、金融機関との債務整理交渉や法律紛争への対応など、弁護士の業務に属する事項については、適切な役割分担が必要です。
弁護士は法的リスクと権利関係を整理する
経営危機が深刻化すると、法的な問題が増えてきます。
金融機関との債務整理、経営者保証、取引先との契約問題、債権回収、担保権、事業譲渡などです。
場合によっては、私的整理だけでなく、民事再生や破産などの法的整理を検討する必要もあります。
こうした局面では、弁護士との連携が不可欠です。
特に、事業再生を進めるのか、事業を第三者に引き継ぐのか、あるいは廃業を選択するのかという判断では、経営面と法律面の両方から検討する必要があります。
事業再生コンサルタントは、法的な問題を自ら抱え込むのではなく、早い段階で弁護士と連携することが重要です。
中小企業診断士は経営改善の専門家
中小企業診断士は、経営診断、事業計画、営業戦略、生産性向上、組織改善など、幅広い経営課題に対応できる専門家です。
事業再生では、財務の立て直しだけでなく、本業の収益力を回復させる必要があります。
そのため、市場分析、商品・サービスの見直し、営業体制の改善、生産工程の改革など、経営改善に関する専門的な支援が重要になります。
中小企業診断士の中には、事業再生を専門とする方も多くいます。
資格の違いによって役割を固定するのではなく、それぞれの専門家が持つ実務経験と得意分野を生かすことが大切です。
M&A専門家・スポンサーとの連携も重要
事業再生では、必ずしも現在の経営者が会社を再建し続けることが最善とは限りません。
後継者がいない場合や、財務負担が大きく自力再生が難しい場合には、M&Aによる事業承継やスポンサー支援が有効な選択肢となります。
M&A専門家には、企業価値の評価、譲受候補先の探索、条件調整、取引実行の支援などが求められます。
スポンサー企業には、資金面の支援だけでなく、営業基盤、人材、技術、経営管理などの面での支援も期待できます。
ただし、M&Aは成立させること自体が目的ではありません。
従業員の雇用、取引先との関係、事業の継続性などを含め、関係者にとって望ましい選択になるかを判断する必要があります。
金融機関と中小企業活性化協議会の役割
事業再生において、金融機関は単なる資金の貸し手ではありません。
返済条件の変更や新たな資金支援などを通じて、企業の再生を支える重要な関係者です。
そのため、事業再生コンサルタントには、金融機関と継続的に情報を共有し、経営改善の進捗を説明する役割があります。
また、各都道府県に設置されている「中小企業活性化協議会」も、重要な支援機関です。
同協議会では、中小企業の収益力改善、経営改善、事業再生、再チャレンジなどに関する相談や支援を行っています。
複数の金融機関が関係する案件では、こうした公的な支援機関を活用することも有効です。
なお、専門家への支援費用については、案件の要件に応じて公的な支援制度を活用できる場合もあります。
専門家を集めるだけではチームにならない
ここまで、事業再生に関わる専門家の役割を紹介しました。
しかし、専門家が何人集まっても、それだけでは事業再生は進みません。
それぞれが自分の専門分野だけを見て、別々に助言しているだけでは、経営者が判断に迷ってしまうこともあります。
重要なのは、全員が同じ再生方針を共有することです。
そのためには、まず事業再生コンサルタントが会社の現状と課題を整理し、再生の方向性を明確にする必要があります。
そのうえで、各専門家の役割と責任を決め、必要な情報を共有し、進捗を管理します。
例えば、税理士が財務実態を整理し、中小企業診断士が本業改善を支援し、社会保険労務士が労務面を検討する。
弁護士が法的リスクを確認し、必要に応じてM&A専門家が事業承継の可能性を検討する。
そして、これらを一つの経営改善計画にまとめ、経営者とともに実行していく。
専門家を紹介することと、専門家チームを機能させることは、まったく別の能力なのです。
事業パートナー九州が大切にしていること
私たち事業パートナー九州でも、事業再生を一人の専門家だけで進めることは考えていません。
事業パートナーグループのネットワークを活用し、案件の内容に応じて、それぞれの分野に強みを持つ専門家と連携することを重視しています。
例えば、財務分析や経営改善計画の策定に強い専門家、金融機関対応に経験のある専門家、事業の収益改善に強い専門家など、必要な能力は案件によって異なります。
また、税理士、弁護士、社会保険労務士などの外部専門家との連携も重要です。
私たちが目指しているのは、特定の専門家がすべてを解決することではありません。
企業の課題に応じて最適な支援体制を組み、経営者とともに問題解決を進めることです。
事業再生では、計画を作成するだけでなく、その後の実行支援が重要になります。
計画と実績を比較し、問題が発生すれば対応策を検討する。
金融機関への説明が必要であれば、適切な資料を準備する。
経営者だけでは判断が難しい問題については、専門家の知見を集めて方向性を整理する。
こうした継続的な支援こそが、事業再生の成果につながると考えています。
これからの事業再生コンサルタントに必要な「チームを動かす力」
これからの事業再生コンサルタントに求められるのは、自分一人で何でもできる能力ではありません。
もちろん、財務や経営に関する基本的な専門知識は必要です。
しかし、それ以上に重要なのは、自分の専門性と限界を理解し、必要な専門家と協力できることです。
そして、専門家それぞれの意見を整理し、経営者が判断できる形にまとめ、実行につなげることです。
事業再生は、専門家が主役になる仕事ではありません。
主役は、あくまでも経営者と企業です。
私たち専門家は、その企業が再び自分の力で歩んでいけるように支援する存在です。
そのためには、専門知識だけでなく、チームをまとめる力、関係者との調整力、そして経営者から信頼される人間力が求められます。
「一人で何でもできるコンサルタント」ではなく、「必要な専門家を結集し、企業を再生へ導くコンサルタント」。
これこそが、これからの事業再生コンサルタントに求められる姿だと考えています。
次回予告
次回はいよいよ最終回です。
第5回「事業再生コンサルタントに最も必要なのは『覚悟』と『人間力』」
~最後まで経営者に寄り添える専門家とは~
事業再生の現場では、数字や計画だけでは解決できない問題が数多くあります。
経営者の孤独、不安、従業員への責任、金融機関との関係、そして事業継続か廃業かという厳しい判断。
そうした場面で、事業再生コンサルタントはどのような姿勢で経営者と向き合うべきなのか。
これまでのシリーズを締めくくるテーマとして、事業再生の現場で求められる「覚悟」と「人間力」について考えていきます。
お知らせ
当社、(株)事業パートナー九州では、いっしょに事業再生等に取り組んで頂く、各士業の方々、経営コンサルタントを集めています。「事業再生の連携」にご興味がある方はご連絡ください。
事業再生・M&A・廃業等の出口戦略相談、コンサル案件の連携の相談、お気軽にお問い合わせください。
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