事業再生コンサル(5:最終回)最も必要なのは「覚悟」と「人間力」
最後まで経営者に寄り添える専門家とは
事業再生コンサルタントに求められる専門力について、これまで4回にわたり考えてきました。
第1回では、事業再生の専門家が求められる背景と役割、第2回では経営全体を見る力、第3回では金融機関との対話力、第4回では専門家チームによる支援の重要性を取り上げました。
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(1)「事業再生コンサルが、今、求められている理由」はこちら
いずれも事業再生に携わる専門家には欠かせない能力です。
しかし、実際に事業再生や廃業の現場に関わっていると、専門知識や経験だけでは対応できない場面に何度も直面します。
経営者の苦悩、不安、孤独、そして会社を続けるか、やめるかという厳しい判断。
こうした場面で、事業再生コンサルタントに最も必要になるのは、「覚悟」と「人間力」ではないかと考えています。
最終回では、事業再生に携わる専門家の姿勢について考えます。
倒産相談の現場で経営者が抱えているもの
事業再生や廃業の相談に来られる経営者は、単に資金繰りの問題だけを抱えているわけではありません。
金融機関への返済ができない。
仕入先への支払いが遅れている。
従業員の給与を支払えるか分からない。
税金や社会保険料の滞納が増えている。
こうした問題が重なると、経営者は日々、強い精神的な負担を感じるようになります。
さらに、多くの中小企業では、会社の借入金について経営者個人が保証している場合があります。
会社が倒産すれば、自宅や家族の生活はどうなるのか。
長年一緒に働いてきた従業員に、どう説明すればよいのか。
取引先に迷惑をかけることになるのではないか。
こうした不安を抱えながらも、経営者は毎日会社に出勤し、何事もないように仕事を続けていることがあります。
事業再生コンサルタントが最初に理解すべきなのは、経営者が置かれている、この厳しい現実だと思います。
経営者は想像以上に孤独である
中小企業の経営者は、会社の最終的な責任を負っています。
経営が順調なときには、従業員や取引先、金融機関など、多くの人が周囲にいます。
しかし、経営が悪化すると、状況は変わります。
従業員には会社の苦しい状況を十分に説明できない。
家族に心配をかけたくない。
金融機関には資金繰りの悪化を知られたくない。
取引先には信用不安を与えたくない。
その結果、誰にも本当のことを相談できず、一人で問題を抱え込んでしまう経営者もいます。
私は、事業再生コンサルタントの重要な役割の一つは、経営者が安心して本音を話せる相手になることだと考えています。
もちろん、専門家として客観的な判断は必要です。
しかし、最初から数字や問題点だけを指摘しても、経営者が心を開いてくれるとは限りません。
まず話を聞くこと。
これまでの経営の経緯を理解すること。
経営者が何を守りたいと考えているのかを知ること。
こうした姿勢が、信頼関係をつくる出発点になります。
精神的な支援も事業再生の一部である
事業再生では、経営改善計画を策定し、金融機関との調整を進めることが重要です。
しかし、どれほど優れた計画を作成しても、経営者自身が精神的に追い詰められ、判断や行動ができなくなってしまえば、改善は進みません。
特に、資金繰りが厳しい会社では、毎月の支払いに追われ、将来を考える余裕を失っている場合があります。
そのようなときには、まず問題を整理することが必要です。
今すぐ対応しなければならないこと。
今月中に判断すべきこと。
金融機関や専門家に相談できること。
少し時間をかけて検討できること。
これらを一つずつ整理するだけでも、経営者の負担が軽くなることがあります。
また、すべての問題を経営者一人で解決する必要はないと伝えることも重要です。
税務は税理士、法的問題は弁護士、労務は社会保険労務士など、必要な専門家と役割を分担することで、経営者が本来取り組むべき経営判断に集中できる環境をつくります。
事業再生コンサルタントは、医療や心理の専門家ではありません。
しかし、経営者の不安を受け止め、問題を整理し、必要な支援につなぐことはできます。
厳しい現実を伝える勇気も必要
経営者に寄り添うことは、経営者の希望をすべて肯定することではありません。
事業再生の現場では、ときとして厳しい判断が必要になります。
「この事業を続けても、赤字が拡大する可能性が高い」
「これ以上借入金を増やすことは危険である」
「現在の事業規模を維持することは難しい」
「会社の存続以外の選択肢も検討すべきである」
こうしたことを経営者に伝えなければならない場合があります。
長年育ててきた会社や事業を縮小することは、経営者にとって非常につらい決断です。
そのため、専門家としても厳しい話を避けたくなることがあります。
しかし、問題を先送りすれば、従業員や取引先、金融機関など、関係者への影響がさらに大きくなる可能性があります。
経営者に寄り添うことと、厳しい現実を伝えることは矛盾しません。
むしろ、本当に経営者の将来を考えるのであれば、希望的観測ではなく、事実に基づいた判断材料を示すことが必要です。
そして、厳しい現実を伝えた後も、経営者と一緒に次の道を考える。
そこに専門家としての「覚悟」が求められます。
会社を残すことだけが事業再生ではない
事業再生という言葉からは、経営改善によって会社を立て直し、事業を継続させることをイメージする方が多いと思います。
もちろん、自力で再生できるのであれば、それが望ましい選択肢の一つです。
しかし、すべての会社が自力で再生できるわけではありません。
事業そのものには価値があっても、過大な借入金によって経営継続が難しくなっている場合があります。
また、経営者が高齢で後継者がおらず、今後の事業継続が困難な場合もあります。
このようなときには、M&Aやスポンサー支援、第二会社方式、あるいは廃業など、幅広い選択肢を検討する必要があります。
重要なのは、会社という法人を残すことだけにこだわらないことです。
事業、従業員の雇用、取引先との関係、そして経営者自身の生活を、どのように守ることができるか。
この視点が必要だと考えています。
M&Aや第二会社方式も再生の選択肢になる
事業再生におけるM&Aは、単に会社を売却することではありません。
経営資源を持つ企業に事業を引き継いでもらうことで、従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性があります。
また、過大な債務を抱えている企業では、収益性のある事業を別会社に移し、事業の継続を図る第二会社方式が検討されることもあります。
ただし、第二会社方式は、単に借金を元の会社に残して事業だけを移せばよいというものではありません。
事業譲渡の対価、債権者の権利、保証債務、税務、許認可など、多くの問題があります。
債権者との調整や適切な法的手続きを含め、弁護士、税理士などの専門家と慎重に検討する必要があります。
大切なのは、制度や手法を先に決めることではありません。
企業の状況と関係者への影響を踏まえ、どの方法が最も適切なのかを判断することです。
廃業支援も重要な仕事である
私は、事業再生コンサルタントにとって、廃業支援も重要な仕事だと考えています。
廃業というと、経営に失敗した結果という印象を持たれることがあります。
しかし、現実には、経営者の高齢化、後継者不在、市場の縮小など、さまざまな理由によって事業継続が難しくなることがあります。
また、無理に事業を継続した結果、借入金や未払金が増え、関係者への影響が拡大する場合もあります。
そのようなとき、早い段階で廃業を決断することが、経営者や家族、従業員を守ることにつながる場合があります。
ただし、廃業は簡単ではありません。
従業員への対応、取引先との契約、設備や不動産の処分、金融機関への返済、税務申告、会社の解散・清算など、多くの課題があります。
債務をすべて返済できない場合には、さらに慎重な対応が必要です。
事業再生コンサルタントには、廃業を単なる「会社の終了」と捉えるのではなく、経営者と関係者が次の生活へ移行するための支援として考える姿勢が求められます。
経営者の再チャレンジまで見据える
会社を再生できなかったとしても、経営者の人生が終わるわけではありません。
事業を第三者に引き継いだ後、新たな仕事に就く方もいます。
これまでの経営経験を生かして、別の事業に取り組む方もいます。
また、会社を整理した後、家族との生活を大切にしながら、新しい人生を歩む方もいます。
経営者保証の問題などについても、状況に応じて利用可能な制度や整理方法を専門家と検討することが重要です。
私は、事業再生コンサルタントの仕事は、経営改善計画が完成した時点や、会社の整理方針が決まった時点で終わるものではないと思っています。
もちろん、すべての問題を一人の専門家が最後まで引き受けることはできません。
しかし、必要な専門家につなぎ、経営者が次の一歩を踏み出せるように支援することはできます。
会社の再生だけでなく、経営者自身の再出発まで見据えること。
これも事業再生に携わる専門家の重要な役割です。
最後まで伴走するということ
事業再生の仕事は、必ずしも成功が約束されているわけではありません。
経営改善計画を策定しても、予定どおりに売上が回復しないことがあります。
金融機関から期待した支援を得られない場合もあります。
M&Aを進めても、譲受先が見つからないこともあります。
そして、最終的に廃業という選択をせざるを得ない場合もあります。
こうしたときに、専門家としてどのような姿勢で経営者と向き合うのか。
私は、そこに事業再生コンサルタントの本当の価値が表れると考えています。
「計画を作成したから終わり」
「金融機関との調整が難しいから対応できない」
「再生できない会社だから支援する意味がない」
そのような姿勢では、経営者の信頼を得ることは難しいでしょう。
もちろん、専門家として対応できる範囲には限界があり、法的な問題などは適切な専門家に引き継ぐ必要があります。
それでも、厳しい状況にある経営者に対して、できる限りの選択肢を示し、次の道筋を一緒に考えることはできます。
最後まで伴走するとは、何でも引き受けることではありません。
経営者が困難な状況に直面しても、必要な支援を途切れさせず、解決への道筋をつなぐことだと考えています。
専門知識の先にある「人間力」
前のシリーズ「コンサルタント業界の転換期」では、最終回に「人間力が最大の競争力」というテーマを取り上げました。
AIの進歩によって、財務分析や情報収集、計画書の作成など、専門家の仕事の一部は大きく変わりつつあります。
事業再生の分野でも、AIやデジタル技術の活用は今後さらに進むでしょう。
しかし、経営者の不安を受け止め、厳しい現実を伝え、関係者の意見を調整し、難しい判断を支えることは、数字や資料だけでは完結しません。
そこには、相手の立場を理解する力、誠実さ、責任感、そして困難から逃げない姿勢が必要です。
もちろん、人間力だけで事業再生ができるわけではありません。
財務、経営、金融、法務などの専門知識と実務経験は不可欠です。
しかし、それらの能力を経営者のためにどう使うのかを決めるのは、専門家自身の姿勢です。
事業再生コンサルタントに求められる「覚悟」とは、必ず会社を再生させると約束することではありません。
現実から目をそらさず、経営者にとって最善の道を考え、必要な支援を続ける責任を引き受けることだと思います。
シリーズを終えるにあたって
今回のシリーズでは、事業再生コンサルタントに求められる専門力について、5回にわたり考えてきました。
事業再生の役割を理解すること。
財務だけでなく経営全体を見ること。
金融機関との対話によって納得と信頼をつくること。
専門家チームを組織し、改善を実行すること。
そして、経営者と向き合う覚悟と人間力を持つこと。
これらは、どれか一つがあればよいというものではありません。
すべてが結びついて、初めて事業再生の現場で役立つ力になります。
私たち事業パートナー九州も、経営改善、事業再生、M&A、廃業支援などを通じて、さまざまな経営者と向き合っています。
その中で改めて感じるのは、事業再生の対象は会社であっても、その中心にいるのは常に「人」だということです。
経営者が長年築いてきた会社。
そこで働く従業員。
会社を支えてきた取引先。
そして、経営者とその家族の生活。
こうした人々の将来に関わる仕事だからこそ、専門家には知識や技術だけでなく、覚悟と人間力が必要なのだと思います。
最後に、このシリーズを通じて最も伝えたかったことを、一つの言葉にまとめたいと思います。
事業再生は数字ではなく、人を支える仕事である。
お知らせ
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