廃業(5)従業員・取引先に迷惑をかけない進め方
「廃業」は経営者にとって最も重い決断の一つです。赤字が続いたり、後継者がいなかったりしても、支えてきた従業員や取引先への思いを考えると、簡単には決断できません。
しかし、どれだけ丁寧に準備をしても、伝え方や順序を誤ると、長年築いた信頼関係が一瞬で崩れてしまうこともあります。
今回は、「関係者に迷惑をかけない廃業」 を実現するための具体的な進め方と注意点を、実務の流れに沿って整理します。
(1)なぜ「人への配慮」が最も重要なのか
廃業の現場で起こるトラブルの多くは、法的手続きよりも「人間関係」に起因します。特に、従業員への説明が遅れたり、取引先への連絡を後回しにしたりすると、「裏切られた」と感じさせてしまうことがあります。
経営者にとっては「やむを得ない判断」でも、相手にとっては「突然の通告」に聞こえます。そのギャップを埋めるのが、「誠実なタイミング」と「丁寧な説明」です。
廃業の目的が「迷惑をかけないこと」であれば、最初の一歩は“伝え方”から始まります。
(2)従業員への説明と対応
1.伝えるタイミングと順序
まず最初に説明すべき相手は「従業員」です。
廃業を正式に決めた時点で、遅くとも2か月前には伝えるのが理想です。特に、製造・サービス業のように引継ぎ期間が必要な業種では、早期の説明が欠かせません。
突然の通告は、従業員の生活を直撃します。
そのため、経営者自身が全員に対して誠実に説明する場を設け、「会社を支えてくれた感謝」と「今後への支援方針」を明確に伝えることが重要です。
2.退職・再就職支援
廃業時には、労働基準法に基づく手続きが必要です。
原則として30日前の解雇予告が必要であり、即時解雇の場合は平均賃金30日分の予告手当を支払う必要があります。
また、退職金や未払い残業代の精算も忘れてはいけません。支払いが難しい場合は、分割や補助制度の利用も検討できます。中小企業退職金共済(中退共)に加入している場合は、従業員の権利保護を優先しましょう。
ハローワークでは、経営者の申し出により「再就職支援窓口」を設けてくれるケースがあります。
また、自治体や商工会議所等が主催する「再就職支援セミナー」への参加を案内するのも効果的です。
「次の職場を一緒に探す姿勢」を見せることが、信頼の証となります。
3.感謝の伝え方と文書
退職者には「感謝状」や「お礼の手紙」を添えるなど、形式的でなくても誠意を伝える方法があります。
小さな心配りが、「最後まで良い会社だった」という印象を残します。
この心理的ケアが、後に新しい事業や地域活動を始める際にも大きな信頼資産となります。
(3)取引先への対応と信頼維持
1.優先順位をつけて連絡する
次に重要なのが取引先への対応です。
仕入先・販売先・外注先など、関係先をリスト化し、優先度の高い順に連絡するスケジュールを組みます。
・【最優先】金融機関・メイン仕入先・大口顧客
・【第二優先】外注先・継続契約先
・【第三優先】その他の定期取引先
連絡の順番を間違えると、噂や誤解が先行して信用を損なうことがあります。
「自分の口から説明する」ことを基本姿勢とし、できる限り訪問または直接電話で伝えるのが望ましい対応です。
2.説明内容のポイント
説明の際には、
1 廃業の経緯(後継者不在・体調・市場環境など)
2 廃業予定日と最終取引日
3 未納・未収金の整理方針
4 納品・契約終了までの段取り
を明確に伝えます。
このとき、曖昧な説明は禁物です。「来月まで営業します」「在庫は責任を持って納品します」など、具体的な日付と対応方針を示すことが信頼維持の鍵です。
3.債務整理・支払調整の進め方
取引先への支払いが難しい場合は、早めに正直に相談し、支払計画を提示します。
「誠意をもって話してくれた」ことで、猶予を受けられるケースもあります。
反対に、報告を怠り突然の未払いが発覚すれば、法的措置に発展することもあります。
株式会社事業パートナー九州では、金融機関や主要取引先との交渉も含めた調整型廃業支援を行っています。
(4)地域社会・行政・金融機関への報告
廃業は経営者と会社だけの問題ではありません。地域で長く事業を続けてきた企業であれば、地元社会や取引金融機関への説明も重要です。
特に地方銀行や信用金庫は、企業の動向を地域ネットワークを通じて把握しています。
早めに相談すれば、保証協会の活用やリスケジュール提案を受けられる可能性があります。
また、商工会議所・中小企業活性化協議会などの支援機関に相談すれば、「廃業と再生を両立する道」も見つかります。
自治体への「廃止届」や「営業許可返納」も忘れずに行うことも重要です。
飲食業・旅館業・建設業・古物商などは、法定届出を怠ると後日トラブルになることがあります。
(5)廃業後も続く「人との関係」
廃業は“終わり”ではなく、“人間関係の節目”です。経営者自身が誠意をもって説明すれば、ほとんどの関係者は理解してくれます。むしろ「最後まで丁寧に対応してくれた」と感謝されることもあります。
廃業後も、元従業員や取引先と交流を続けることで、再就職や新事業のチャンスが生まれることもあります。
実際に、廃業後に新しい会社を立ち上げ、かつての取引先と再び取引を始めるケースも少なくありません。
株式会社事業パートナー九州では、廃業後の経営者ネットワークを通じて、再チャレンジを支援しています。
「終わる」ことを恐れず、「つながりを残す」ことを目指す、それが“迷惑をかけない廃業”の真の姿です。
(6)迷惑をかけない廃業の5原則(まとめ)
1 早く伝える …関係者には早期連絡。驚かせない。
2 誠実に説明する …理由を隠さず、感謝を込めて伝える。
3 約束を守る …支払い・納品・引継ぎは期日厳守。
4 文書を残す …解雇通知・契約終了合意書を正式に作成。
5 再就職・再生を支援する …「次」へ向かう姿勢を示す。
この5原則を守るだけで、廃業は「終わり」ではなく「感謝で締めくくる機会」へと変わります。
(7)(株)事業パートナー九州のサポート体制
当社では、廃業に関する手続き支援にとどまらず、
・従業員説明用の文案・資料作成
・取引先通知文・契約解除書類の作成支援
・金融機関・仕入先との調整交渉の支援
・廃業後の再就職・再挑戦支援(M&A・新規事業)
を一体的に行っていきます。
経営者の思いを尊重し、最後まで「人間関係を壊さない廃業」を共に進める、それが当社の使命です。
経営者にとって「最後の仕事」は、会社を閉じることではなく、関係者の信頼を守って終えること。
その決断と行動こそが、次の人生を支える最大の財産になります。
当社は、経営者が“誇りを持って終えられる廃業”を、全力でサポートします。
<廃業のバックナンバー>