廃業(3)自主廃業と法的整理の違い
会社の畳み方と選び方
会社の幕を引く方法には、大きく分けて「自主廃業」 と 「法的整理」 の2つがあります。
どちらを選ぶかで、
・手続き
・費用
・経営者(保証人)の負担
・取引先・従業員への影響
が大きく変わるため、早期に違いを理解することが重要です。
本稿では、2つの整理方法を、実務で使えるレベルで比較しながら、「どちらを選ぶべきか」の判断軸をわかりやすく整理します。
自主廃業(任意整理)とは何か
自分で“きれいに畳む”方法
自主廃業とは、倒産手続ではなく、会社が自らの意思で事業を終了し、債務・契約・従業員などをできる限り円満に整理して会社を畳む方法 です。
倒産ではないため、新聞公告や裁判所手続きが必要ありません。これが最大のメリットであり、経営者の心理的負担も大きく軽減されます。
■ 自主廃業の典型的な流れ
1 廃業の決断
2 取引先・従業員・金融機関へ事前説明
3 資産の売却・在庫整理
4 債務返済の計画立案
5 許認可返納・契約解除
6 解散・清算手続き
7 清算結了
株式会社事業パートナー九州の支援案件でも、多くは自主廃業でソフトランディングを行っています。
自主廃業のメリット
最も穏やかで「品のある」畳み方
1 取引先・従業員に迷惑をかけにくい
突然の取引停止や未払いを避けることができ、信頼を失わない。
2 信用情報に傷が付かない
倒産・破産と異なり、代表者個人の信用に影響が少ない。
3 関係者への説明がしやすい
計画的であれば、再就職支援や引継ぎも丁寧に進められる。
4 会社と経営者のイメージが守られる
地域社会や金融機関との関係が続くことも多い。
5 柔軟な進め方が可能
設備売却、契約解除のタイミング、従業員の再就職支援など、裁判所の縛りがないため柔軟に設計できる。
自主廃業のデメリット
資金が不足すると破綻リスクが高い
1 債務を全額返済する必要がある
銀行借入・買掛金を返済できなければ、途中で破産になる可能性がある。
2 社長個人の資産から返済する場面がある
経営者保証がある場合は、個人が返済義務を負う。
3 時間と労力がかかる
契約解除、従業員対応、許認可返納など、自主対応が多い。
4 整理の順番を誤るとトラブルが生じる
特に、従業員・金融機関・税務関係は先手で動く必要がある。
法的整理とは何か
裁判所の力を使い、負債を清算する方法
法的整理とは、倒産法に基づいて裁判所の手続きにより債務を整理する方法です。
代表的な手続きは以下の3つ:
| 手続き | 内容 | 結果 |
|---|---|---|
| ①法人破産 | 資産を清算し、債務免除を受ける | 会社消滅 |
| ②民事再生 | 債務の一部をカットして事業継続 | 会社存続 |
| ③会社更生 | 上場企業など大規模企業向け | 会社存続 |
多くの場合、中小企業の法的整理は 「法人破産」 です。
法的整理のメリット
「返せない」状態でも前に進める
1 負債の支払い義務がなくなる
法人破産の場合、会社としての借金はゼロになる。
2 返済不能でも整理できる
自主廃業では不可能な“資金が尽きた後”の整理が可能。
3 差押えや請求が止まる
裁判所の保護により、債権者の取り立ては停止する。
4 個人保証の整理が可能
代表者個人も破産することで、二重苦から解放される。
法的整理のデメリット
影響範囲は大きく、心理的負担も重い
1 信用情報に大きな傷が付く
代表者が個人破産した場合、7〜10年は金融取引が制限。
2 取引先・従業員への影響が大きい
突然の破綻となり、迷惑をかけやすい。
3 法務・税務の手続きが大量に発生
弁護士費用・裁判所費用などが必要。
4 社会的イメージが悪化しやすい
地域密着型の事業では大きな痛手になる。
自主廃業と法的整理の比較
どちらを選ぶべきかを一目で理解する表
| 比較項目 | 自主廃業 | 法的整理 |
|---|---|---|
| 債務の扱い | 全額返済が原則 | 免除・カットが可能 |
| 関係者への影響 | 小さい | 大きい |
| 信用情報 | 基本的に傷つかない | 大きく傷つく |
| 手続き期限 | 柔軟 | 法律により厳格 |
| 費用 | 比較的少ない | 弁護士費用など高額 |
| 経営者保証 | 個人返済が必要 | 個人破産で整理可能 |
| 従業員対応 | 十分に時間を取れる | 突然の解雇になりがち |
| M&A併用 | 可能 | 破産では困難 |
どちらの選択が正しいか ― 判断基準はこの5点
(1) 資金繰りの余力はあるか
3か月以上資金が持つなら、自主廃業を検討できる。
(2) 債務を返済できそうか
資産売却で返済の目途が立つなら自主廃業。
立たないなら法的整理の可能性が高い。
(3) 従業員への影響を最小限にしたいか
可能な限り迷惑をかけたくない場合は自主廃業。
(4) 社会的信用を保ちたいか
地域での信用・関係を守りたい場合は自主廃業。
(5) 経営者自身の再スタートをどうしたいか
・個人破産を避けたい → 自主廃業
・負債をゼロにして人生再出発 → 法的整理
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