M&Aトラブル(5)「保有権利の承継トラブル」
「それ、譲渡できません」
知的財産や許認可の承継トラブル
M&Aが成立した直後、こんな連絡が来ることがあります。
「この商標、前の社長個人の名義ですね」
「この業種、許認可が名義変更できないので、再取得が必要です」
「ライセンス契約は譲渡できないと規定されています」
こうした問題が起きると、M&A後に事業の一部、あるいは全部が停止するという事態にもつながりかねません。
私たちは、売手企業のM&A支援にあたる中で、こうした「承継できない資産」によるリスクを数多く目にしてきました。
本記事では、そのトラブル事例と、予防策をわかりやすく解説します。
■ なぜ「承継できない資産」がトラブルになるのか?
M&Aの対象は株式や事業ですが、実際に価値を生んでいるのは、その裏にある「知的財産」「許認可」「ライセンス」などのソフト資産です。
しかし、以下のような問題が起こりがちです:
・商標・ドメイン・特許などが法人名義でなく「個人名義」になっている
・許認可が法人固有のもので、名義変更が不可、もしくは再申請が必要
・使用しているソフトウェアやシステムが「譲渡不可契約」になっている
このような資産がM&A後に使用できない場合、買手側にとっては重大な損失になります。結果として、損害賠償請求や契約解除につながる可能性もあります。
■ 実際に起こったトラブル事例
・商標の名義が社長個人になっていた
社長の個人名義で登録されていた商標を、買手側が使用できず、再登録や交渉が必要に。
・許認可の名義が法人名でなく「前経営者個人」だった
介護・建設・産業廃棄物業などでは許認可が個人単位のことも多く、名義変更できず、再取得に数か月かかった。
・使用していた業務ソフトがライセンス譲渡不可
IT業や通販業などで、業務に欠かせないクラウドサービスが「第三者への譲渡禁止契約」となっており、買手が再契約を強いられた。
■ こうしたトラブルを防ぐには?
(1)M&A前の資産棚卸と名義確認
まずは、以下の項目について棚卸を行い、名義や契約状態を確認します。
・商標、特許、意匠、著作権
・ドメイン名、ブランドロゴ
・許認可(業種ごとの行政手続き)
・使用中のシステム・ソフトウェアの契約内容
特に「個人名義」や「更新期限が近いもの」には注意が必要です。
(2)承継に関する可否を事前にチェック
・各種許認可については、行政機関に名義変更が可能か・再取得が必要かを事前に確認します。
・契約書上で譲渡が制限されているものは、提供元企業に事前交渉し、同意書の取り付けや再契約を行う必要があります。
(3)デューデリジェンスでの開示徹底
買手側の法務・知財DDでトラブルが発覚する前に、売手側が自主的にリストアップし、誠実に情報開示することで信頼関係を築けます。
■ 見えない資産こそ、M&Aの価値を左右する
許認可や知的財産は、帳簿には載りにくいですが、実は「その企業の競争力や信用力を支える・見えない資産」です。承継の可否や名義管理を軽視すれば、M&A後に「肝心の事業ができない」という事態になりかねません。
私たちは、売手に寄り添うM&Aアドバイザーとして、こうした無形資産の承継リスクまで含めた全体設計を支援しています。
■ ご相談ください
「うちは特許や商標が多いけど、大丈夫だろうか?」
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